試合終了 袖女の部屋
「か……勝った……勝った……」
あの後、ガチガチのガッチガチになった袖女を無理矢理引きずり、袖女の部屋に叩き込んだ。
理由は、あのまま訓練所の中にいると、いざ時間が経ってようやく訓練所から出た時、この試合の中心である袖女は人の海にめちゃくちゃにされること間違いなしだからだ。
そんなことになってしまえば、面倒臭いことこの上ないので、観客たちが正気を取り戻す前に俺が袖女に一声かけ、廊下に人の海が構築される前に戻ったと言うわけだ。
そんなこんなで今現在、袖女の部屋に2人きりでいるわけだが……
「あ、あの! 私って勝ちましたよね!? 勝ちましたよねぇ!?」
「あ、ああ……勝ったぞ! だから落ち着け!!」
袖女は自分の部屋に戻って落ち着くどころか、正気を早めに取り戻したせいで、自分が勝ったことを早めに自覚し、何度も何度も俺に勝利したのが本当かどうか確認してくるという落ち着きのなさを見せていた。
(誤算だった……これならいっそのことあのまま放置して、人の海にこの落ち着きのなさを発散してもらった方がよかった……)
自分の判断ミスに悔やみながらも、今さら部屋の外に放り出すわけにもいかないので、初めて勝負に勝利した時は自分もこんな感じだったなと、18歳ながらもノスタルジーに浸りつつ、袖女を適当にあしらっていく。
「やった……勝った! 勝ったああぁぁぁぁ!!!!」
そして最後に一声叫んで数分、流石に騒ぎ疲れたのか、ハァハァという空気を肺に送り込む音しか聞こえなくなった。どうやらさっきよりは落ち着いたらしい。
(……今聞いた方がいいな)
「おい袖女」
「はぁ……はい?」
「最後の攻撃……あれはどうやってやった?」
いつもの袖女のように見えるが、まだ興奮が冷め切っていないのか、いつもよりもまだまだ強色が高い中、俺は袖女に1つの問いを投げかけた。
最後の一撃となった光弾。あれは袖女の拳から射出されたわけではなく、正真正銘、海星大河の目の前に"現れていた"。
(じゃないと、俺の視界に入らず、感じとれもしなかった理由がつかない)
俺の経験上、目では捉えられないほどのスピードで動く敵は何度も目にしたが、敵から溢れでる殺意や敵意。風の動きや経験等で、なんとなく場所を感じることはできた。
しかし、あの光弾だけは感じることすらままならなかった。
俺の人生において初めての体験。今ここで知っておきたい。知っておかなければ……
(敵対した時、こいつは大きな壁になるかもしれない……!!)
そんな目的と興味が頭の中で交錯する中、袖女が出した答えはすごくシンプルなものだった。
「なんとなく……直感でやりました」
「……直感だと?」
「はい。直感です」
まさかの直感。つまり、あのタイミングで新技が完成するかどうかは雲任せだったと言うことだ。
「……原理はなんだ? 俺の出したメモ帳か?」
「はい。あのメモの通りに……こう……拳の中でぐるぐるっと」
袖女は原理を説明しながら、わかりやすいように右手で握りこぶしを作り、オーラナックルを放つのと同じモーションを取る。
(……しかし、それでは光弾になった理由がつかない)
俺の仮説では、回転するオーラはその動きによって一点に集まり、通常よりも遥かに高い攻撃力を備えた状態で発射されるはずだった。
確かにそれは現実となったが、発射されたオーラは光り輝いていた。
(おそらくはオーラが密集したことによる影響だろうが……袖女の体内にあるオーラのみで透明だったものが肉眼で確認できるようになるほどのものになるとはとても思えない)
かくなる上は……
「袖女……あの光弾……もっかい撃てるか?」
もっと近くで、確認するほかない。
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