終盤 その2
(いける!!)
オーラナックルが私の思い通りにヒットした瞬間、私の頭によぎった言葉はその一言だった。
今の今まで、ここまで自分の思い通りにことが進むことはなかった。黒のポーンになった時も、彼と戦った時も、結果は違えど正解よりも間違いの方が多かった。
それが今やどうだろう。こちらは一撃も有効打を貰わず、海星さんを滅多撃ちにしている。
(ああ……気持ちいい!!)
私の足先から頭のてっぺんにかけて、まるで大事なテストの時に、事前に勉強していた範囲がピッタリ問題に出てきた時の気持ちよさに似たゾクゾク感が駆け巡る。
それと同時に彼に対しての嫉妬の感情が芽生える。こんな快感を今まで私に教えず、自分だけ体感していたなんて許せない。私ももっと早く知っていたかった。
「ふふ……」
海星さんには悪いが、今まで体感できなかった分、今ここでたっぷりとこの快感を味わわせてもらうとしよう。
(となると……私がこの戦いで達成すべき目標は主に2つ……)
彼に与えられたミッションである『一度も攻撃を受けずに勝利する』と、自分で自分に課した『この快感をできるだけ味わう』の2つだ。
後者はそこまで難しいことではない。問題は前者だ。一度も攻撃を受けずに勝つのはとてつもないほど難しい。こうやってオーラナックルを遠距離から発射するのも、あくまで可能性を上げるだけなのだから。
勝負の結果と内容は最後の最後まで確定しない。
が、たった1つだけ、この2つの目標を一瞬で達成することが可能な手がたった1つだけ存在する。
(日菜との試合で偶然使えた"あれ"をもう一度使うことができれば……!!)
沈みゆく意識の中、私から生まれたあの光……白のルークである日菜ですら意識を沈めさせたあれを使うことさえできれば、ダメージが蓄積している海星さんなど容易に気絶させることが可能だろう。
問題は、いかにしてあの光を生み出すかだが……
(やってやる……!!)
普段の私なら、できるかどうかわからない技を試合中に試すなんてことは絶対にしない。が、今の私は絶好調。何でもできるんじゃないかと思うほどの全能感に、自分でも自覚できるほど調子に乗っている今なら、できた試しがない技でもぶっつけ本番で完成させることができるような気がしてならないのだ。
(こういうのは一旦落ち着けってよく言うけど……今は調子に乗ったほうがいい気がする!)
人は調子に乗ると、大抵のことがうまくいかなくなる。
しかし、時として人は調子に乗った方がうまくいく時がたまに存在する。
それが今この時なのだと、何故かはわからないが、なんとなく感じたのだ。
「このまま自分のペースに持ち込む作戦は捨てます……次の一撃で決めますよ!!」
さぁ、ジャイアントキリングだ。