中盤 その7
どうぞ〜
やられた。
水の剣が目の前に現れて、一番最初に頭をよぎったのはその言葉だった。
そもそも、私を追い詰めるために行った1連の行動は、その全てに意味があり、全てが後の行動に繋がっている。まさに芸術。ダイヤモンドに引けを取らない輝きを放つ水獣も相まって、戦いが1つの劇のようになっていた。
最初の水獣召喚で、こちらの動きを制限するための犬と、土の中を自由に移動できる土竜。あえてついさっきと同じ動きをすることで、こちらの動きを予測ではなく、誘導させ、用意していたそれに対する回答を明確に出す。
そして、一見気を引くためだけに作られた犬も、一度土を通すことで通常よりも熱を帯び、空気中との寒暖差で蒸気を発生させることで一時的な霧のフィールドを作り出し、お互いに相手の姿が見えなくなるというデメリットを蛇のピット器官を使って帳消しにした。
なんとも美しい動き。私には到底思いつかないし、思いついたとしても絶対に実行できはしない。
海星大河の水獣の力だからこそできるワンオフ戦術と言えるだろう。
私もできるだけ対抗はした。少しでも見えるように、目を凝らして周りを確認し続けたし、急な蛇の噛みつき攻撃にも、彼との砂利投げ訓練で培われた攻撃察知能力でギリッギリ回避できた。
そしてその後、一安心してしまった。それがいけなかったのだ。
一安心してしまったことにより、緊張の糸が完全に切れ、せっかく身に付けた攻撃察知能力を解除してしまったのだ。
その瞬間に現れた海星さん。まるで神が海星さんを贔屓しているように、こちらの集中が切れる都合のよすぎるタイミングで剣を振るわれた。
これを受ければ、もう戦える体ではなくなってしまうだろう。
(あ……)
嗚呼、これが持つ者と持たざる者の差か。
私の頭にそんな言葉がよぎる。いつもなら、この言葉を受け入れ、潔くこの刃を受けていた。
しかし、私は知っている。
私と同じ持たざる者でありながら、醜く足掻き続けて、最後の最後には勝利を持っていく男を、私は1人知っている。
自分のためだけに、もがいてもがいて、もがき続ける。そんな美しい生き方をする男を私は1人知っている。
だから、私も……
(あんな風に……)
「なるんだ!!」
次に私の耳に響いたのは、肉を切る音ではなく、風を切る音だった。