中盤 その1
(ふむ……)
虎と不意打ちで生み出した鳥がうまく回避されたのを確認すると、海星大河は次に手のひらから水で構成された魚群を生み出してきた。
その魚群は生み出されると同時に馬鹿正直に突っ込んでいくものだと思っていたが、海星大河の指示なのか、袖女に向かっていくことはせず、左右に大きく広がり、訓練所内を埋め尽くしていく。
「うわぁ〜! これじゃあ……」
「うん……本体が魚群に隠れて……どこにいるのかわからない……」
これに対して、青葉里美と如月紫音……
(……長いな。青葉と如月でいいか……旋木天子も旋木で……海星大河は……別にいいか、この試合が終わったらもう一生関わらないだろうし)
では改めて、里美と紫音は魚群を目くらましのように考えているらしいが、おそらく違う。これは袖女のオーラによる攻撃範囲の広さを危惧してのものだろう。
実際、攻撃範囲が広い代わりに貫通力がないオーラの性質上、魚群で見える範囲全てをおおい隠すというのはとても効果的に思える。
俺自身、袖女と戦った時は、自分の服を利用して同じようなことをして撃破したので、その効果も立証済みだ。
(後は、海星大河のもう1つの狙いに気づけるかどうか……いや、気づいているかどうかじゃなくて、今はこの魚群をどうにかできるかどうかか……)
袖女からすれば、自分の限界を決めつけていた大きな弱点の1つ。ここを突破してこそ、強くなった実感がわくというものだろう。
「いえ、おそらくこれは浅間のスキルの特徴である攻撃範囲を危惧してのこと……もちろんあなた方が言ったように、自分自身を隠すと言う意味合いも少なからずあるでしょうが、1番は次に来るであろう浅間の攻撃を凌ぐためでしょうね」
「うーん! 私も同意見なんだなー!」
さすがにチェス隊の中でも上のランクの連中は、海星大河の狙いに気づいたようで、2人の言葉に指摘していた。個人的には少しばかり王馬を見直した。
「君はどう思う?」
旋木にこの行動について聞かれたので、俺も適当に言葉を返す。
「そうだな……もちろん、お前らが言ったように、本体を隠したり、浅間のスキルによる範囲攻撃を防ぐためなのも理由の1つだとは思うけど、あの行動にはもう1つ、浅間に近づくっていう理由があると思う」
「……近づく? それはどういうことですの?」
(うおっ……意外と食いついてきたな)
横から一気に食いついてきた王馬に若干驚きつつも、ここで理由を答えない必要性は無いため、食いついてきた王馬の言葉に淡々と答えていく。
「浅間はパンチやキックにオーラを乗せて攻撃するから、接近戦も得意だと思われがちだが、実のところあまり得意じゃない。実際、あいつは自分から距離を詰める戦い方よりも、相手の行動を待ってカウンターする戦い方が多かったからな」
「しかし、それと近づくという行動に一体何の関連性が?」
「わからないか? あいつは自分から距離を詰めて接近戦を行うインファイターというよりも、遠距離攻撃を行うアウトファイター向きの戦い方を得意とする。相手側も水で作り上げる生き物によっては遠距離から攻撃できるだろうが、基本的には攻撃範囲という部分に置いて、浅間の方が一歩上を行っている」
そう、この試合において問題なのが、基本的に海星大河と袖女では、射程も攻撃範囲も袖女の方が勝っているところだ。
「つまり、浅間の攻撃をかいくぐりながら、苦手な接近戦に持ち込むのはかなり難しいんだ。だから、海星さん視点からすれば、魚群で浅間側から自分が見えていない今こそ……」
「ひよりの苦手な接近戦に持ち込むチャンス……ってこと?」
「そういうこと」
答えを提示してきた旋木の言葉に、俺はすぐさま肯定の言葉を示した。
(さぁ、袖女……ここからだぞ?)
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