序盤 その1
最初は伸太視点。その後は袖女視点です!
試合開始の合図が訓練所中に響いた瞬間、袖女と海星大河は瞬時に行動を開始した。
袖女は体を後ろに移動させ、海星大河から距離を取る。
対する海星大河はスキルを発動。どこからか大量の水を発生させ、その水で何かを形作る。
「水質変形、『虎』!」
形作るものは虎。ゼリーのようなツヤに、虎特有の縞模様の代わりに泡であしらっている。
「きれい……」
観客スペースの中にいる誰かの口から、そのような言葉が溢れ出る。
実際、俺の目から見ても水で作り出された虎は、サイズ自体は普通の虎と変わらないが、戦闘用とは思えないほど美しい。美術館に彫刻品として飾られていても違和感を抱くことはないだろう逸品だ。
「あれは?」
「海星さんのスキル、『水形』だね! 水を物の形にできるんだよ!」
「なるほど……水で波を作ったりはできないのか?」
「そこまでは私も知らないけど……たぶんできないんじゃないかな?」
「私も戦ったことあるけど、水をそのままぶつけられたことはないんだなー!」
「ふーん……」
確かに水を思うがままに扱える能力だったら、白のポーン程度で数年も停滞するわけがない。今頃ルークになっていてもおかしくないだろう。
つまり、今の地位から考えてみても、水で何かを形作る能力と言うことが推測できる。
(もちろん、袖女はこの性質を理解しているだろう……後は対処法を見つけたかどうかだ)
――――
(水質変形……)
「行け!!」
水質変形について考える間もなく、海星さんは虎に攻撃命令を出す。
「さすがに速いな……」
水質変形で作り上げた生き物は、足の地面に付着する部分を、地面に触れる瞬間だけ普通の水に解除し、まるでスケートのように滑りながら高速移動してくる。
これが地味に厄介で、先ほどスケートのように滑りながら移動できると話したが、本当に滑っているわけではないため、こちらに走ってくる間に攻撃しようとしても、右へ左へと機敏に足をグリップさせ、うまいこと回避してくるのだ。
これを見るのは初めてではない。海星さんと練習試合をした時に何回も目にした。
(つまり、虎ごときで私が止められるわけないのも理解しているはず……)
水質変形させたのは虎だけではない。もっと他に、不意打ち用の水獣がいるはずだ。
私はそう思いつつ、私との距離が5メートルほどに近づいた虎に対応するため、手にオーラをまとわせた。
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