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さきゆき不安

 ハカセから送りこまれてきた情報が喉に引っかかりつつも、迎えた練習試合当日。


「ほんとに行くんですか……?」


「はいはい行くぞー」


「うええ……」


 行きたくないと駄々をこねる袖女の首根っこを掴み、訓練所へ引っ張る。袖女の言い分としては、プロモーション戦直前で自信を失いたくないそうだ。


 ちなみにブラックは置いていく。観客スペースで迷子にでもなられたら面倒だからだ。


「昨日は覚悟を決めた顔してたじゃねーか」


「朝目が覚めたら変に冷静になっちゃって……」


 全く、なんて情けない。昔の俺がこれ以下だったと思うと、昔の俺がどんだけ弱かったか実感できる。


「他でもない俺が訓練に協力してやったんだ。ポーン程度に負けるほどやわな訓練させてねえから、ほら! 努力は絶対に裏切らないって言うだろ? 俺的には絶対嘘だと思うけど」


「……それって裏切ることもあるってことじゃないですか」


「うん。だからがんばれ」


 元気付けてるのか元気付けていないのかよくわからない俺の実体験を語る。こういうのは変に理想を見せるより、優しめに現実を教えた方が立ち直ってくれるだろう。


 袖女が何故かさらに気落ちしたように見えるが気のせいだろう。うん。


「おい着いたぞ」


「う、ぐ……はい! 行ってきます!」


 袖女はその両手でほっぺたを勢いよく叩き、気合を入れ直す。自分に喝を入れた後の袖女の表情は、いつもの袖女の表情に戻っているような気がした。









 ――――

 








「おお、きたきたー!!」


「すまん。ちょっと待たせた」


 訓練所に入ると、そこには薄緑の髪でショートボブという特徴的な髪色をしたお相手さんが既にスタンバイしていた。


 その名はポーン最上位、海星大河、年齢28歳。チェス隊の中では古株で、同期に黒のクイーンや黒のルークがいる経験豊富な実力派だ。袖女情報によると、その経験からか、どこかお姉さん気質があり、周りから頼りにされているらしい。


 実力派で経験豊富と言えば聞こえはいいが、逆に言えばそれだけ時間をかけてもまだ白のポーンで足踏みしているということ。


 遥か上にいる同期との遠く離れた差、それを子肌で感じている数少ない1人だ。


「海星さん。本日はご指導のほどよろしくお願いします」


「うわ……」


(こいつ……!! さっきまで間抜けな声出してたくせに……!!)


 何という猫かぶり力。さすがは袖女。伊達に黒のポーンではないということか。


「……ほーん……ふーん……」


 しかし、海星大河はこちらをジロジロと舐め回すように見つめてくる。動物園のライオンになった気分だ。


(だいぶ舐められてるな……袖女……)


 海星大河に挨拶した袖女だが、当の本人の興味は完全に俺に向いている。どうやら、この練習試合を引き受けた理由は俺らしい。


「あのさー……1つ提案があるんだけど、いいかな?」


「……なんでしょう」


 嫌な雰囲気を感じているのは袖女も同様らしく、苦虫を噛み潰したような怪訝な表情を一瞬見せ、その提案の内容を聞く姿勢をとる。


「浅間ちゃんじゃなくてさー、私の相手は君がしてよ!」


 何の裏もなさそうな屈託のない表情で、本人の前で言うと思えないセリフを放った。


(思ったよりヤバい女やん……)



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