袖女の伸び代
今日から休日は1日3回投稿、平日は深夜に1回投稿になります。
理由としては、文章を書く時間の都合上、私生活にも影響が出始めたからです。楽しみにしていてくれた方、非常に申し訳ありません。
ですが! エタることはありえません! 毎日投稿し続けるので、皆さん、これからも応援をよろしくお願いします!!
と言うわけで本編、どぞ〜
俺の訓練相手が黒のキング……し、師匠……に変わったその日の夜。いつも通り袖女との訓練を行っていた。
(師匠って言うの慣れないなぁ……心の中で言っただけなのに恥ずかしく感じたもん)
黒のキングの呼び方に関しては、おいおい決めていくとして……
今は俺の訓練ではなく、袖女の訓練の時間だ。考えるなら自分自身のことではなく袖女のことについて考えなければならない。
(袖女には申し訳ないこともしたしな……ちょっとは真面目にやってやらないと)
袖女が名前も知らない奴だったら、ここまでしっかりと真面目に考えることもなかっただろう。しかし、残念ながら俺にとって袖女は貴重な情報源だ。こんなところで信用を失いきるわけにはいかない。
「ふっ、しっ!」
「うまいうまい。その調子だ」
袖女の方は訓練方法が功を奏したのか、俺の投げる小石を右へ左へ最低限の動きで回避していた。
少し前までは3発ほど貰っていたのだが、今では全てを回避しているのは、兵士の中では飲み込みが早い方だと言える。伊達に黒のポーンをやっているわけではないということか。
「はい終了! だいぶ良くなってきたな」
「はぁ……はぁ……はい……」
袖女は息も絶え絶えといった様子だが、こちらが話しかけると、息を切らしながらも返答した。
(話ができる位の余裕はあるか……)
最初の頃は終わった瞬間に倒れていたのに、今ではフラフラながらも立ち上がれる位までは余裕ができた。これは袖女の中で自分のスキルに対する重要度が上がった証明であり、そもそもの身体能力も上昇したことが表に出た結果だ。
(オーラを勿体ぶるようになったことも大きい)
オーラを使うことを勿体ぶるようになった。その文字だけ見ればマイナスのように見えるが、それは不必要な場面でオーラを使わなくなったということであり、日ごろの訓練によって限界量が増えたオーラに加え、本当に必要な部分のみにオーラを使うようになったことで、袖女からすればオーラの持続時間が2倍近く伸びたように感じるだろう。
そしてそれは、この訓練が意味をなくしたことを意味する。
「……もうこの訓練も飽きてきただろう。次からは違う訓練に移ろう」
「はぁ……はい……はぁ……」
俺の言うことを聞き、袖女は1人で立ち上がってヨタヨタと歩いて行く。
端から見ればあまりに痛々しいその姿を尻目に、俺は歩きながらも思考を巡らせていた。
その内容は次の訓練をどうするかというもの。
ボロボロの姿の袖女を心配するよりも、いかに袖女の体をさらにボロボロにするかを考えていた。
(単純にもっときつい訓練をするのが普通だが……もう1週間しか時間がない。ここでさらにきつくしたところで……いや、さらにきつくすることで袖女の覚醒を図るか……?)
うーんうーんと頭を悩ませ、物理的にも頭を動かし、考えに考え抜いた結果、俺は1つの結論にたどり着いた。
(……まずは強くなっている自分を知ってもらうことから始めるか)
その後の訓練内容はともかく、強くなった自分を自覚することは、自信と傲慢さを身に付けることができる。
戦闘において、自身や傲慢さはイコールで強さにつながる。後ろ向きな気持ちで挑んでいては、実力の半分も出せないからだ。
(勝つにしても負けるにしても、どうせなら100パーセントの力を出して戦って欲しいからな)
プロモーション戦に向けて、少しでも前向きな考え方をしてほしい。
そのため、自分の今の力がはっきりとわかる相手を用意し、勝ってもらう必要がある。
それにうってつけの相手は……
「おい。袖女」
「はぁ……はぁ……はい?」
「明日、ポーンの誰かと試合をするぞ」