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届かない高き壁

 黒のクイーンとの対談から1週間後、俺は袖女との訓練をこなしつつ、白のキングとの訓練を続けていた。


「ふっ……ぐ……」


「どうした? その程度の動きでは俺にかすり傷すら与えられんぞ?」


 最初こそ、いつか倒してやると意気込んでいた俺だが、1週間たっても与えられた傷は黒剣の一撃のみ。しかもかすり傷というていたらく。


 いつまでたっても与えられないダメージ。余裕そうなおじいさんとは対照的に、どんどん消耗していく自分。


「このぉ!」


「ほいっと」


 そんな自分に嫌気が差し、おじいさんに無造作なパンチを繰り出すが、考えなしの一撃など白のキングであるおじいさんに決まるはずもなく、目の前で瞬間移動することなく、体を逸して回避されてしまった。


「ぐっ……が……?」


 次なる一撃を加えようと、もう片方の腕を振り上げようとすると、急に体から力が抜け、パンチの勢いのまま、俺の体は仰向けに倒れた。


(……っ! まだ!)


「やめておけ。それ以上やると体を壊すぞ」


 まだやれる。俺はその意思に従い、限界だと叫ぶ体を無理矢理持ち上げようとしたが、おじいさんから聞こえたその一言をきっかけに、体が完全に動かなくなった。


「ぐう……くそ……」


「最初はともかく、体力が減ると攻撃が無造作になるのが良くないのう。そのままでは防御系スキルを持つ相手には体中が疲れてしまうぞ。今後の課題はそれじゃな」


「……ああ」


 おじいさんに起こしてもらった体に、持ってきてもらった天然水を流し込みながら体の状態を確認する。


 確かに強くなってはきている。神奈川派閥に来た時のような停滞感は感じない。間違いなく成長している。


 ……だが、いつまでたっても目の前のおじいさんには勝てない。ちょっとお世話倒れそうなヨボヨボの体が、戦闘中は力士と勘違いするぐらい大きく感じる。


(それくらい差があるってことか……!)


 ネズミが1週間トレーニングを積んだところで象には勝てないように、俺というネズミがちょっとやそっと訓練を積んだところで、派閥最強は揺るがないらしい。


「……上等」


 強くなっている実感がわかない。だが、心のろうそくに灯った炎が消えることは無い。むしろ高揚する。ここまで心躍る体験ができているのは、戦闘中以外では初めてだ。


「……じゃあ、また明日……」


「……あ、ちょっと待ってくれ〜」


 明日はどういった対策を立てようか、そう思考を巡らせながら帰路に着こうとすると、おじいさんが後ろから声をかけてきた。


「どうした? 珍しい」


「うむ。ちょっと報告しとかねばならんことがあってな」


 おじいさんのその神妙な顔付きから、その報告はマイナス寄りな報告だということが察知できた。


(何かあったのか……?)


 食事のお誘いのような軽いものではないことを感じ取り、こちらも話を聞く態度を普段の状態から真剣モードに切り替える。


「実は……これから1週間、仕事が入ってのう……訓練してやれんのじゃ……」


「……マジか」


「残念ながらマジじゃ……今まで隠していた資料が黒のクイーンに見つけ出されての……」


 それを聞き、俺は少なからずショックを受ける。

 

 現在、神奈川派閥ではおじいさんとの戦いでしか強くなっている感覚を体験できない。そんな重要な時間が完全に消えてしまうのは、俺にとって大きな損失だ。


 明日からどうしようか、思考を巡らせようと――――


「じゃが安心せい! 代わりの人物を用意しておる!」


 ――したが、聞こえてきたその言葉に、俺の脳は一気に書き換えられる。


(代わりの人間? 白のキングの代わりになる人間なんて、いるはずが……いや)


 1人だけいる。神奈川派閥の中でたった1人、白のキングと対を成す存在が……たった1人だけ。


(まさか……)


 俺の中に思い浮かんだたった1人の人物、妄想に過ぎないその考えに、ゴクリと生唾を飲み込む。


 そしてその妄想は、見事に現実となった。


「明日から俺の代わりに黒のキングが来るからの、準備しておけ」


「……っ! ああ!!」


 黒のキング。白のキングに負けずとも劣らないそのビックネームに、俺は心を震わせた。

 








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