全員集合
「……あ? なんか増えてね?」
相談室から出て、口から飛び出した第一声はそれだった。
何せドアの前の廊下が20人以上の人で埋まっていたからだ。
その中には、どこかで見たことがあるような人物から全く見に覚えのない人物まで多種多様。中にはひと目見ただけで強いとわかるようなポテンシャルを有している人物もちらほら確認できた。
「……凛、これはどういうこと?」
俺と一緒に相談室から出た黒のクイーンが事情を知ろうと黒のルークに問いかける。
「はい。最初は私と浅間ひより、そして犬のみだったのですが……どこから聞いたのか、この部屋に斉藤様がいると知っていて、とんとん拍子に数が増えてしまい……」
「……なるほど。チェス隊が全員集まっているのはそういうことね」
(……これがチェス隊?)
確かにポテンシャルを感じる人物はちらほらいるが、それ以外はまちまちって感じだ。神奈川派閥の最高戦力と言えるほどの能力があるとは到底思えないが……
(……俺が強くなりすぎたってことなのか……? それなら喜ばしいことだが……)
とりあえず、俺はスマホを取り出し、操作するふりをしながらスマホのメモに文字を打ち込む。
(よし完成)
「おい浅間。やることは終わったし、とっとと行くぞ」
「え、あ――――」
袖女の手を握り、人ごみの中から引っ張り出したその瞬間、袖女にしか見えないようにスマホの画面に表示されているメモを見せた。
「――!!」
(頼む。気付け)
そこに書いたのは、『黒のクイーンに後をつけられる可能性がある。2人で帰りつつ、お前だけ自室に戻れ』という言葉だ。
わざわざ『2人で帰りつつ』と書いたのは、対談する前に起きた騒動から抜け出すため、付き合っていると思わせる匂わせをした。
もしかしたらだが、噂が1人歩きし、チェス隊メンバーにも知られている可能性がある。その場合、別々で帰ろうとしたら、2人で一緒に帰らないのかとダルがらみされるかもしれない。
いつもならさほど問題はないが、ここには黒のクイーンがいる。返答次第では何かしらのヒントを与えてしまうかもしれない。
(それに……めんどくさいしなぁ)
女のダルがらみは非常にめんどくさい。ならば周りが望んでいることをこちらが率先してやってしまった方が変に絡まれにくい。
「……わかりました。いきましょうか」
俺の狙いに気づいたのか、袖女は抵抗せず、俺の後ろを歩いて行く。
「ワン! ワウウ!!」
「ん? どうしたブラック……ああ」
当たり前にブラックもついてきているものだと思ったが、犬であるブラックは女たちに揉みくちゃにされていた。
当然、俺はそれを見過ごすわけもなく、ブラックを抱いている女に近づき、離してくれと頼む。
「悪い。それ俺の犬なんだ。離してやってくれないか」
「え……あ、はい」
女は俺の言葉に素直に従い、名残惜しそうにブラックをこちらに手渡してくる。
(……ん?)
この女、さっきからこちらの顔を見定めるようにジロジロと眺めている。
普通はしないその行動に、俺は少し不気味さを感じた。
(さっさと離れるが吉だな)
俺は普段より少し速足でそこを離れた。