対談 その7
「王馬……王馬沙月のことよね? 彼女とは神奈川兵士になったその日に戦って勝利したとは聞いているけど……それの何が問題だというの?」
あまりにも予想通りすぎるその言葉に、俺は思わず口角を釣り上げそうになってしまう。予想通り、黒のクイーンは周りの注目度にそんなに詳しくないらしい。
「問題大ありだよ。今日神奈川兵士になったばかりの男が白のビショップに勝ってしまったんだからな」
「……だから、それの何が……」
「……え?」
(……マジ?)
長いこと黒のクイーンを続けてきた反動で、他人の目には疎くなってしまっていることは予想の範囲内だったが、まさかここまで説明しても理解できないほどの重症だとは思わなかった。
「……はぁ」
「む……何かしらそのため息は」
「ため息も出すわ……あのな、チェス隊でない神奈川兵士にとって、チェス隊、しかも白のビショップっていう、上から数えた方が早いランクの実力者はどう見える?」
「そりゃあ……憧れの的でしょうね」
「じゃあそんな憧れの対象が、どこの出かもわからんぽっと出の男に倒されたらどう思う?」
「……あの男は何者なんだって思うわ」
「それは自分自身が強かった場合の感想だな」
黒のクイーンの的外れすぎる回答に、俺は少し皮肉じみた言葉を送る。その言葉が不快だったのか、黒のクイーンは眉をひそめた。
俺は黒のクイーンの機嫌を気にせず、淡々と言葉を述べていく。
「自分がもし弱くて、憧れの的が倒された時、普通ならこう思うんだよ……『なんだあいつ、新入りのくせに』ってな」
「…………」
黒のクイーンは俺の言葉を否定することなく、黙って話を聞いている。
「たった1回の戦闘では、いくら強くても周りには伝わりづらい。だから集団で戦えば勝てるんじゃないかと思ってしまう……それで始まるんだよ。気に入らない奴に対する集団いじめがな」
「……!」
「理解してくれたか?」
そう、これは俺の経験談をもとに話している。あの日、桃鈴才華と親密な仲だった俺を、周りの人間が不快に思い、始まったいじめ。俺にとっては耐え難い、思い出したくもない負の歴史。
「……なるほどね。そのまま施設に部屋を借りると嫌がらせが始まると思ったから、部屋を借りなかった……そういうことね」
「ま、そんな感じだ。納得してくれるだろ?」
「……そうね。文句はないわ」
黒のクイーンは観念したように目を閉じる。
人間はこの手の話に弱い。その人間が強い弱い関係なく、相手に気をつかってしまうものだ。その人間的心理を利用し、黒のクイーンを引かせることに成功した。
(それにしても、久々に誰かに話した気がする……)
今考えてみれば、あれは今までの自分を壊すと同時に新たな自分を目覚めさせてくれた。
それと同時に与えてくれたのだ。
決して忘れてはならない憎しみを。
「じゃあ、最後に……あなたは何者なの?」
黒のクイーンから投げかけられた最後の質問。俺はそれに対し、座り込んでいた1人用のソファから立ち上がり、さも当たり前かのように言葉を返した。
「俺は……復讐者だ」
黒のクイーンは何か察しがついたみたいですよ……?
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