対談 その3
さっきの問答により、手にした情報は2つ。
1つは俺の話したスキル情報に間違いはないと言うことだ。
さっき俺は、『この狭い空間の戦いでは、俺の方が有利だ』と言った。
それに対し、黒のクイーンは指摘することなく、『ええ……そのようね』と返答した。
これは他でもなく、黒のクイーンの能力は狭い部屋で使うべき能力ではない。威力が高すぎるか、射程範囲を縮めることができないかの2択にまで絞り込めた。
そこに、俺がグリードウーマンを倒した後に受けた黒のクイーンのスキル攻撃の体験をプラスすると……
(……あの時、攻撃を受けていたのは俺だけだった……つまりスキルの攻撃範囲を俺1人にとどめることは可能と思われる)
となると、黒のクイーンのスキルは、威力が高すぎて、この狭い部屋では使えないと推測できる。
この情報はかなりでかい。俺のことを怪しいと考えている以上、キングになることを阻止しようとしてくるだろうし、直接戦おうとしてくる可能性だってある。そういう時、威力が高すぎて自分でも制御できない部分を知っていれば、やれることがかなり増えてくる。
例えば、そのせいで生まれた瓦礫を盾に使ったり、反射の足場にしたり……対戦相手のスキル情報を事前に入手できているというのは、スキルが主な攻撃手段となる戦場において、凄まじいアドバンテージだ。
(そして、重要なのがもう一つ……)
先に話したスキル情報はあくまで未来、この先役に立つ情報だった。
しかし、次の情報は違う。今この場で効力を発揮できる情報だ。
それは今、黒のクイーンは孤立しており、ボイスレコーダーの模型を持った俺に問答以外の行動ができない点だ。
さっき、黒のクイーンは明らかにボイスレコーダーの模型をなんとか奪い取ろうとして、ボイスレコーダーの模型がある俺の手の中をチラリと見た。
しかし、俺の話を聞き、折れることを決断した。
これは、黒のクイーンはフィジカル……つまり、近接戦闘が得意ではないことの証明。
それと同時に黒のクイーンは正真正銘1人の状態でここにいるということだ。
なぜ1人だと思ったのか。それは単純明快、俺がボイスレコーダーを持っているぞとバラした時、黒のクイーン以外にボイスレコーダーの模型を奪おうとした人物が現れなかったからである。
この話を聞いた時、そんなの当然じゃないか、この部屋には黒のクイーンと俺、田中伸太しかいないんだから……と、そう考える人がいるかもしれない。
だが、この部屋には黒のクイーンと俺しかいない……その固定概念が危ないのだ。
黒のクイーンからすれば、この対談は俺の正体を見破るための重要なイベント。絶対に成功させたいはず。なら、伏兵の1人や2人、隠れていてもおかしくはない。
そして、俺がボイスレコーダーを持っていると宣言し、ポケットから外に出したタイミング。あのタイミングこそ、黒のクイーンにとっての最大のピンチ。伏兵がいるなら、あのタイミングで俺から奪いに来るのが最もベストな選択だった。
なのに現れないということは、今この部屋には俺と黒のクイーンしかいないという証明。おそらく、ドアの前にいた黒のルークにすら、対談する内容は明かしていないのだろう。
(この舌戦……現時点で俺が有利だぜ!)
内心ほくそえみながら、俺は次の質問を一言一句、聞き逃さないように耳を傾けた。




