長いようで近く
「お待ちしておりました」
神奈川本部、黒のクイーンに指定された相談室のドアの前、そこには白髪ロングに鋭い切れ目が特徴的な美女が立っていた。
「……失礼ですけどどなたで?」
すると、白髪ロングの美女は一礼した後、目線を俺の目に合わせてくる。
「申し遅れました。私は黒のルーク、天地凛と申します。どうぞお見知りおきを」
「……どうも」
(黒のルーク……ってことは、王馬よりも地位は上か)
つまりこの子も、見た目とは裏腹に凄まじい強さを持っているということだ。全く、どうなってるんだこの世界は。
「それと……田中伸太様以外の方は入室できません。ご容赦ください」
黒のルークはそう言いつつ、チラリと袖女とブラックの方に目を向ける。
(なるほど、完全な俺と黒のクイーンの対談というわけか)
俺的には全然構わないのだが、袖女は不機嫌そうに反論する。
「私は斉藤さんと彼との仲介役として呼ばれています。犬はともかく、私にも入る権利はあるかと」
「いえ、斉藤様は田中様と1対1の対談を望んでおられです。仲介役で呼ばれているとおっしゃりましたが、それはあなたの聞き間違いでは?」
「……言うじゃないですか」
「ええ、私の方が強いので」
袖女と黒のルークの間に火花が散る。人同士の言い合いには何度も遭遇したが、女同士のバチバチは中々見ない。お互いに俺が見ているのを気にしているのか、敬語を崩さないところにも不気味さを感じる。
「おい。大人気無いぞ」
「……申し訳ありません。少し取り乱してしまいました」
黒のルークに対し、少し威圧しながら言葉をかけると、自分が何をやっているのか理解したのか、崩れない鉄仮面をこちらに向け、謝罪の言葉を投げかけてくる。
「袖……浅間もだ。俺は1人でもかまわん。ブラックと一緒にドアの前にいろ」
「……わかりました」
「ワン!」
俺の言葉を聞き、しぶしぶ了承する袖女と、最初から何も異論がなさそうなブラックが返事がわりに鳴く。
「これでいいだろう? 中に入れてくれ」
「はい……では」
黒のルークが相談室のドアを開ける。
「……行ってくる」
その一言だけを放った後、後ろを振り向かずにドアの奥へ歩いて行く。
そこにいるのは……
「……待ってたわよ」
「ええ……」
黒のクイーンだ。
正体がばれるかバレないか、一世一代の対談が始まる。