休んだ後には仕事が待っている。この世の真理
次は深夜デーす!
神奈川本部の騒ぎが冷めるまで、喫茶店でつぶしていた俺たちだが、袖女のスマホから鳴り響いたアラームにより、そんな気持ちのいい時間は終わりを告げた。
「っと、すいません。ちょっと……」
袖女はアラームが鳴り続けるスマホを手に持ち、カウンター席から少し離れて電話に出た。
「はい。もしもし……はい。はい……」
袖女が電話に出ている間、マスターが口元に片手を近づけ、ホース状に変形させて袖女に聞こえないように声をかけてきた。
「……ところで、本当のところはどうなんですか?」
「ん? 本当のところとは?」
マスターの質問の意図が理解できない。ここ数時間の記憶を遡り、脳の中を探るが、マスターの気になりそうな発言は見当たらなかった。
「彼女ですよ彼女!」
「ああ……」
喫茶店に入った時、マスターが放ったあの一言。俺は冷やかしだと思っていたが、どうやらマスターにとっては本心から放った言葉だったらしい。
(マスターって意外と恋愛脳なのか)
というか、この話にどこか近視感がある。どこかで同じような質問をされたような……
(……あ、確か大阪派閥で……)
大阪派閥にいた時にお世話になった古着屋のおばちゃん。あのおばちゃんにも袖女を連れてきた時、同じ話をされた。
(ま、男女が2人で店に入ってくるんだから、そう思われても仕方ないか)
「全然違いますよ。ただの連れです。ここの料理とコーヒーがおいしかったから、彼女にも知ってほしいと思いまして」
マスターはその話を聞くと聴くと、アゴに手を当て考え込む仕草をとる。
さすがマスター。渋い。動きの一挙動一挙動がどうしようもないほどダンディズムだ。
「……なるほど、今はそんな状況なんですね」
「なんですか、今はって」
「今は」という言葉に少しむっとした俺は、思わず言い返してしまう。
そんな俺を見て、マスターはクスリと笑った。
「……む、なんで笑うんですか」
「いや……彼女も大変だなぁと思いまして……お」
「戻りました」
話の途中に、マスターが何かに気づいたような素振りを取る。それと同時に斜め後ろから聞こえてくる袖女の声。どうやら電話が終了したようだ。
「何の電話だった?」
その問いに、袖女は俺を見て――――
「お呼びです」
「……了解した」
その一言で全てを察した俺は、席を立ちレジへ移動する。ブラックを呼ぼうと後ろを振り向くが、既にブラックは俺が帰るのを察していたのか、俺の隣をてくてくと歩いていた。
(さすがに長いこと一緒にいるだけはあるな)
「お帰りで?」
「ええ……」
「少し美女と話してきます」