うまいみせ
「ここが……」
「そうだ。この喫茶店の料理がうまいんだ」
ビルから目指した時から数分とかからず、俺たちは例の喫茶店にたどり着いた。
「ワン!」
ブラックは飛行中にようやく目が覚めたらしく、目が覚めた瞬間、地面が遠く離れていることに困惑していたが、俺が持ち上げているものとわかると、すぐに冷静になり、腕の中でおとなしくしていた。
「ずいぶんと……味のある外見ですね」
「……まぁ言いたいことはわかる」
他の子綺麗な店とは違い、この喫茶店は木製の建物にいろんな植物のツタが這い回っている。庭にも無雑作に花が設置されており、少なくとも入ってみたいと思えるような外見では無いことは確かだ。
しかし、そんな外見とは裏腹に、その味は本物。そこまで舌が肥えていない俺ですらおいしいと感じるほどだ。袖女もこの喫茶店の料理を1口でも口にすれば、毎日通ってしまうかもしれない。
「まずは入るところからだ。外見で判断するのはよくないぞ?」
「……そうですね」
「ワン!」
俺とブラックは何度もこの店に通っているため、この外見に抵抗はないが、初めて来る袖女には、いささか抵抗感を覚えさせてしまったらしい。足取りが少し重い。
汚めな外見が、この喫茶店に人が来ない理由の大きな1つとして存在しているのだろう。
(……ま、その方が物静かで落ち着くからいいんだけど)
神奈川派閥を利用して戦争する時は、この喫茶店のマスターだけでも守れないだろうか。一瞬そんな考えが頭をよぎったが、喫茶店などの店のマスターには、その店に強い思い入れがあると聞く。こだわりが強そうなマスターのことだ。この店からテコでも離れようとしないだろう。
俺はそんな考えを胸に抱きながら、他の店と比べて少し重めなドアを開け、喫茶店の中に入る。
「いらっしゃい……お久しぶりですね」
「どもども」
ここ最近は袖女に料理を作ってもらっていたので、マスターの渋い顔を見るのも久しぶりだ。思わず新鮮な気分になってしまう。
「おや……?」
「お、お邪魔します……」
当然だが、マスターと袖女は初対面だ。マスターは袖女を少しの間見つめるが、袖女はその逆、マスターから目を逸してしまっている。意外と人見知りなのかもしれない。
「彼女さんで?」
「違います!」
マスターが俺の彼女かと問いかけ、袖女がそれを否定する。どっかのアニメで見たありがちな展開が展開され、少し嬉しい気持ちになってしまった。
「コーヒー2つとサンドイッチ。後、ブラックにドッグフードを」
俺は慌てる袖女を無視し、マスターに注文を入れる。
「了解致しました」
「ちょっ……あなたも否定してくださいよ!」
「いいのか? マスターに面白がられるだけだぞ?」
そんなたわいのない会話をしつつ、俺たち2人と一匹はカウンター席に座り込んだ。
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