彼女匂わせ
おおおお!!!!
めちゃくちゃ怪訝そうな顔で「正気ですか?」とか言われた。
いつもならこのまま舌戦を展開するところだが、場所が場所だ。こんなところで言い合いなんて始めてしまったら最後、周りからヤジを飛ばされて、黙らせるどころか激化とすること間違いなしだ。
(元はと言えば俺のミスだし……それに……)
自分で言っといてなんだが、俺でもこの作戦はどうかと思う。だが、だからといって違う案を考えようとして時間を使いすぎてしまうと、しびれを切らした女どもが我慢できずに押し寄せてくる可能性がある。そうなってしまえばもう止めようがない。
「俺だってこんなの嫌だよ! でももうこうするしか思い浮かばないんだ」
「もっと他の案はないんですか?」
「他の案があるんだったら使ってる。それともなんだ? この360度人間に見られている状況でかつ、短い時間でお前はこの場を切り抜ける案を思いつくのか?」
「それは……無理ですけど……」
そもそも、俺が帰る前に袖女がいたにも関わらず、この騒動が続いていたということが、袖女1人ではこの人だかりをなんとかすることができない何よりの証拠。そして俺も思いつくのはこの案のみ。これ以外となると、この状況では数分時間を使うだろう。
ならもう、事前に考えていたこの案しかない。できれば……というか、絶対使いたくなかった秘策。もしかしたらさらに盛り上がってしまう可能性もある博打。後遺症が残るとかそういうのでも、疲れるというわけでもない。少し社会的にダメージを負うだけだ。
「後でいくらだって言うこと聞いてやるから……頼む」
「……!」
言ってることが頭おかしいのは理解している。被害者のはずの袖女に、一時的にではあるがとんでもない縛りを貸してしまうことも。だが、こうしないとどうにもならない。
後でこいつに何をされてもいいから、ここはなんとしても切り抜けなくては。
「……はぁ」
俺のその言葉に少し目を見開いた後、袖女は観念したようにため息を一息つく。
「……わかりましたよ」
「ありがと。助かる」
「……もともと、あなたを部屋に入れた時からこうなることは覚悟してたわけですし……あなたを不用意に部屋に入れた私にも責任はありますから」
(よし! これなら……!)
「……何でもやるって言ったこと、忘れないでくださいね?」
「わかってるって!」
そうと決まれば話は早い。俺たちは向かい合って話すことを止め、女どもの方に目線を移し、さっきとは対照的に、大きめの声で全員に聞こえるように話しかける。
「あー……みんな、俺たちは……」
俺はそう言いつつ、袖女の肩を抱き、こちらに引き寄せ一言。
「……こういう中だから! そゆことで!」
そう吐き捨てた後、女どもの反応を待たず部屋に入り、一気にドアを閉めてロックをかける。
「よし行くぞ!」
後ろから聞こえる悲鳴を無視し、袖女とブラックを抱えて部屋の窓から外へ出た。
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