やらかした
人混みに紛れた無数の目が、一斉にこちらをとらえた瞬間、鼓膜を跡形もなく破壊するほどの甲高い声が響き渡った。
「うるっせえ……!」
俺は反射的に耳を塞いでいたため、何とか鼓膜が破れずに済んだが、ブラックは前足が耳に届くのが一足遅かったらしく、女たちの超音波攻撃をもろに受けて体を痙攣させていた。
(なんだってんだ一体……)
俺がこの階に現れてから少したつというのに、女どもはいまだにギャーギャーと騒ぎ立てる。このままいけば、窓に使われているガラスが割れるんじゃないかと思うほどだ。
(ちっ……)
しかし、今の女たちは興奮しすぎて、叫び声だけでは高ぶった気持ちを発散できなかったらしく、その叫び声とともにこちらに走ってくるという頭のおかしい行動に出始めた。
「は!? マジでか!?」
まさかここまで冷静じゃないとは思わなかったので、俺の中ではこの行動は予想外の展開だった。思わず空気反射を発動し、発生した風で女たちを止めてしまう。
(しまっ……いや、もうどうだっていい!)
犯罪者相手や訓練所以外でスキルを人に使うのは避けたかったが、もうここまできたらどうだっていい。今はこの事態を切り抜けるのが先決だ。
俺はいまだに痙攣しているブラックを担ぎ、反射を発動。人混みでぎゅうぎゅうに詰まっている廊下の中で、唯一空いている天井付近を狙いジャンプする。
(ここで……!)
腕の中にいるブラックの体毛を一本引き抜き、それをエリアマインドで操作し足の裏にセッティングする。
「よし!」
俺はエリアマインドで、足の裏に保持したブラックの体毛を使い、久々にダストジャンプを発動。自分の足の裏に体毛を保持しているため、半永久的に飛ぶことができる。
いわば何度も使うことができる無限コンボ。このタイミングで突発的に思いついた付け焼き刃の戦法だが、思いのほかうまくいった。戦闘での使用を検討してもいいかもしれない。
そんなこんなしているうちに、袖女の部屋の前に到着。そこは特に人が密集していて、あそこが人混みの中心だなと遠目ですぐにわかった。
そこには予想どおり、袖女が部屋の前で人の海をせき止めていた。
「おい! 袖女! ……ごふっ!?」
袖女を呼びながら近くに着地すると、袖女はとたんに涙目になり、俺の腹に一撃ぶち込んできた。
「ぐおっ!?」
(何すんだこいつ!?)
腹に一撃殴られたことで、俺も少しパニック状態となり、袖女の方を見て言葉を放つ。
「何すんだ!!」
「何すんだもこうしたもないですよ!! これどうしてくれるんですか!!」
袖女はそう言いながら、1枚の写真を投げつけてきた。俺はそれに対して怪訝な表情をしながら、ピンセットでつまむような優しい力で写真を持ち上げ、そっとそこに写っているものをチェックする。
そこには……
「……マジか」
そこには、袖女の部屋のドアから堂々と廊下に出る俺が写っていた。
「ほんとにどうするんですか!! ねぇ!!」
袖女の必死の叫びをよそに俺はとあることについて考えていた。
(これ俺が100パーセント悪いじゃん……)
どうやら、俺が袖女の部屋から出て行くというのは、思ったより騒動になる出来事だったらしい。
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