一つの懸念点
最初は1人称視点ですが、途中から3人称視点になります。ご注意ください。
「くそっ!!」
もともと、この作戦を実行するにあたって、1つの懸念点があった。
それは黒剣を投げるコントロールだ。俺には球技経験がないため、俺に狙った場所に正確にぶつけられるコントロールはない。
エリアマインドである程度は調整は可能だが、俺のエリアマインドは藤崎剣斗が持つ完璧なエリアマインドではない。あくまで俺の持つエリアマインドは力の一端。藤崎剣斗の持つエリアマインドには遠く及ばない。
射程範囲が1メートルにも満たない以上、その射程範囲を黒剣が超えてしまうと、もう俺にできることは何もない。風の抵抗等で少しでも狙いがぶれてしまえばそこまでだ。
今回は、それがもろに出てしまった結果と言える。
「……危なかった。本当に」
「けっ……避けといてよく言うぜ!」
「いやマジで危なかったぞ。気づかんかったもん」
俺は足でブレーキをかけ、速度をゆっくりと緩めて着地する。
欲を言うならここで決めたかったのだが、そううまくことは運ばないということか。
しかし、それでこそ倒しがいがあるというもの。
俺は体勢を立て直し、おじいさんの方へ攻撃の構えをとる。このおじいさんのスキルの関係上、防御の構えを取るのは無駄な行為である。なぜなら攻撃の出所がわからない以上、防御のしようがないからだ。
故にこのおじいさんの対戦相手は常に攻撃の構えを取らなければならない。それ以外の手は存在しない。それ以外をしてしまえば、また昨日のようにハメ技を決められる。
「こんのぉ!」
そのままおじいさんに突撃するが、なんなく回避される。
「どうした? そんな無策な突進は通用せんぞ?」
「あんたが目的じゃねえんだよ!」
俺はおじいさんが消えてなくなった場所に移動し、その先にある黒剣を手に持つ。
「なるほど、無策で突進してきたのはその剣を取り戻すためか」
「まぁな」
現時点で有効打を唯一与えられたのは、この黒剣による一撃のみ。とても不服だが、俺はそれにすがるしかない。
「怪我しないようにの?」
「そっちこそ!」
戦いは続いていく。
――――
一方その頃、黒のクイーン、斉藤美代は執務室で鼻歌を歌いながら仕事をこなしていた。
「ふんふんふ〜ん」
「? どうしたのですか? やけに上機嫌ですね」
いつにも増して上機嫌なことを感じ取ったのか、斉藤美代の仕事を手伝っていた天地凛が問いかけてくる。
「そう?」
「ええ、いつにも増して」
天地凛のその言葉に、斉藤美代は考え込むような仕草をとった後、一言言葉を述べた。
「んんー……今日で胸の中にあったわだかまりが溶けるから……かしら?」
「……っ!! なるほど……!!」
天地凛はその話を聞いた後、顔を若干強張らせながら仕事を続けた。