思考を凝らして
俺の急激な加速に、おじいさんは想定よりも早めに瞬間移動を使ってしまった。それには他の手段があったのではないかという思考はなく、おじいさんからすれば反射的にこうなってしまったと感じているだろう。
(それが……狙いなんだよな!!)
おじいさんが瞬間移動した瞬間、さっきまでいつも以上のスピードだった俺の速さがぐんと遅くなる。
瞬間移動してしまったおじいさんがどこにいるのかまだわからないが、もし俺を見ているのなら、驚愕の色をした目をこちらに向けていることだろう。
そもそも、俺の速度が増した原因は体をバネ化させたことだけだ。別にスキルを使っているわけではない。誰でもできる普通の要素を入れただけだ。故にその加速量はとても微量。俺たちのような高レベル同士の戦いでないと影響を発しないようなその程度の変化だ。
そしてその程度の速度が最後まで持続するわけがない。いたはずだ。あくまで加速力だと。
つまり、おじいさんを騙すために、加速量など微量でよかった。最高速を上げる必要はない。あくまで加速力だけで十分だ。
その後、俺の速度は遅くなる。それがとても好都合なのだ。
(その分、周りを確認できる時間が増えるからなぁ!!)
速度を落としてできた猶予時間。これを有効に使って目と頭を動かし、しっかりチェックしていく。
(……右か!)
瞬間移動した後のおじいさんを発見できた場所は、俺から見て右。場所は確認できた。後はそこに攻撃を加えるだけ。
と、いっても遅くなったとはいえ、俺のスピードはかなりのものになっており、急な方向転換などできはしない。無理矢理しようものなら、腰があの世に行ってしまう。
道具が必要だ。このタイミングでおじいさんに飛ばすことができる武器が……
(……あるんだよ。長い間あっためといたやつが!)
俺は右手を掲げ、アレが出てくるように念じる。
「来い!」
右手の先に現れたのは、黒い西洋剣。神奈川派閥から大阪派閥に移動するタイミングでハカセに貰ったウルトロン製の逸品だ。
ただ、接近戦を得意とする俺の戦闘スタイルに合わなすぎるのと、単純にこれを使うほどの戦闘が最近起きなかったことで、俺自身、存在を半分ぐらい忘れていた。
しかし、やっとこの剣を使うに値する敵が現れた。
ここで使わずしていつ使うのだ。俺の手にある唯一の飛び道具。その力を今ここで解き放つ時だ。
「くらえ!」
そのまま右手でおじいさんに発射する。今までとは違い、エリアマインドで勢いを殺さず、ものすごい勢いで発射された。
その一撃は、おじいさんの頭の真横を掠め、ほっぺたに切り傷を作った。




