トップとの戦い
音を置き去りにするレベルの超スピードで拳を何度も激突させる。
それは比喩表現でも何でもなく、本当に音を置き去りにし、拳が激突した後に轟音が鳴り響いていた。
「……チッ」
「ほほほ……」
拳が交錯するたびに仕切りが震える。地面が隆起する。的に使われているガラスが粉々に砕けちる。
高いレベルの戦いをしているからか、他の来た人たちの視線は俺たちに釘付けだ。
(悪い気はしねぇ……)
「なァ!!」
一旦戦いをリセットするため、片腕でおじいさんを薙ぎ払うように弾き飛ばそうとするが、おじいさんは当たり前のようにその場から姿を消し、気がつけば後ろに下がっていた。
「と、危ない危ない……もう少し早ければ立っていたかもしれないのう」
「うそつけ!!」
ワンクッション置いた後、足を畳み体を縮こませ、闘力を全身にめぐらせる。
(全身の身体能力上昇……!)
それに加え、足に反射を発動。少し離れたおじいさんの下へと一気に接近する構えだ。
「ほう……」
(……やっぱばれてるか)
体を縮こませクラウチングスタートのような姿勢をとっているのだ。おじいさんにばれて当然だろう。
このままでは回避されてしまうのがオチ……だが。
(これに……体のバネを……!)
反射でおじいさんの下に向かって行くのに合わせて、足の関節を中心に体をバネのように曲げる。関節をバネにするのではない。体全体がバネになったイメージだ。
「むぅん!」
それによって生まれる爆発的な加速力。いつものスピードとは明らかに違う勢いでおじいさんに向かっていく。
そして、その加速力にさすがに面食らったのか、おじいさんの眉がピクリと動く。
さて、ここでおじいさんの視点になって考えてみよう。
現在、俺の予想以上のスピードを見て、おじいさんは早めの判断を迫られている。
おじいさんにはあの瞬間移動がある。あれを使えば回避は容易だが、あまりにも早いタイミングで回避されてしまうと、俺に場所を察知され、また攻撃を仕掛けられる。おじいさんとしては、瞬間移動した後はワンクッション置きたいはずなので、ギリギリの回避がしたいところだ。
なのに想定にない俺のスピードに、一瞬しか考える時間がない。反射的に俺のスピードを予測し、早めの瞬間移動してしまうはず……いや。
(する!)
そう考えた瞬間、まるで俺の考えと呼応するかのように、おじいさんの姿がチリとなって消える。
「へっ……」
それが俺の狙いだと知らずに。
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