少し前、袖女視点 その2
夜にまたね
仁王立ちで私の前に立ち、怒りを隠そうともせず私に怒号を浴びせてくる。私はドアを開けようとした瞬間、彼のそんな姿が目に浮かぶようにイメージできていた。
だが、実際はどうだ。
(寝てる……)
彼は私の前で仁王立ちするどころか、すうすうと寝息を立てて、ソファでぐっすりと眠っている。
「…………」
本来なら起こすべきだし、彼も起こされることを望んでいるだろう。
ただ、なぜかその時の私は、彼の眠りの邪魔をすることを許さなかった。
「そーっと……」
私はそんな彼を起こさないように、忍者のような足取りでキッチンの前へ移動し、朝ご飯の準備を進める。
……というか、よく考えて見てみれば、斉藤さんの元へ行くでもない私が興奮と緊張で眠れなかったのだ。その場に行く彼の気持ちを考えてみると、もしかしたら朝まで眠れなかったかもしれない。
(……仕方ないですね)
あと1時間程度は眠らせてあげよう。そう思いつつ、私はキッチンのコンロに火をつけた。
――――
「……ふぅ」
あれから1時間後、私は朝ご飯にその他の家事を済ませ、後は彼を起こすのみとなった。
「ぐぅー……むぅー……」
「……ふふ、いびきかいて寝ちゃって……」
その寝顔はとても心地良さそうで、ほっといたらこのまま丸一日眠ってしまうのではないかと思うほど安らかだ。私も思わず顔をじっと見つめてしまう。
「……でも、起こさなきゃ」
さすがに昼までには起こさないと、彼自身の体内時計がぐちゃぐちゃになってしまうし、彼の昼の時間がつぶれてしまう。
私は両手を彼の肩に掛け、左右に揺らして起こしてやろうと、両手に力を入れた瞬間……
(……いや、まてよ?)
私の頭に雷鳴が走る。
私から頼んだこととはいえ、この男はめちゃくちゃに楽しそうに私をいじめるかのごとく、小石を投げつけてきたり私が疲れているところを眺めたりと好き勝手やってくれた。
起きている彼には私はとても敵わない。しかし、眠っている今なら……
(やり返せるチャンスか!?)
そして、せっかくやり返すのなら、彼にはなくて私にある武器を使いたい。
(彼にはなくて……私にはある武器……)
なら、これしかない。
私はゆっくりと彼の耳のそばまで移動し、ささやき声で一言。
「起きてくださーい……」
私には女という武器がある。彼だって男だ。女性にささやき声で起こされれば、その気恥ずかしさから顔を真っ赤にすることに違いない。
(ふふふ……その赤面顔をじっくりと眺めてやりますよ!!)
数分後、こっちの顔が真っ赤になった。
あと何かその後の訓練の内容が異様に厳しかったです。
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