俺のいない間にすごいことになってた
ででーん!
「……で? 俺の意見も無しに……俺の予定も知らぬまま明日、俺と黒のクイーンの対談が決まったと……?」
「す、すみません……」
部屋に帰ってきた俺の最初の行動は、自分が居らぬ内に決定していた黒のクイーンとの対談に対して、袖女からその内容を聞くところから始まった。
「いやもう……申し訳ないとしか……」
袖女も自分が一方的に悪いと分かっているのか、俺の言葉に強く反論しようとしない。
「……ま、しゃあないか」
俺がこぼした言葉に、袖女は目の前に餌を置かれた犬のような食いつき具合を見せる。
「い、いいんですか? あなたがその場にいれば、もっといい手を……」
「何言ってんだお前。その場に俺がいたらその場で俺と話そうとしてくるだろ。そういう意味では、お前しかいない時に来てくれたのはありがたかった」
「あっ……そ、そっか……」
気が動転しているのか、袖女は的外れな発言をし出す。俺はそれに対して言葉を返した後、シュンとして、明らかに凹んでしまっている袖女をフォローするために言葉を投げかける。
「……それに、俺に興味を持ってくるやつは遅かれ早かれ訪れたはずだ。いつ質問されるか分からないよりも、時間が決まっていた方が心の準備がたやすくできる。お前のやったことは正解では無いかもしれないが、間違いでもないぞ」
「あ……は、はい……!」
俺がそう言って袖女にフォローを入れると、さっきまで暗かった袖女の顔がいくぶんかマシになった。
(これでいい……それでいい……)
袖女にはこんなことで調子を崩してもらっては困る。もっともっと成長して、何ならプロモーション戦で勝ってしまっても構わない。とにかく袖女にはいつも通りの状態でいてもらわなければならないのだ。
「さぁーて! 辛気臭い話はここまでだ。ゲームでもやろうぜ!」
「……ここにゲームはありませんよ」
暗くなりかけた空気を、俺が手を叩く音とともにリセットし、近くのソファに座りこんだ。
――――
同時刻、黒のクイーン。
浅間ひよりにお願いを了承してもらった私は、すぐさま自分の執務室に戻り、一息ついていた。
「ふう……」
もともと、田中伸太と浅間ひよりが一緒に訓練していた話は部下づてに聞いていた。
なので、前々から警戒している浅間ひよりとの接触も兼ねて、彼女に私と田中伸太を引き合わせてほしいとお願いしたわけだが……
(あの反応……その時だけの関係でないことは確定ね)
その時だけの付き合いなのか、これからも一緒に訓練する仲なのかは定かではなかったが、浅間ひよりのあの反応と了承の返事から見て、ただ一回訓練に付き合っただけの関係では無いのを確信した。
「にしても……妙ね」
最近、浅間ひよりの周りからきな臭いにおいがプンプンする。
大阪派閥から帰ってきた時の都合の良い記憶の消失から始まり、田中伸太との不自然な交流。私の記憶では、浅間ひよりは新しく入ってきた兵士に積極的に話しかけるタイプではない。
……そういえば
(……黒ジャケットが行方不明になったのは、浅間ひよりが任務のために大阪派閥に向かったのと同じタイミングだったわね……)
そして、謎の人物である田中伸太が神奈川派閥に現れたのも、浅間ひよりが大阪派閥から帰ってきてからだ。
……本当の本当に、何の証拠もない仮説だが。
浅間ひよりが、大阪派閥で黒ジャケットと出会っていて、協力しているとしたら。
(あって欲しくないことだけど……)
そう考えると、浅間ひよりの都合の良い記憶喪失、田中伸太の正体、私の疑問に思っていること全てに納得がいく。点と点が線で繋がってしまう。
「……まだ理由も証拠もないし、仮説だけでは足りない」
私は浅間ひよりに対して、より一層警戒を強めた。
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