どうしよ……
深夜1時過ぎにまた会いましょう。
私がこのお願いに了承した理由はたった1つ。このお願いを断った時のデメリットだ。
あの斉藤さんのことである。このお願いを断ったとしても、私に対する態度は変わらないだろう。
しかし、それと同時に、彼に対する執念も消えるとは思えない。私と一緒に訓練するタイミングを狙われて、偶然を装い接触される危険性がある。
そもそも、彼が寝床にし、主に活動している場所は神奈川本部であり神奈川派閥の拠点とも言える場所だ。こんな場所であんな派手なデビューをかましたのだから、こんな疑問が誰かから生まれても仕方がない。いつか来ることだ。
要するに、絶対にいつか質問はされる。それが早いか遅いかの違いだけ。
私ごときが予想できることを、彼が予想していないわけがない。事前にそれっぽい理由を用意しているはずだ。
ならば、私が仲介人として日時や日程を決め、彼に伝えることができれば、彼もいきなり質問されるよりも余裕を持って対処できるはず。
これらの理由から、ここは断るよりも未来のことを考え、了承するに至った。
わけだが……
「えっと……まだ質問に答えていないのだけれど……いいの?」
「え……? あっ」
自分の頭の中で考えに考え抜き、斉藤さんのお願いを了承するという結論を出した私の脳内だが、あろうことか、自分で言っておきながら、その直前に聞いていた「なぜでしょうか?」という発言を完璧に忘れてしまっていた。
「あっ……すいません……あの、このお願いの理由は話していただけると……」
「ええ……そうね。あなたにはそれを聞く権利がある」
私の受け答えのちぐはぐさに嫌な顔一切せず真摯に対応する斉藤さん。なんで懐が広いのだろう。まるで地球の7割を占める海、いやそれを超える広さを持つ宇宙だろうか。もうほんとそれぐらい広い。
「私が彼と距離を縮めたい理由はね……とある話を聞きたいからなの」
「とある話……ですか」
(やはり、黒ジャケット関連の話……!)
当然と言えば当然。悪く言えば予想通りの回答だ。
「その話というのが……私にとってはかなり重要でね……上層部の人たちは、戦績を見て偽造だなんだと騒いでいるようだけど、私は戦績なんかよりも別の……彼の本質的なものが気になっているの……それが探りたくて、彼と話をしてみたいのよ」
「なるほどなるほど……」
……やはり、さすが黒のクイーン斉藤美代。彼の異質さにいち早く気づき、いち早く行動を起こそうとしている。
(上層部の人たちのように、その戦績だけに目がいっていればよかったのに……!)
私は心の中で毒を吐きつつ、日時と日程を決めるため、斉藤さんに話しかける。
「日時と日程はどうしますか?」
「そうね……明日の夜にお願いできないかしら。その日はちょうど早く仕事が終わるのよ」
と、いうわけで、日時は明日の夜に決定。その後は世間話をすることもなく、解散の流れになった。
「じゃ、そろそろお暇させてもらうわ。お願いを聞いてくれてありがとう。やっぱりあなたに頼んでよかったわ」
「いえいえ。こちらこそ」
そう言った後、斉藤さんはドアを開き――――
「――――何かしらね。明日のことを考えるとここがムズムズするわ」
胸に手を当てながら言い、ドアが閉まるとともにその姿を消した。
「……ひゃい?」
帰り際に爆弾発言したぞあの人!!