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洗い流しと穴

 田中伸太の素性を暴くため、再び田中伸太について、神奈川派閥、東京派閥の有力兵士の情報をチェックしたが、やはりこれといった情報は見つからなかった。


「んー……」


 まさか、本当に今まで日の目を見なかった隠れた名兵士だとでも言うのだろうか。たった一瞬だけそう考えたが、ブンブンと頭を振り、ありえないとその考えを否定する。


 なぜなら、今は派閥同士が争う大戦争時代。現時点では、前と比べれば戦争は減り、1部分を除き平和な生活が保たれてはいるが、いつどこかの派閥が爆発し、また戦争が起きてもおかしくない。よって、どこの派閥も優秀な兵器、武器、何より兵士を求めている。


(何より、東京派閥には『月末戦争』で大阪派閥との因縁がある……多派閥との明確な対立がある分、他よりも秘匿する可能性は低い)


 こんな時代に、ここまで有力な兵士が日の目を浴びないなんてことはありえない。どれだけ派閥側に秘匿されようと、その華々しい戦果は人の口を道路に伝わっていくものだ。


 なにより、田中伸太の出身地は東京派閥。先に話した理由からも、有力な兵士は秘匿するよりむしろ多くの経験を積ませようとするはず。


 いや、そもそも今の時代、どこの派閥だろうと有力な兵士を使わずに秘匿する余裕があるとは思えない。


「やっぱり、私が見逃しているだけなのかも……」


 私が再び、パソコンに映る有力な東京兵士リストに目を向け、確認しようとすると、執務室の扉からコンコンとノックする音が聞こえた。


「入りなさい」


「失礼します。斉藤様」


 お行儀の良い声とともに、執務室に入ってきたのは、女性ランキング4位、黒のルークの地位についている天地あまちりん。表情の変わらない鉄仮面に、透き通った白髪のロングにぱっつんの前髪、こちらを見透かすような鋭い切れ目が特徴的な子だ。


「凛、どうかしたの?」


「はい。執務室にこもりきりだったようなので、何か手伝えることがあればと」


 凛はいつも通りの無表情でありがたい言葉を述べてくれる。


 凛は今のチェス隊メンバーの中で1番付き合いが長く、8年以上黒のルークに位置している実力者だ。それゆえに、一見無表情に見えるその顔は、実は私への心配で包まれていることも知っている。


「ふふ……」


 無表情なのにひしひしと感じる心配の雰囲気に、私は思わずクスリと笑ってしまう。


「……? 何かおかしいことでも?」


「ふふふ……いえ、大丈夫よ。ありがとう凛……だけど、今は大丈夫。私1人で充分よ」


「……そうですか」


 表情は全く変わらない。だが、凛がしゅんと寝込んでしまっていることは手に取るようにわかる。


「うーん……」


 凛には悪いが、この件だけはどうしても関わらせるわけにはいかない。凛を信じてはいるのだが、噂と言うのは人づてに膨らみながら伝わっていくものだ。


 黒のクイーンが今話題の男性神奈川兵士について個人的に調べていたなんて話が露呈してしまえば、神奈川派閥全ての兵士たちから疑いの目が向けられてしまう。


 彼は疑いがある人物とはいえ、今は疑いというだけで、罪を犯したわけではない。もし彼が本当に何の罪もない人物だった場合、あまりにも申し訳なさすぎる。


 ……しかし、凛のしゅんとした顔を見ると、何かやってあげられることは無いかと思ってしまう。


(アドバイス位なら……いいかしら)


 田中伸太につながらないように、ある程度隠してアドバイスはないかと聞けば、凛の沈んだ感情を取り戻してあげられるかもしれない。


 私はそう意を決し、いまだにしゅんとしている凛に喋りかけた。


「ねぇ凛……人のことを調べる時って、どこを調べたらいいと思う?」


 そう質問した瞬間、彼女の表情はピクリとも動くことなく、その顔から嬉しそうな雰囲気を放った。


 

 

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