プロローグ
「ゲームみたいなものなんですよ。あなたはこの世界でコインを集めるんです。」
女神ナリスは優しく微笑みながら椅子に座った俺にそう言った。
別に本人が女神様と名乗っているわけではないんだが露出度高めの薄衣に光背を背負った姿はどうみても市役所の受付係という感じでもないので、きっと女神様なのだろう。
いずれにしても、”彼女いない歴=人生”の俺には眩しすぎる。
「で、結局のところ俺は死んだ・・・ということで間違いないんだな。」
「正確には、あなたは今、まさに死につつあるところですね。階段から転落して。」
ナリスは少しだけかわいそうに・・・・いや、かわいそうなものを見る目で俺に言った。
俺の頬がひきつるのを感じた。
やめてくれ〜。そういう哀れむような顔はあ・・・・。
ナリスは空間に手をかざすと映像を投影した。そこは見慣れた俺の家の・・・風呂場だった。
彼女がパチンと指を鳴らすと、映像が動き始めた。
その日、風呂上りの俺にはパンツがなかった。
それに気づいたのはバスタオルごと洗濯機に放り込んだあとの祭り。
むなしく回転する洗濯機。
風呂上りはパンイチで牛乳を飲むのを最上のご褒美と決めていた俺でも
さすがにマッパでは問題がある。
そう、問題があるのだ。
両親は共働きで夜はいつも遅い。
この家にいるのは俺と、高校1年の妹、花音のふたりだけ。
この妹、最近兄に厳しい。
小学生の頃までは一緒にお風呂に入り、パンイチでの牛乳を飲んでいたのに
今では全く付き合ってくれない。
それどころか
「あに、きもい・・・・・」
と罵倒する始末。
妹よ・・・・、すまん。これだけは止められない。
兄の唯一の至福の時まで奪わないでくれぇ。
とはいえ、パンツという布切れがあるのとないのとでは自体は全く違う。
こんな姿を見られたら、変態兄の称号をゲットしてしまうこと必定。
(仕方ない、牛乳はあきらめて部屋にパンツをとりに戻るか)
俺と妹の部屋は二階にある。
俺の部屋に入るためには階段を上り、妹の部屋を横切らなければならない。
(どうか出てきませんように。これが終わったら、今度からパジャマを持って風呂にいくんだ〜)
と自分で余計なフラグをたててしまっていた。
風呂場から出た俺は、階段を登り切ろうとしたその時、まるでお約束のように妹と鉢合わせ・・・・・。
真っ赤になり、引きつる妹の顔と、真っ青になり引きつる俺の顔がスローモーションとなり
「キャァア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
突き飛ばされたた俺は足を滑らせて股間を押さえながら、いままさに階段を転げ落ちて行こうとして・・・。
映像はそこで終わっていた。
こら女神・・・笑いを堪えるな。
「なんとなく思い出しましたわ。で、俺はあんたがたのゲームに参加しろってか。」
あ〜、あるある。よくある転生ものだあ・・・・。勇者として勝ち抜けってか。
めんどくせーし、普通に赤ん坊から人生リセットでいいわあ。
チクッ、と少し胸が痛んだ。
「強制ではありません。あなたはふたつの道を選ぶことができます。」
ナリスはにこやかな微笑みに変わった。な〜んかとってつけた感じがするんだなあ。
「ひとつは、このまま死後の世界に行き、一定期間後に生まれ変わる。その世界では、あなたは・・・・、ああ
〇キ〇リですね。」
ゴ○ブ○〜〜〜〜!。あの黒光りして台所にひそんで女の子が(別の意味で)キャーと叫ぶ・・・。
「で、もうひとつの道ってのは、な、なにすりゃいいんだ?」
冷や汗を流しながら俺は言った。
ってはっきりいって選択肢ねえだろ〜〜。どう考えてもゲームを選ばせるためだろうがあ!
「ゲームに参加してもらいます。制限時間は1年間。その間にできる限りコインを集めてください。集めたコインの数で、あなたの転生が決まります。」
「あのお、すいません。その前に一つ頼みがあるんですが。」
なんでしょう?とナリスがいった。
「何か着るもの、くれません?なんか落ち着かなくって」
どうやら現世の状態がそのまま来世に引き継がれるらしい。
さすがにマッパで美人の女神様とお話しするのは恥ずかしいものがある。
「私は一向に気になりませんが。」
いや、俺が気にするって・・・・・。
これはサービスですよ、と言ってナリスは中世風の服を出してくれた。
ようやくこれで落ち着いて話が聞ける。
それから長々とナリスの説明が続いたが、要約するとこうだ。
その1
ナルフという異世界でこれから1年間生活する。最初に支給されるのは金貨3枚。その後の稼ぎは自分でということらしい。モンスターを倒して賞金を稼ぐのが手っ取り早いとのこと。
その2
その間、現世の時間は止まったままである。つまり俺はマッパのまま階段から落ちかけているってか。
その3
異世界にあるコインをどれだけ多く集めるかで転生ライフが決まる。多く集めれば転生後には裕福な家庭に生まれて生涯安泰に暮らすことも可能。枚数が少なければ極貧の貧乏生活や、獣に転生もあるとのこと。
まあ、ゴ○ブ○以下にはならないから救いがあるか。
コインを集める方法はいくつかあるそうだ。
地面に落ちていることもあれば、モンスターを倒すと入手できることもある。
決闘で奪い取ることもできるらしい。
量だけではなく獲得したコインの種類でもかわるとか。
その4
現世からひとりだけ、パートナーを呼び寄せることができる(ただし異性)
これはいきなり無理めの条件。”彼女いない歴=人生”の俺は自慢じゃないが彼女はおろか女友達はいない。
だいたい女性と話を交わすなんてコンビニか大学の食堂のおばちゃんくらいしか・・・。
おれは食堂のおばちゃんをパートナーに戦う姿を想像した。
(ないわ〜〜〜〜〜)
その他、いろんなことはこの世界のギルドで聞いてくれってこと。
ともあれ、選択肢はない。俺はこのゲームに参加することを選んだ。〇〇ブリなんてまっぴらである。
ナリスは金色のコインデッキを俺に渡した。
そこには白いコインが一枚。
それを見たナリスが目を輝かせた。
「珍しいですね。あなたの初期属性は”空気”。風をつかさどる魔法が使えます。」
「へえ、それって強いの。」
「いえ、全然。」
ナリスはニコッと笑っていった。
「攻撃力はほとんどないですし、初期ではせいぜい女性のスカートをもちあげるくらいですね。普通はみなさんは炎とか刃とか選択されるんですけどねえ。」
(それって単なる変質者じゃねーか)
潜在意識によってカードデッキの属性が変わるそうだ。
(どうせ空気みたいな存在ですよ〜〜〜だ。)
「そのデッキにコインを加えていくと属性が変化していきます。1年後、どんなデッキが出来上がっているか、楽しみですね。」
(あ〜、あんたらの楽しみどころ、そこね。育成ゲームか。)
「さあ・・・・あなたが現世から呼び寄せるパートナーを指名してください!」
と言われてもなあ・・・・。
「なあ、ナリス様。そのパートナーって誰でもいいのかい?たとえばアイドルとか格闘家とか。」
「それはできません。相手があなたのことを深く深〜〜く知っていていないと。」
おいおい、なに赤くなってもだえてるんだこの女神・・・。
「でもさあ、当然このゲームって危険があるんだろ?死んだりすることもあるんだよな。俺は死んでいるからどうなってもいいけど、パートナーって死んだらまずいんじゃないか?」
「それは大丈夫ですわ。ゲーム参加特典として、パートナーは異世界の記憶を失って元いた世界に戻るだけですし・・・・、そもそも。」
「そもそも・・・・?」
「現世とは時間の流れが違いますしね。この世界で過ごした1年間の間って、現世の100分の1秒くらいのことなんです。歳もとりませんし、怪我もリセットされます。本当に何もなかったことになるだけですよ。」
「なあ、それって時間も自由に選べるのか。例えば1年前の誰とか。」
ナリスはにっこり微笑んだ。女神の慈愛の表情か。
「それは大丈夫ですよ。その時点であなたを知っていれば。」
(ちっ、20年前の食堂のおばちゃんはなしか・・・・。となるとあとは・・・・)
結局はそれしかない、おれは決心した。
「わかった。俺の妹、花音を呼んでくれ。」
少し考えて、俺は言葉を追加した。
「1週間前の・・・な。」
ナリスは少し困った顔をして、何か電話帳のようなもののページをめくった。
「妹さんですか・・・・、妹さんはちょっと・・・。あ、大丈夫みたいですね。それでは1週間前の妹さんを召喚しますね。」
ナリスは誓約書を持った右手を天に高く掲げて高らかに宣言した。
「ではここに、天野和也のパートナーとして天野花音を召喚する。死がふたりを分かつまでお互いを愛し、慈しみなさい。」
おいおい、それってパートナーの意味、違くないか?
闇が裂け、眩しい光に包まれた、おれは目が眩んだ。
徐々に目が慣れてくると、そこには妹の姿が・・・・・。
手にしたバスタオル以外、産まれたままの姿で顔を真っ赤にして震える妹がいた。
”バッチーーーーン!”
「このエッチ、最低・・・、変態・・・・・・、覗き魔。」
さあて、どうしようか・・・・。
シリアスものを書こうかと思いましたが、たまには馬鹿みたいなハッピーものが良いかなと思い。
ありふれた異世界転生ものですし、当方、勤め人のため、更新は空きまくると思いますが。
Mac使いのため、あんましゲームのことしらないのでそれは違うだろおということも多々あるかと思いますが、ご容赦を。