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強欲なる勇者の書 ~ 魔王城勤務の針鼠 ~  作者: Planet_Rana
2章 就活と動機と魔王と
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(閑話)メルデルの逐語録①





記入日:ヴィリディス暦四五〇二年八月十二日

記録者:メルデル・■■■■■■

対象者:ハーミット・■■・ヘッジホッグ



メルデル (以下Mとする):よくいらっしゃいました。ワタクシ、本日の言霊治療(カウンセリング)を担当させて頂きますメルデルと申します。さあて、二日間も予約通りに来て下さらなかったいい訳でも聞きましょうか?


ハーミット (以下Hとする):黙秘権を行使する(素顔を晒す)。


M:それが通じるならワタクシの出る幕はありません。定期健診のようなものですから、元気なら重畳です。しかしどうしましたか、最近何か上手くいかないことでもありました?


H:……(目を細め、眉を顰める)。


M:(微笑みながら眼鏡の位置を上げる)そうですか。どうやらワタクシの眼球に追いかけ回される以外にも悩みの種があるのかもしれませんね。表情が優れないのはそのせいでしょうか?


H:……あー、元気だよ元気 (投げやりに言う)。あんたに心配されるほど参ってはいない (非常に面倒臭そうに手の甲をひらひらさせる)。


M:そうですか。元気ですか。言葉に覇気がないのは元気な証拠なのでしょうか?


H:元気だよ。元気だっていってんだよ。言霊治療(カウンセリング)の必要は無い。帰る。


M:まあまあ。一時間あるんです。のんびりとお話ししましょう。貴方にとってここでの定期面会は最早義務のようなものなのですから。では、少々踏み込みますが、いいですか?


H:やだ。


M:あらら。


H:……ただでさえ忙しいのに夢まで見たおかげでモヤモヤしてるんだよ。俺が俺だけで解決できるような何時ものことだ。そこまで踏み込んでくるんじゃない。


M:気分、優れないんですか。やっぱり。


H:やっぱり。って。あのなあ……(しばし沈黙する)。


M:夢の内容は教えて頂けませんか? 


H:言わない。


M:そうですか。では、その夢を見て、貴方がどう感じたかだけ教えてください。


H:…………。


M:……。


H:今更、って感じだ。


M:今更というのは、どういう感じですか? もう取り返しがつかないと思っている、ということでしょうか?


H:……そうだな、概ね。終わったことを繰り返し見てるだけだから。追体験みたいな。


M:その夢は、気分が悪くなることばかり何です?


H:そうでも、ないよ (腕組をしながら目を閉じる)。少なくとも始めの内は。後半はかなり背筋が冷えるけど、そこで目が覚めて終わりだよ。特に何が起こる訳でもない。


M:背筋が冷えるというのは、寒いのですか? それとももっと別の感情?


H:恐怖 (目を開ける)。


M:成程。怖くなるんですね? (首を傾げながら目を合わせる)


H:夢が怖い訳じゃあない。……多分、俺が恐れてるだけだ。


M:恐ろしいというのは、現実に現れそうで怖い、とか。それとも夢の中でだけ怖いのでしょうか?


H:…………さあ。起きたら鳥肌は収まるから、後者じゃないのか?


M:そうですか。まぁ、結果として貴方はここにいらっしゃいました。ワタクシがいくら呼んでも来ないのに。今日はいらっしゃいましたね。


H:俺に魔術の類は干渉しないよ。


M:それでも、行動パターンを学習させることは可能です。不安になったらここに来る。そういう風に貴方の中には刻まれている。そうではないですか?


H:今日は、眼球に見つかったから、来たんだ。来ざるを得なかったんだよ、忙しいのに。


M:そうですか。んふ、誘導尋問は中々効きませんね。流石強欲さま。


H:……逐語録があるのは知ってるけどさ、知ってて言わせてもらうけど、ほんと俺、あんたのこと嫌いなんだよ。何か分かんないけど、心が開けそうもない。生理的に合わないっていうのか、何と言うのか、仮面してるわけでもないのに分厚い甲冑被ってるみたいな話し方して来るのがめちゃくちゃ気に入らない。俺、聖人じゃあないからさ、理由も無く人を嫌いになるってあるんだよ。うん、だからそろそろ仕事に戻らせてほしいんだけど。


M:わあ、沢山ワタクシのことを見てくれているんですね。甲冑はとてもかっこいいです。ほめ言葉として受け取りましょう。貴方は今、何かを掴み取ろうと必死なのかもしれませんね。周囲を気にする余裕が薄れるぐらいに、遂行が難しくて、それでも大切にしたい案件があるということなのでしょう。


H:…………。


M:まだ十五分ですよ。あと七十五分もあります。のんびりといきましょう、のんびりと。


H:のんびりと、ねぇ (時計を見る)。


M:時計を見ていても時間が流れる速さは変わりませんよ。


H:それもそうだな……それで? 周囲を気にする余裕が薄れるぐらいにって言葉があったけれど、俺の集中が途切れてるって言いたいのか?


M:そうですねえ、そもそも本調子の貴方であれば、ワタクシの眼球に見つかることはないでしょう。見つかったとしても適当に撒く筈です。それが今日はなかったわ。……おっと、言葉が崩れてしまいました。いけないいけない。公私混同駄目駄目です。


H:……(目を細めて首を振る。やれやれといった感じ)今朝は急な案件が入ってね。前倒しになった仕事を片付ける為にあっちこっち走り回ったんだよ。それこそ浮島の端から端までね。遭遇率が上がっても仕方がないじゃないか。


M:遭遇率の話をしているのではありませんよ。ワタクシはただ、ワタクシの目に意識を向けたその行為自体が疲れている証拠だといいたいのです。貴方が本当に仕事に没頭していたなら周囲のことなんて何も見ていませんからね。気配は感じてもワタクシの目までは見つけられない筈ですよ。そもそも大抵は天井付近をうろついているんですから。


H:……。


M:ワタクシの目は、目が合った者を追跡します。そういう魔術です。目が合わなければ見つかっていないのと同じなのに。貴方は天井を見た。何故ですか? 忙しいのであれば、天井など見ている暇はないでしょう?


H:そうか……ということは床だけ見てればここに来なくて済むんだな。


M:前方不注意でぶつかりまくりますよ、お辞めください。


H:はは、まあ、約束はできないけれど。


M:しかし、疲れもそうですが、貴方がどうして頭上を気にするのかは少し気になりますね……最近、頭上を気にすることでもありましたか?


H:…………雷?


M:……雷、魔術ですか?


H:そうだな。そうなる。自然現象の雷を気にしてたら生きていけないもんな。浮島じゃあ。


M:まあ、そうですねぇ。雲の中ですからねぇ。


H:……。


M:……。


H:(少し躊躇う)メルデルさん。


M:はい、なんでしょうか。


H:感情欠損(ハートロス)って、治療できるものなのか?


M:……そうですね、白魔術では無理でしょう。かといって言霊治療(カウンセリング)で効果がみられるかどうかは、サンプル不足で何とも言えません。


H:じゃあ聞くけど。そういう人が、そういう風であるままに生きていけるようであれば。それは病気とか陰性とか、関係ないと考えていいんだよな?


M:それは、少しだけ。違うかと。


H:…………。


M:風切り羽を切ったカムメに空を舞うことを強制するのは酷でしょう。同じように、心が欠けた人に、その欠けた部分の理解を押しつけるのはただのエゴでしかありません。できることと、できないこと。それは、支援者であるこちら側が理解して支えていく他に方法はありません。


H:分からなくても? 理解できなくても?


M:分からなくても、理解できなくても、あるがままを受け入れる。それが、治療者と患者との付き合いです。最も、貴方は薬学者であっても治療者ではありませんから、我々の思いもよらない方向からアプローチしようとしているのかもしれませんが……。


H:上手くはいっていないよ。


M:そうですか。上手くいかないことが不安で、次の方法を試すことを躊躇っている?


H:…………。


M:治療の成果は、結果が出るまで分からないものです。だとすれば、失敗にも価値があるのでは。何度も検証を重ねたなら、欠けた部分を元通りとは言わなくとも、欠けた部分に似た何かを埋めてあげることができるのではないでしょうか。……それこそ、気長な時間が必要になりそうですが。


H:気長に待つのも、行動するのも慣れてるよ。


M:そうですか。我慢強くて、辛抱強いですね。


H:そうでもないさ。現にこうして相談している。


M:相談することは悪いことではありません。一人でお抱えになりませんように。そして、お急ぎにならないように。これは忠告です。一度踏み外して落ちると、簡単には戻って来られませんから。


H:それは、体験談か?


M:さあ。どうでしょう。


H:…………仕事に戻るよ。


M:分かりました。次回も気兼ねなく、相談にどうぞ。


H:ああ。好きで来たくないけど。多分またの機会に。


M:ええ。また。それまでお元気で。




面接時間:四十五分

観察より:悩みごとや悪夢は絶えずあるようだが、経過は良好。本国への敵視・憎しみ等の負の感情はみられず。ストレス過多から来る注意散漫が気にかかるが、職務に影響するほどの物ではない。

 現在担当している案件の一部に固執が見られる以外には特に変わった点は無し。以後、引き続き定期的な観察と精神的補助を続けることとする。





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