戦闘
初めて評価というモノを頂きました。
おじさん、嬉しい。嬉しい。
「ぐぅぅぅっ…」
揺れが酷く、うめき声しか出せない。舌を噛むどころじゃないぞ。
四本足ロボの乗り心地はこんなに悪いのか。
縦に、横に、急加速に急停止。浮遊感を感じたかと思うと、着地の衝撃もとんでもない。
車で事故した事は無いが、間違い無く事故よりひどい事になってる。
「お疲れ様。ひとまず安全圏に到着だよ」
あんなにぶっ飛んだ衝撃の移動をしていたにも関わらず、平静な声音でペップに声をかけられて揺れが収まっている事に気が付いた。吐きそうだ。
「無理してしゃべろうとしないでいいよ。一応安全運転を心掛けたつもりだけど、やっぱりキツイよね」
なんでコイツはこうも気楽にしゃべれるんだ?
さっきのとんでもない動きが無かったかのように話しかけられると、苦しんだ自分の方が、まるでおかしいようだ。
「なんでそんなに平気そうなんだ?あんなにとんでもねえ揺れなのに。」
吐き気をこらえてペップに問いかける。
「僕らはフェムトで強化されてるからね」
「フェムト?」
「なんというか…とても小さな機械だよ。世界中の空気の中に”居る”んだ」
「ドーピングみたいなもんか?」
分かりにくい言い回しだが、こいつらは強化されていてとても強いって事だろ?
「ユウイチがここに居る理由だよ。っとバティ達が接敵する。モニターに出すよ」
俺がここに居る理由?持って回った言い方だな。その辺の説明をして欲しいがバティ達の戦いが終わった後に聞くしかねえな。
ひとまず質問を呑み込んで、ペップが表示したモニターを見てみるか。
「マジか…」
フェムトで強化されるって、どんなもんなのかはまったく分かって無いが…
音は聞こえないし画像も荒いが、人間はあんなにバッタみたいにジャンプ出来ねえだろ!
モニターじゃ分かりずらいが、2~30メートルは跳ねてんじゃねえか?!
*
「目視で確認した!”渡り鳥”12羽だ!」
俺の前方を跳んでいるオーレの声が、左腕のコンソールを通して頭に伝わる。
「渡り鳥かあ…鳥は当てヅレエからなあ…なんでしっかり俺達の方に着たんだろうなぁ?」
ロベルトの嘆息が聞こえてくるが、渡り鳥12羽なら3人でどうにかいけるな。
「ユウイチが出てきた時のエネルギーにでも反応したんだろう。1羽もティキに通すなよ」
渡り鳥は敵性体の中では小型で、攻撃もスピードに任せた体当たりしかない。速いが対処できない速度でもない。正直12羽程度の群れがこちらに来ただけというのは助かる話だ。
「俺とオーレで殴る。ロベルトは後ろから頼むぞ」
二人の返答を聞きながら、意識を敵性体に集中していく。
*
「あれが、敵か…」
ペップが言うには、敵は”渡り鳥”という名前で呼ばれてるらしい。
鳥のように見える機械と生き物が融合した姿に、コールタールでもぶっかけた様な、気持ちの悪いモノだ。
大きさはモニター上ではバティの倍程のようだ。
「あんなもんを殴ってどうにかなるのか?」
「12羽なら僕らの所までは来ないよ」
ペップは気楽に言うが、気楽な気分にはとてもなれない。
「ぶつかるよ」
バティ達が一気にスピードを上げた。マジで素手のままぶつかるのか?
鉄と鉄がぶつかるような轟音が、離れていて、さらに室内にいる俺の耳にも届いた。
「ウソだろ…」
とんでもねえ…本当にぶん殴ってやがる。バティが自分の身の丈より倍もある奴を殴り、オーレが蹴り飛ばしている。
「ロベルトは後方支援だね」
投げるって…投げるんだな…岩を。
人間より巨大じゃねえか。
目を丸くする俺をさらに驚愕させたのはロベルトだった。腕が腰より太く見えるぞ!?
岩が直撃した敵が機械部品と臓物の様な物をまき散らしながら、落下する。
腹に直接響いてくる連続する轟音。モニターに映る、無音のゲーム見たいな動きをするヤツラ。
敵がみるみる減っていく。
「おかしいぞ!」
急にペップが焦ったような声をあげた。
なんだ?バティ達はあと2~3羽の敵を倒せば終わりだろ?
「揺れてる!」
何を焦ってるんだ?
確かに少し部屋が揺れてる気がするが、あいつらの戦闘が響いてるんだろ?違うのか?
なんだ?モニターに映るバティ達の挙動も何かおかしいぞ!
振動が、大きくなっている?
いーや、揺れてる!地震みたいだぞ!
安全圏に居るはずが、急激な揺れに襲われる。
ロボが動き出そうとしているのを感じた俺が、ドライバーズシートの方に急いで目をやると、ペップは戦闘を映しているモニターではない何らかの情報が映された別のモニターを確認している。
「やばい!下だ!セーフベルトをっ!!」
ペップの慌てる声が響くと同時に、衝撃と浮遊感が俺を襲った。