出撃
ペップの後ろに付いて進んだ先、俺の目に飛び込んで来たものは、砂色に迷彩塗装されたダンプカー程の大きさの機械だった。
「こいつがMFC、”ティキ”だよ」
「移動って言うからバギーみたいな車かと思ったよ」
驚いた。タイヤは無いな。折れ曲がってるのは足か?
4つ足のロボだな。
「軽く説明するけど、こいつは四足で移動する。ジャンプにダッシュ。ソコソコ揺れるから、おしゃべりには向いてないね」
タラップを登りながらペップに軽口を叩かれるが、そりゃそうだろうな。
まるでゲームに出てくるロボットだ。
「他の奴らは違うロボに乗るのか?」
「ロボ?MFCの事だね。みんなは乗らない」
「じゃあどうやって戦うんだ?」
「そりゃあ…って分からないよね。あんまり考えてなかった」
当然だ。ここの事はまったく分かって無い。今でも夢みたいな気分でフワフワしてる。
「あのまま戦うんだ」
「よくわからねえが、歩兵?的な事か?」
「そうだね。そんな感じだ」
ロボに乗り込んでみると、6畳ぐらいのコックピットだった。見た感じは灰色になった救急車の中って所だな。
座り心地の悪そうなシートが4っつ備え付けられている。
「座ってセーフベルトを付けてくれ」
前方に有るシートに座ってペップに指示される。あいつの席は座り心地がましそうだが、ハンドルなんかが見当たらないな。
「操縦はどうするんだ?」
「これでするんだよ」
そうやって俺にペップがかざしたのは、金属でできた輪だった。
「脳波でね。感知して動くんだ」
とんでもねえな。
「出るよ。舌を噛まないように」
もう出るのか…って、ちょっと待ってくれ。
「ペップ!ここには本当に俺の子供はいないんだな?」
「居ないよ」
「何でわかる?」
「生体反応を探知できるんだ。ここには僕ら以外の生命体はいないよ」
「それって確実なのかよ?」
「そりゃそうさ。このシステムは導入されて随分たつけど不具合は報告されてない」
今更だが、本当にこいつらを信用していいのか?なんで俺が此処に居るのかも分かって無いっていうのに。
だが、本当か嘘かを確かめる方法すら俺には無い。
「…嘘だったら、どんな手段を使ってでも、必ず、復讐してやる」
しぼり出すように恫喝の言葉を口に出す事しかできねえ。
「君の息子さんはここには居ない。出すよ」
俺の脅し文句に、顔色一つ変えずにペップが出発を告げて来る。悔しいが、何か出来るわけじゃねえ。情けない。
機械の駆動音と共に、一瞬の浮遊感と派手な揺れに体がはねる。
不安を紛らわせるために、ペップに聞いてみる。
「ロボはどうやって戦うんだ?」
「戦わないよ。離れて、隠れて、距離をとる」
「じゃあバティ達はどうやって戦う」
「モニターに映るから後で分かるけど」
「なんだよ?やっぱミサイルとかで戦うのか?」
「殴ったり、投げたりだよ。もうすぐ揺れが激しくなるから舌かむよ」
「はあっ?」
ロボは戦わない。
人が戦う。
殴って。
お前らは今から何と戦うんだ?