転がる
4つの光が目に入って来た。
まぶしいな。真っ直ぐこっちに向けないでくれよ。
左手を、ライトの光を遮る為に顔の前にかざす。
唐突に水槽の外側が明るくなった。誰かが
部屋の灯りを点灯させたのか?最初から点けとけよ。省エネかよ。
明るくなった部屋を、青い水越しに見回すとライトの元はやっぱり人間だった。
それはいい。それはいいんだか、明らかに日本人じゃ無い。その上、軍隊っぽい。
こんなにゴツくて、デカい奴らがサバイバルゲームやってるか?怖ぇ。
4人中3人がアーミージャケットを来てるな。
銃みたいな武器は持って無いのか?本物の軍人さんなんて自衛隊以外見たことねぇけど、ハリウッドのドンパチ映画じゃあ皆ぶら下げてたぞ?
なんだ?何しゃべってやがる?
こっちを見て驚いた顔をしてる奴は軍人っぽくないな。外国人はハゲててもカッコいいな。
指さして叫んでないで、出してもらえないかね?
そんで保護して家に送ってくれよ。子どもが心配なんだ。大事な一人息子だ。かわいいんだよ。嫁ちゃんは絶対にブチキレてるよ。謝って、家族を抱きしめて、一緒に風呂に入って、明日お出かけするんだよ。
さっきこっちを見て叫んでた、ハゲが何か操作してるから、もうすぐ出してもらえるのか?
他の軍人達はこっちにチラチラ目線は送ってくるが、何かしてくれそうな様子は無い。不安だ。
こんなのまるで…
なるべく考えないようにしてたが、これ、アレじゃないよな?
拉致されて違法な人体実験とか、内臓盗られるとか、人質とか…
…バッタの遺伝子を合成的な…漫画じゃないんだから、無いよね。
なんだよ!出してくれよ!何やってんだ!
不安になった俺は、どうにか出ようと暴れてみた。
ただ、素手の一般人が水の中で何ができる?
水槽のガラスをペチペチ叩くのが関の山だった。
軍人の中のリーダー格に見える、金髪ウェーブロン毛ゴリラが落ち着けって感じのジェスチャーをしてるが、だったら出してくれよ。子どもが心配なんだよ。
あと、トイレにいかせて下さい。お願いいたします。
ゴリリーダーが、しょうがねえなあ風のジェスチャーをしながら、ハゲに何か叫んでるな?出してくれよ。頼むよ。
アイムジャパニーズ、プリーズヘルプミーでイケるか?
…なんだ?頭が、ぼうっとする…眠気が…マジ…か?モルモット…?い…や………だ…
「なあ、こいつがマジで?」
「そうだ」
「間違い無いのか?」
「67%こいつだ」
「おい!30%足りてねえぞ!」
「仕方ないだろう。現状の我々には100%さ」
「違ったらどうするんだよ?」
「決まっているだろう?今まで通りさ」
「おい!100引く67は33だぜ!30じゃない!33足りねえ!」
「だから言ってるだろ?こいつは100だ。今の所な?」
「わかんねえ」
「どうせ100か0しかないんだ。俺たちは今まて通りだ」
「戦うのかあ?」
「昨日も、今日も明日もな」
「…うぐぐぐぅ」
頭が痛い。二日酔いみたいだ。昨日何やったっけ?嫁ちゃんがお越しにこないって事は、今日は、休みだったっけ?
「起きたな」
聞き覚えの無い深くて渋みの有る声だ。
「なんだっ?!動けねぇっ?!」
思い出した!くそっ!最後どうなった?眠らされた…んだよな?
その後何かされてないだろうな?オマケに動けねぇ。拘束具付きのソファーかなんかに座らされてるのか?意味わかんねぇ!
辺りを見回すとさっきのゴリリーダーがすぐ傍らで、こちらを見下ろしていた。
「アイムジャパニーズ。プリーズヘルプミー」
とりあえず、水からは出してもらえたようだ。家にかえらせてもらえるのか?解放してもらえるのか?
「落ち着いて話を聞け。落ち着いたら拘束はとく」
「日本語!助けてください!離してくれ!」
「暴れるな。暴れると危険だから拘束しているだけだ」
どうすりゃいいんだ?これはいったん静かにするか?
あんなデカい外国人にぶん殴られでもしたら、顔が吹っ飛びそうだ。敬語の必要は無いか?
「わかった。話を聞く。」
「助かる」
「最初に一個だけ教えてくれ」
「なんだ?」
「子どもだ。俺の傍に子どもは居なかったか?2歳の男の子だ」
「…この施設に子どもはいない」
「そう…か…」
良かった、のか?ユウタは巻き込まれてない?信じていいのかもわからないが、話を聞いて自由になって、家に帰らなきゃいけねえ。
「ここは何処なんだ?」
「色々質問があるだろうが、まずはこちらの説明を聞いてくれ」
「解いてくれよ」
「少しだけ待て」
この軍人の名前はバティと言うそうだ。予想通りリーダーだったらしく、この施設には4人組で来たらしい。他のメンツは後で紹介されるらしい。
「本題だが、ここは日本という国ではない」
「なんだよ!アメリカまで拉致られたのか?」
「もちろん違う」
「じゃあどこなんだ?」
「地球だ」
「あたりまえだろっ!」
「そうじゃない」
「なんなんだよ?!早く帰らせてくれよ!」
「ここには国は無い。あるのはコロニーがいくつかだ」
何言ってんだよ?俺はさっきまで日本の地方都市で散歩してただけだぞ。
「地球は様々な外敵に侵略を受けている」
「は?」
「対抗する為に人類はあらゆる術を使った。そして汚染されきってしまった」
「俺は関係無いじゃないか?」
「抗体が必要だった。だからここに呼ばれた」
「わかんねぇ。家に帰らせてくれ」
何で俺なんだ?疑問や不安、怒りをバティにぶつけようと口を開こうとした瞬間だった。いきなりバティの左腕からホログラムのようにさっきの軍人の一人が浮かび上がった。
「バティ、困った事になった」
「どうした、オーレ」
「小型だか足の早いのが12だ。理由は分からねえがまっすぐここに向かって来てやがる。施設の場所がバレたみてえだ」
「退避は無理か?」
「足が速い。退避より殲滅だ」
「他の群れはいないんだな」
「いたら殲滅より、逃走をイチオシしてるね」
「全員で出るぞ。殲滅後に本隊に帰投だ」
「100%も連れて出るのか?」
「仕方ない。施設の破壊に巻き込まれるよりましだ」
「だよな。了解。ハンガーで待機してる」
「頼む」
とてつもなく良くない事が起きてるのは分かった。
そして巻き込まれている事も。
「行くぞ」
「ちゃんと説明してくれ」
「時間が無い。必要な事は随時説明していく。今は付いてきてくれ」
「断ったら?」
「死ぬ」
「付いていったら?」
「命は残る確率が高い」
「クソだな」
やっと拘束が解かれた。全部有耶無耶で、流されていってるな。
どうすれば正解なのかわからねえ。
トイレに行って無いのに尿意が無い。いつだ?