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八十二話 大忙し

 ノネッテ国での謁見が終わり、俺はパルベラ姫とファミリス、アテンツァとジヴェルデ、そしてソレリーナの護衛に就かせていたホネスと共に、ロッチャ地域の中央都の城まで戻ってきた。

 そこで待っていたのは、領主の判断待ちの書類の塔だった。


「戦争で領地を離れていたんだから、こういうところは融通を効かせてくれよ」


 俺が愚痴りながら書類を仕分けていると、出来上がる書類を待っている領地運営陣の一人がすまし顔で言ってくる。


「せめてホネス殿を残して置いてくだされば、彼女に代理が務まったのですよ。それにも関わらず、ソレリーナ様の護衛を任せたのは、誰でしたでしょうか?」

「はいはい、俺が任命しましたともさ! というか、ホネスがそれだけ重要な役割を担っていたって、なんで誰も教えてくれなかったんだよ!」

「ミリモス王子は変なことを言いますね。普通、領主の秘書とは、領主が何かしらの事情で政務出来ない場合に代行を任せる者のことですよ?」

「そんな常識、王子教育を受けてこなかった俺は知らなかったんだってば!」


 前世の知識で考えていたから、秘書にそれだけの権利があるなんて思いもしなかったし。

 こんな風に俺と経営陣がやりとりしている横では、話題にしていたホネスが苦笑しながら書類仕事を手伝ってくれていた。そしてホネスの周りには、経営陣が書類のやり方を手ほどきしてくれてのいる。


「センパイは兵士の訓練はしてても、王子様としては活動してなかったですもんね――はい、一枚できた。これで大丈夫です?」

「はい。ホネス殿は飲み込みが早くて助かります」

「センパイの方が仕事が早いと思うんですよ?」

「ミリモス王子は十三歳にしては規格外なので、比較対象にふさわしくありませんよ」

「なにげに失礼なことを言わないでくれないかな」


 俺は書き上げた書類を渡しつつ、次の書類に目を落とす。

 そのとき、執務室に伝令が入ってきた。


「ミリモス王子。帝国からの先触れがやってきました」

「帝国からのお客さんって誰が? それと何の用か言ってきている?」

「はい。一等執政官のエゼクティボ・フンセロイア殿が、戦勝のお祝いを言いにと」


 あの各地を忙しく動き回っていると聞くフンセロイアが、それだけのために来るとは思えない。

 またぞろ、なにか取引を持ち掛けてくる可能性が高い。


「わかった。到着はいつになると?」

「三日後の昼に予定していると」

「それじゃあ、そのときまでに書類は全て片付けて、そしてアンビトース地域にある白砂の運搬計画を立てないとな。あとは、研究部に成果を見にもいかないと。忙しいなぁ」


 予定が詰まっていることに辟易とするけど、書類仕事は手を動かさないと無くならない。

 代理が出来るホネスに全て任せることも一瞬だけ考えたけど、経営陣に教わりながら必死に書類仕事をしている姿を見てしまうと、押し付けてしまうのは可哀想だ。

 自分でやるしかないよな。そう腹を括って、腕まくりし、書類にペンを走らせることにした。



 書類仕事に一区切りをつけたところで、俺はファミリスとの訓練を行うことにした。

 座り仕事で固まりつつあった体をほぐすには、これが一番いいからだ。

 さて、 アンビトースでの戦いで、俺が神聖術と魔導剣の両立ができることを、ファミリスに見せてしまっている。

 訓練で隠す必要がなくなったので、今日からは神聖術+魔導剣の戦い方で攻めさせてもらうことにした。


「うりゃああ!」


 触れれば鉄さえも切り裂く魔導の刃。

 これを前にすれば、流石のファミリスも不用意に剣を合わせてはこないはず。

 なんていう俺の考えは、通らなかった。


「甘いですね、ミリモス王子」


 俺が振るった魔導剣を、ファミリスの剣がガッチリと受け止めていた。

 鉄すら斬り裂く魔導の刃のはずなのに、ちょっとの切れ込みすら入っていない。

 予想外の事態に驚いてしまった俺を、ファミリスが神聖術を込めた腕の力で押してきた。俺は魔導剣を使う関係で両手の神聖術を消していたため、膂力に押し負けて吹っ飛ばされた。

 慌てて足で着地しながら、どうして魔導剣がファミリスの剣を斬り裂けなかったのかを考える。


「魔力と神聖術の力は反発し合う性質がある。だから魔導剣が生み出す魔法の刃の出力以上に、ファミリスが自身の剣に神聖術を込めれば、無効化されてしまうってところか」


 帝国と騎士国の戦争で、大魔法の直撃を食らっても騎士国の人たちが平気だったのも同じ理屈だろうな、きっと。

 パルベラ姫を守って果てたあの騎士の姿を思い出すに、神聖術だけの防御は魔導の刃を相手に完璧な守りを発揮するとは言えない部分もあるんだろうけど……。


「俺の実力じゃ、ファミリス相手にまともに武器を当てられないから、意味のない考えか」


 まずは、ファミリスに一撃入れられるようになる方が先決だと判断して、腕の神聖術を復活させる。

 俺の魔導剣から魔法の輝きが消えたのを見て、ファミリスがそれでいいとばかりに頷く。


「ミリモス王子。剣の性能に頼らず、全力で来なさい」

「お願いします! うりぃああああああ!」


 神聖術を全開にして斬り込んでいくが、ファミリスは当然のように剣で防いでくる。

 俺はまだまだと気合を入れて、剣での連続攻撃を行う。

 ファミリスはその全てを防ぎながら、時折鋭い剣筋で反撃してくる。

 身を捻って躱し――俺が避けられるぐらいに手加減していると悟りつつ――攻撃を続行していく。お互いの剣振りによって巻き上がった風が、運動場に吹き荒れる。

 そんな状況の中で観戦しているパルベラ姫とホネスからの、のほほんとした会話が聞こえてきた。


「ファミリスってば、ミリモスくんを鍛えることに大張り切りしちゃって。ああして二人だけの時間を過ごしているのを見ると、ちょっと妬けてしまいます」

「センパイも強くなることが嬉しいのか、頑張っていますしね。あ、このお菓子美味しいですね。パルベラ姫様の手作りでしたよね?」

「はい。ミリモスくんを監視する必要性が薄くて、日頃暇なので、お料理や裁縫の腕を上げようと頑張っています。もちろん騎士国の姫に相応しいよう、戦闘技術も力を入れてます」


 なんとも仲が良さそうなことだって考えが逸れた瞬間、ファミリスから足払いが来た。

 俺は転ばされて背中から落ちる直前、地面を神聖術で強化した腕で殴りつけることで、場所を跳ね退くことに成功。

 移動した先で素早く立ち上がり、剣を構え、ファミリスへと斬りかかる。

 こんな調子で、俺がくたくたになって立てなくなるまで訓練は続くことになるのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の造りは面白いと思う [気になる点] 誤字 [一言] 一度今までのものを見返し、校正された方が良いのでは?
[気になる点] 魔力と神聖術は反発する関係≒磁石の同極の関係 だとすると、串剣の刻印のような物が神聖術発動中の体に触れると、相手の神聖術が阻害若しくは術そのものが解けてしまうのでは? [一言] 騎士国…
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