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七十七話 ノネッテ本国入り


 兵士に守られながらの旅は、平穏に過ぎていき、山に開けたトンネルを通って、ノネッテ本国の森に出た。

 ちゃんと道は整備されていて、切り開かれた森には、一直線の道ができている。流石に石畳で舗装とはいかなかったようで、土を押し固めている野道だ。

 それにしても、高低差があるためか、夏の時期だというのに気温が涼しい。

 砂漠出身で暑さに慣れたアテンツァとジヴェルデには寒いぐらいのようで、砂漠の夜の寒さ対策に持ってきていたケープのような布を体に巻いている。

 一方でパルベラ姫は、ネロテオラの上にファミリスと同乗しながら、この涼しさが気に入ったかのように目を細めている。出会ったときは気弱そうな女の子だったのに、最近は心の芯が太くなってきたように見える。

 見つめていると、パルベラ姫は俺が観察していることに気付いたようで、気恥ずかしそうな表情を向けてきた。


「な、なんですか、ミリモスくん。髪に土埃でもついてますか?」


 こちらの視線の意味を勘違いしたらしく、汚れを取ろうとしているのか、ピンク色の髪を軽く手で漉き始めた。

 俺は違うと身振りし、当たり障りのない言い訳をする。


「パルベラ姫とは同じ馬上にいたことはあったけど、こうして馬を並べて道を進むことはなかったな、って思っただけだよ」

「そういえばそうですね」


 俺の誤魔化しは不十分だったようで、パルベラ姫は本当に髪に汚れが付いていないか気にし続けている。

 そこで、ファミリスが会話に参加してきた。


「パルベラ姫様の御髪に、汚れはついておりません。きっとミリモス王子は、暗い坑道から明るい場所に出た際に、パルベラ姫の美しさが日を浴びて輝き始めたために見惚れたのでしょう」


 ファミリスが『話を合わせろ』とばかりに、こちらを睨んできた。

 そしてパルベラ姫は、ファミリスの言い分を大半信じてしまっているようで、期待する目を向けてきていた。

 俺は一瞬だけ考えに沈み、パルベラ姫が綺麗なことは事実だから、乗っかってもいいかと結論を出す。


「そうだね。ここ最近のパルベラ姫は、出会った頃よりも美しくなってきたと、俺も思うよ」


 先ほど感じたように、パルベラ姫の心の芯が太くなってきた変化が、彼女の魅力をさらに増す結果に繋がっているように思える。

 そんな素直な評価を告げたところ、パルベラ姫の顔色が朱色に染まる。きっと褒められた恥ずかしさからだ。


「も、もうミリモスくんは、口が上手いんですから」


 照れながらもまんざらではない様子が、パルベラ姫の緩く微笑んでいる口元からうかがえる。

 こうして喜んでくれるなら、リップサービスぐらいは大盤振る舞いしていこうかな。なんて考えていると、ファミリスから鋭い視線がやってきた。


「ミリモス王子。調子に乗らないでくださいね」


 話に乗れと言ったのはそっちだし、当のパルベラ姫は喜んでくれているのにと、俺は思わず不貞腐れてしまったのだった。



 道々で会話しながら進んでいると、ノネッテ本国からの迎えが道の先に現れた。

 それは二十人ほどの兵士たちで、その先頭には俺の守役だったアレクテムが立っていた。

 俺たちは彼らから五メートルぐらい距離を開けた場所で停止し、馬上やカミューホーホーから降りると、アレクテムたちがこちらに近寄ってきた。


「ミリモス王子、そしてパルベラ姫様とファミリス殿、お久しぶりですですな。そして、初めて我が国の地を踏んで下さった、他の皆々様。ノネッテ軍元帥代理アレクテム、国王チョレックスの代理として、歓迎申し上げますぞ」


 アレクテムの言葉に、それぞれが感謝の意を示す動作を行う。

 その中で、ドゥエレファが前に出てきた。


「お初にお目にかかります、アレクテム殿。スポザート国より参りました、ドゥエレファと申します」

「その名前。もしや、ソレリーナ様の夫君では?」

「その通りです。ミリモス王子の勧めで、妻の出産に立ち会うことになりまして。それと同時に、ノネッテ国王にお願いしたい儀がございまして」

「ふむっ。ミリモス王子やパルベラ姫様から、今回の戦争の顛末を聞くため、謁見の時間が設けられておりますからな。そのときに参加できるよう、取り計らうと約束しますぞ」

「それは有り難い。よろしくお願いいたしますね」


 軽い挨拶と外交を交換して、アレクテムとドゥエレファは握手する。

 二人の友好的な様子から、俺は少し目を話す。視線を向けるさきは、アレクテムの後方にいる兵士たち。

 メンダシウムとの戦いで負った傷の跡を持つ人や、予備役を抱え戻したらしき人、そして見慣れない顔――新兵もいる。

 そして、元帥位を与える試練として半年の訓練期間を設けられた、サルカジモとヴィシカもいた。

 ヴィシカはともかく、サルカジモが春からいままでの訓練を経ても、ちゃんと残っているあたり少し驚きではある。そんな二人の態度はというと、兵士らしい姿勢がちゃんと取れている。サルカジモが兵士らしくなっているだなんて、アレクテムに散々にしごかれたに違いない。

 二人のどちらが元帥位を取れるか気になるところだけど、俺がいま気にするべきは、チョレックス王との謁見で何を喋るかだ。

 今回も吹っ掛けられた戦争だとはいえ、戦勝して新たな領地を手に入れてしまった手前、なにか言われることは覚悟しておかないといけない。

 願わくば、俺に新しい領地も治めろとだけは言われませんように。


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