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六十九話 王城内での問答

 俺は決闘の申し出をしたのだけど、アンビトース王族らしき人たちから反応がない。どうしたのだろうと首を傾げていると、一番豪奢な服をきた中年の男性が前に出てくる。綺麗に整えられた髭面、その頭には王冠がある。恐らくこの人が、ヴァゾーツ国王だろう。


「き、貴様がミリモス・ノネッテ――噂の猿王子か! しかし、どうやってこの中庭に入った。唯一の城門は多数の兵士に守らせたはずだ!」

「そうですね。門が塞がれてしまってましたので、壁を乗り越えました」

「なにを馬鹿な! 城壁の壁は、どれほどの高さがあると思っている!」

「気持ちは分かります。自分でやってなんですけど、冗談みたいですよね」


 俺が苦笑いしながら返答していると、ファミリスが間に入ってきた。


「失礼。私は神聖騎士国家の騎士、ファミリス・テレスタジレッド。貴方がアンビトース国の国王、ヴァゾーツ・アンビトースで間違いありませんね?」

「なっ!? 本当に、騎士国の騎士なのか!?」

「……再度、問うぞ。貴様は、ヴァゾーツ国王でいいのだな?」


 ファミリスが硬い騎士口調で、再び誰何する。たぶんだけど、本物の騎士国の騎士なのかと疑われたことが不本意で、不機嫌になったんだろうな。

 そしてファミリスの機嫌が急下降したことを、ヴァゾーツ国王も察知したらしく、大慌てで返答してきた。


「その通りだ。儂が、アンビトース国王、ヴァゾーツ・アンビトースだ」

「名の確認が取れました。では、ミリモス王子からの一騎打ちの要請、受けていただきましょう」


 ファミリスが状況を勝手に進めようとしたところで、ヴァゾーツ国王から待ったが入った。


「な、なぜ儂が、その小僧と一騎打ちを!?」

「長男が殺された復讐をしたいと、ノネッテ国との戦争を続ける決意をしたのは貴方でしょう。それなのに、自分の手で復讐を果たす絶好の機会を放棄するのですか?」


 ファミリスが信じられないという口調をしているけど、俺としてはヴァゾーツ国王の気持ちはわかる。

 なにせヴァゾーツ国王は、ゆったりとした服越しからでもわかるほどに、中年太りの太鼓腹。衣服から浮かぶ腕や足のシルエットは、戦闘のために鍛えらえたものではない。つまり、文官よりの王様なのだ。剣の腕前なんて、王族教育で習って護身術が精々だろうな。

 一方で俺は、自分で言うのもなんだけど、近隣の国に猿王子なんて不名誉な仇名が浸透するぐらいには戦い上手だ。剣の腕前だって、ファミリスには歯が立たないけど、ノネッテ国では随一である。

 そんな両者が一騎打ちをしようものなら、どっちが勝つかなんて目に見えているもんな。


 しかしファミリスは、そんな事情を一顧だにしない。


「さあ武器を取り、決闘を受けなさい。立ち合いは、神聖騎士国家の名のもとに、この私が公平に行うと約束しましょう」


 ぐいぐいと迫るファミリスに、ヴァゾーツ国王の顔色が青くなっていく。

 拒否すれば「決闘から逃げた臆病者」となり、国王という資質がないと判断されて立場を維持できなくなる。

 受け入れても、俺との決闘で勝てる確率は限りなく低い。というかヴァゾーツ国王の主観では、俺に勝てる公算はないんだろうな。あの顔色と受け入れると即答できない事実から察するに。

 つまりどっちを選んでも、死ぬ未来しかないので、ヴァゾーツ国王は声を出せないというわけだ。


「さあ。受けるか受けないのか、ハッキリと返答を」


 ファミリスが、腰の剣に手を掛けながら答えを迫る。あたかも拒否の選択を選べば、この剣の錆にするとでも言いたげにだ。

 返答に困り、ぷるぷると振るえているヴァゾーツ国王。

 しかしこうして返答を先延ばしにした効果が現れた。城門から戻ってきた兵士たちが、こちらに向かって突撃してきたのだ。


「国王様を救え! 侵入者を殺せ!」

「「うおおおおおおおおおお!」」


 長槍を抱えながら走り、その勢いのままに突き刺そうとする姿勢の兵士たち。

 俺は魔法の準備に入ろうとしたのだけど、それよりさきにファミリスが動いた。


「決闘の返答待ちです! 雑兵は引っ込んでいなさい!」


 ファミリスが剣を鞘から抜き放ちざまに振るうと、大嵐のような突風が巻き起こり、三十人以上はいる兵士たちが木の葉のように吹き散らされてしまった。

 そしてこの一撃で、兵士たちは自分たちの目の前にいる存在が、何であるかを理解したようだった。


「本物の騎士国の騎士だ。だめだ、敵いっこない……」

「お慈悲を! 騎士国の騎士様とは知らなかったのです!」


 軽く吹き転がされただけで、兵士の心が折れてしまっている。

 戦闘訓練でファミリスに相手してもらっている俺からすると、兵士たちに根性がないと、つい考えてしまう。けど、これがこの世界の住民の普通の行動なんだよな。目の前に現れたら慈悲に縋るしかないほどに、騎士国の騎士は恐ろしい存在だしね。ファミリスの場合は、その人柄もあって、あまり怖い感じはないから勘違いしがちだけどさ。

 おっと、思考が逸れた。

 ファミリスは抜いた剣の切っ先を、ヴァゾーツ国王に向け、今度は騎士口調で問いかける。


「決闘を受けるのか、受けないのか。明確に返答せよ」

「ぬぐぐぐぐ……」


 ヴァゾーツ国王は青い顔から、今度は怒りらしき感情で顔を赤くして唸り始めた。

 どういう決断をするのか待っていると、唐突に別の人物が声を上げる。


「その決闘、代理で受けさせてもらうことは可能か?」


 名乗り出たのは、ヴァゾーツ国王の傍らにいた男性。恐らくは王族の一人。年齢は二十歳前後。浅黒い顔には綺麗に揃えられた髭がある。体つきは鍛えられていて、戦闘技量がありそうな様子がうかがえた。

 ファミリスは兜越しに彼に視線を向ける。


「貴方は?」

「ヴァゾーツ・アンビトースが第四男、フヴェツク・アンビトース。父に代わり、決闘の代理に名乗りを上げさせていただきたい」


 武人然とした堂々たる態度に、ファミリスが感心したような声を出す。


「ミリモス王子とヴァゾーツ国王から異議が出ないのであれば、代理を認めましょう」


 どうするのかと問われれば、俺の返答は一択だ。


「こちらは認めます。誰が相手であれ、決闘で戦争の決着がつくのなら、兵や民に無用な被害がでることはないですから」


 俺の言葉に、ヴァゾーツ国王が反応する。


「待て! 決闘の勝敗が戦争の勝敗に直結するとは、決闘勝利者が得る権利としては望外に過ぎるだろう!」


 確かに、この世界の決闘で得られる報酬とは、一日だけ敵兵の動きを止めらる権利とか、聞きたい情報を教えてもらうとかの、当事者間が叶えられるものに限られている。俺とヴァゾーツ国王は両軍の最高責任者ではあるけど、俺たちが決闘の勝敗でもって直ちに戦争の決着と決めるには、報酬が過剰ではあるのは事実だ。

 けど見方を少し変えると、俺がこの場で決闘に勝った場合に限り、決闘の勝敗がそのまま戦争の決着となりえてしまうんだよね。


「僕が勝利した暁には、決闘の勝利者権利として、この都市にいる全ての兵士の行動を丸一日停止してもらいます。そして兵士が動けない間に、僕は外縁に展開している部隊を呼び寄せて、この王城を占拠し、戦争に勝利したと宣言します」


 俺が決闘に勝った場合の流れを語ると、ヴァゾーツ国王だけでなく彼の一家全員が驚いていた。


「な、なんと。この時点で既に、我らの喉元に短剣が突きつけられていたというのか」

「決闘に勝つしか、私たちが生き延びる方法はないというの」

「くっ。この場に騎士国の騎士さえいなければ……」


 ファミリスが居なかったら、決闘の要請を反故にして、俺を闇討ちにすると言いたげだ。

 自分が有利になるためなら慣例やルールすら無視するという気構えは感心してもいいけど、本当にやったら国家の信用が失墜し、周辺国から『悪』認定されると理解していないのだろうか。いないんだろうな。なんたって恋心を暴走させて他国と戦争をおっぱじめる馬鹿が、この家族の長男だったという事実があるし。

 アンビトース王族へ残念な気持ちを抱いていると、国と自分たちが滅亡の危機にあると知ったからか、ヴァゾーツ国王が錯乱した様相になる。


「ダメだ、ダメだ! 愛する息子を、これ以上死なせるものか! ええい兵士たち、何をしておるのか! 殺せ! こやつらを殺すのだ!」


 ヴァゾーツ国王の発言に、俺は嫌な予感がして横を見ると、ファミリスの威圧感が増えていた。


「そうですか――悪は、正さねばならない」


 ファミリスが一瞬にしてヴァゾーツ国王に近づき、手の剣で斬り殺そうとする。

 しかし刃は、ヴァゾーツ国王に当たる直前に、ぴたりと剣が止まる。


「……なんのつもりですか?」

 

 ファミリスの訝しげに尋ねた先は、ヴァゾーツ国王をかばうように立ちふさがった、とある年若い女性――日に焼けた肌と長い黒髪を持つ絶世の美女で、どことなくソレリーナに似た顔立ちと背格好をしている人だった。


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