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六十八話 王城へ

 俺とファミリスは夕暮れに紛れながら、順調に屋根伝いにホーフスタの中央にある王城へと向かっていた。

 けど、あともう少しというところで地上の通路にいた兵士に見つかってしまった。


「怪しい奴らが、建物の上を走っているぞ!」


 その声でバレてしまったと理解したけど、いまさら足を止めるわけにはいかない。このまま走り抜ける!


「ファミリス!」

「ミリモス王子、速度を上げますよ」


 ファミリスも俺と同じことを考えていたようで、ほぼ同時に走る速度を限界値まで上げる。俺たちが一歩踏み出すごとに、建物の屋根にある乾燥レンガの屋根がひび割れるが、構っていられない。

 なぜなら、眼下の通路にいる兵士たちから、投石がやってきているからだ。


「奴らの狙いは王城だ! 石を投げつけてでも足を止めろ!」

「近くの家で弓矢をもつ者は、我々に供出しろ!」


 通路にいる兵士たちは口々に状況報告を上げながら、地面にある石を拾って投げつけてくる。

 しかし、家々が密集して存在していて通路が狭いこともあり、俺たちに飛んでくる石の量はさほど多くない。仮に弓矢を射かけられたとしても、射線を通すことも難しいように思えた。

 このままいけば、王城までたどり着くことが出来る――


「――って、ここは彼らの本拠地なんだから、そんなに甘くはないか」


 俺たちが走る先にある建物の屋根に、兵士たちが上がってきている。手には様々な形の剣を握っている。フックのような鉤爪型の小剣、『~』のように形が波打っている剣、『メ』のような形に曲がった剣身の左右にも刃がある十字の曲剣、などなど。

 あれらの武器の何個かは、俺は見たことがあった。ロッチャ地域で請け負った武器製造の作品だ。

 他国に武器を売るということは、それが俺に使われる可能性もあるってこと、失念していたなぁ。


「折角購入してくれたところ、悪いけどッ!」


 俺は腕の神聖術を消し、魔導剣に魔力を流して刃に魔法を発動。切れ味が増した刃で兵士たちの武器を斬り壊し、そして体当たりして彼らを目下の通路へ落とす。

 ファミリスの方は兵たちに向かって剣を一振りし、その剣圧で起こった風で兵士たちを吹き飛ばしていた。

 俺とファミリスが易々と突破したところで、進行方向上に新たな兵士たちが現れる。


「退け退け! 怪我するぞ!」

「立ちふさがるのなら、容赦はしない!」


 俺たちが威勢よく言い放つと、先ほどの兵士たちとの戦いを見ていたのか、新たな兵士たちは及び腰になる。俺の魔導剣をチラリとみてから武器を大事そうに抱えてたところを見るに、武器を壊されたくないようだ。

 俺はロッチャ地域で受けるオーダーメイドでの武器製造の費用を思い出して、それも当然かと思った。日常で使う武器という値段ではなく、滅多に手に入らない芸術品に支払うような金額だしね。

 なににせよ、立ちはだかる気がないのなら行幸だ。

 俺とファミリスは兵士たちがまごついている間に、彼らの間を抜けるようにして突破。包囲を抜かれた兵士たちは、ここにいない誰かに弁明するかのように、大声で号令を発し始める。


「お、追え! 逃がすな!」

「あの速度には追いつけないぞ! いっそ王城の前で待ち構えるべきだ!

「笛を鳴らせ! 王城の兵に警戒を促すんだ!」


 ホイッスルのような笛の音が響き始めた。

 その音を聞きながら、俺は目前に迫りつつある王城に目を向へ。笛の音に呼応したらしき兵士が数十人、慌てた様子で城門から現われ出て、手の槍で槍衾を構築しようとしている。しかもご丁寧に、兵士を出した後で城門に格子戸が下りていく。

 あれを両方突破するには時間がかかると苦々しく思っていると、ファミリスが声をかけてきた。


「ミリモス王子。壁走りで、城壁を駆け上りますよ」

「出来る前提で言わないでくれ。やったことないからね、そんなこと」

「やり方は簡単ですよ。城壁の出っ張りに足をかけ、訓練で木剣に神聖術を流したような感覚で外壁に力を流しつつ脚力で体を上に運べば、自然と出来ます」

「無茶言ってくれるよね。けど、木登りの要領でやれば、いけるかな?」


 俺は可能な限りに神聖術の出力を上げて、建物の屋根の縁を蹴りつけるようにして跳躍。足下で日干し煉瓦が粉砕する感触と音を後ろに残しながら、槍を構える兵士たちの頭上を跳び越えて、王城の城壁へと飛びつく。そして足が城壁に触れた瞬間に、体を壁上に運ぶように踏み出す。

 一歩ずつ跳び上がるたびに、眼前――舐められるような位置で、外壁の日干し煉瓦たちが次々と下に流れるように景色が移動する。

 やがて五跳躍目で、レンガの姿が無くなり、広い空間が目に入る。外壁の上に出たのだ。


「うわっ。出来ちゃったよ」


 途中で足を滑らせることを覚悟していたのだけど、あっさりと成功してしまったことに、自分のことながら驚いてしまった。

 そしてふと横を見ると、ファミリスが得意げな様子――兜を被っているので顔は分からないけど、その態度からありありとそうだとわかる――で、眼下に広がるオアシスの一画を指す。


「ミリモス王子。あれがアンビトース王とその家族のようです。挨拶に行くとしましょう」

「って、こんな高い場所から跳び下りるわけ!?」


 優に十メートルを超える位置なのだけどと尻込みしていると、ファミリスが問答無用とばかりに俺の背中を押し、自分も壁上から飛び降りる。

 俺は悲鳴を堪えつつ、空中で姿勢制御。同時に足腰の神聖術を瞬間的に最大化。そして短い滞空時間の後、着地。


「うぐっ――首の部分を、もっと強化しておいた方が良かったかな」


 着地の衝撃で首がガクッと下がった際に、どうやら首が軽い寝違えのような状況になってしまったようだ。

 俺は首の後ろに手を当てて、ぐるりと首を巡らせて筋肉を解しつつ、眼前にいる素材からして豪奢な衣服を身にまとった人たち――恐らくはアンビトース王家の人たちに向かって、にこやかに王子口調で話しかけることにした。


「アンビトース王家の皆様とお見受けします。こんばんは。僕はミリモス・ノネッテ。スペルビアード王子の仇討ちをしたいとのことで、こちらから参上いたしました。さあ、一騎打ちで勝負をつけようじゃありませんか」


 俺が口上を述べる終えても、アンビトース王家の人たちは唖然とした様子のまま動こうとはしなかったのだった。

 

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[気になる点] ×立ちはだかる気がないのなら行幸だ。 〇立ちはだかる気がないのなら僥倖だ。
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