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六十三話 騎乗戦 前編

 ネロテオラに乗って追いかけていくと、ラクダチョウ乗りたちもこちらの存在に気付いたようだ。

 ラクダチョウの一騎が部隊から離れると、脚を緩めてこちらと並走するように走り直してくる。


「スペルビアード様を追わせはしない!」


 言葉と共に突き出してくる槍を、俺は魔導剣で受ける。剣で穂先を斬り飛ばせないのは、ネロテオラの挙動が激しくて、全身に神聖術をかけていないと振り落とされそうだからだ。魔導剣に魔力を流すために、片手だけ神聖術を消した瞬間、俺は落馬してしまうことだろう。


「もうちょっと、静かに走ってくれたりはしない?」

「ブルル」


 愚痴混じりに尋ねると、ネロテオラから明確に否定が入った。嘶きのニュアンスは、俺が動きに合わせろと言われているような気がした。

 飼い主と愛馬だから性格が似てくるのか、この無茶振りっぷりはファミリスを思い起こさせる。

 つまり、こちらが苦情を言っても無駄ということだ。


「じゃあ、ネロテオラの好きなように動きなよ。俺は邪魔しないように心掛けるからさ」


 座っていた尻を上げて、鞍を太腿で挟み込むようにして体勢を固定する。前世のテレビで見た競馬の騎手の格好の真似だ。

 この対応は上々だったらしく、ネロテオラの動きがより機敏になった。


「ヒイィィィィン!」


 嘶き一つの後で、ネロテオラは並走するアンビトース国の兵とラクダチョウへ向かう様に斜めに走り、体の側面を当てる体当たりを敢行する。

 巨大馬とラクダチョウでは質量差があったようで、乗っている敵兵ごと吹っ飛んで地面に横倒しで落下すると、バイクの事故映像のように派手に土煙を上げて転がった。

 あの様子じゃ、兵もラクダチョウも生きてはいないだろう。

 頬を引きつらせる俺に、ネロテオラが目を向けてきて「どうよ?」と言いたげな勝ち誇った顔をしている。


「すごいなー、ネロテオラは。とてもたよりになるなー」


 俺は衝撃映像を見たショックから棒読みになっていると自覚しながら、ネロテオラを労って手で首元を軽く叩いて褒める。

 するとネロテオラは張り切った様子になり、先を走るラクダチョウ部隊に視線を固定する。どうやらファミリスと同じように、褒められると調子に乗るタイプの馬だったようだ。


「でもこれだけやる気になっているってことは、もしかして――おわわわわ!」

「ヒイイイィィィン!」


 俺の嫌な予感が的中し、ネロテオラは全速力でラクダチョウ部隊を目掛けて駆け始めた。

 地面に杭を打ち込むような、ドスドスという重たげが足音と共に、俺たちとラクダチョウ部隊との間が縮まっていく。

 スペルビアードにもこの足音が聞こえたのだろう、ラクダチョウに乗りながらこちらに顔を向けると、周囲にいる兵士に命令を出す。


「一騎ではダメだ。二騎――いや、三騎で足止めしろ!」

「「「ハッ! お任せを!」」」


 部隊からラクダチョウ乗りが三騎離れ、こちらをの進行方向に一騎、左右に一騎ずつの配置で囲もうとしてくる。彼らの手には、やはり槍が握られている。

 三方向から同時に槍で突かれたりしたら、騎士国の騎士の愛馬であっても多勢に無勢のように俺は思えた。


「ネロテオラ――」


 だから名前を呼んで回避するようにと伝えようとしたのだけど、ネロテオラ自身は別の意味に受け取ったらしい。

 進行方向にいる邪魔なラクダチョウ目掛けて、跳んだのだ。


「ヒイイィィィィン!」


 嘶きながら、馬術の障害飛越のように前足を軽く縮めての跳躍。元の背の高さもあって、俺の視界だと地面から五メートル以上は飛び上がっているように感じる。

 目を前下に向けると、ラクダチョウに乗った騎手が、唖然とした表情を浮かべて振り返っている。

 その騎手の間抜け面に、ネロテオラの両前足の踏み付けが襲った。

 顔面と頭蓋の骨が砕ける音。続いてラクダチョウの肉と骨が押しつぶされる音がした。

 一瞬にして騎手とラクダチョウを骨ごと挽肉に変えたネロテオラは、進行方向が開けたことで悠々と爆走を再開する。


「ネロテオラ、無茶したようだけど、脚は大丈夫!?」

「ブルルル」


 この程度、造作もない。と言いたげな嘶きと、元気に走る足運びを感じて、俺は胸をなでおろす。

 というか、あんだけ無茶な踏み付け攻撃をやって平気なんて、騎士国産の馬って足が丈夫過ぎやしないだろうか。もしかして、馬自身が自前で神聖術を使えたりするのだろうか。

 そんな疑問を抱きつつ、俺は左右の後ろに視線を向ける。

 こちらを挟もうとして逃してしまったラクダチョウ二騎が、慌ててこちらを追いかけようとしている。彼我に速力差があるため、短時間でラクダチョウの体力を使いつくしてでも追いつこうとする、なりふり構わない走法を見せている。

 だが、ネロテオラの爆走には追いつけず、徐々に距離が離れて行く。

 槍の距離ではなくなったからか、そのラクダチョウ二騎から槍が投げられた。

 激しい挙動中の投げ槍だったためか、狙いが俺とネロテオラから少しズレていて、放置しても当たりそうにはない。

 けど、俺はここである閃きを得た。


「ネロテオラ。一歩分だけ、右横にずれて走って」

「……ブルル」


 仕方がないと言いたげな嘶きの後で、ネロテオラは本当に横に一歩分ずれてくれた。


「ありがとう――よっと!」


 横の空間を落下しそうになっていた槍を、俺は空中で掴み止める。元帥になってから体を鍛え、領主になってからはファミリスとの戦闘訓練に明け暮れた影響で、十三歳といえど肉体が引き締まって出来てきている。そのうえに神聖術で体を強化しているので、落下しかけている槍を掴むぐらいの芸当は朝飯前なのだ。

 俺は掴んだ槍を手の中で回して掴みなおし、投げ槍の体勢を取る。

 なにをしようとしているのかネロテオラは理解したのだろう。ほんの数秒だけ、走る馬体の上下運動を緩めてくれた。あたかも、この間に投げつけろと言わんばかりにだ。


「ファミリスと違って、気が利く――ねッ!」


 神聖術で強化した背中と腕の力を使用して、槍を投げつける。元々投げ槍も想定して作られていたようで、投げるときのバランスはとりやすかった。

 滑空する槍の軌道は、まるで弓で放たれた矢のように鋭く、水平に前を走るラクダチョウ部隊に飛んでいく。

 その勢いと軌道に驚いた様子のスペルビアード。このままいけば、あの驚愕の表情に槍が突き刺さる。


「――って、そう上手くはやらせてくれないか」


 俺が思わず残念さから呟いたように、スペルビアードに命中する直前に、ラクダチョウ部隊の一騎が間に入って肉盾になった。

 体を貫通する槍ごと、騎手がラクダチョウから落下する。空中を泳ぐ彼は、槍がささった場所は急所を外れていたのか、まだ息がある様子だ。

 しかし地面に落下した瞬間に、追いついたネロテオラが騎手の頭を踏みつけて破裂させることで絶命させた。


「容赦ないなぁ」

「ブルル」


 ネロテオラの嘶きは、役目を果たしているという自信に満ち溢れたもの。人間の言葉にすると『介錯した』とか『殺してやるのが慈悲』といった感じかもしれない。

 やっぱり容赦ないと感想を抱きつつ、俺はネロテオラにおんぶにだっこな状態のままなのに関わらず、すでにスペルビアードに手を掛けられる場所まで追いつくことができたのだった。



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