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五十一話 魔法の武器を作りたい

 ドゥルバ将軍がロッチャ地域の各地へ供回りを連れて出発した。前日に、戦場での約束通り、俺を行きつけの酒場に連れ行って一騎打ちのことを肴に大酒を飲んだのに、頭痛一つない様子で元気にだ。ちなみに、俺は年齢もあって果実水と味の濃い料理を飲み食いしただけなので、二日酔いはない。

 ドゥルバ将軍が去って数日した頃、鉄鉱石の採掘量を削減したことで、鉱山で労働に従事するべき人数を浮かせることに成功。労働者の中から鍛冶師たちだけを辞めさせて、俺が魔導具の研究のために立ち上げた研究開発局にやってこさせた。

 いやー、予算の確保ってこんなに大変なんだなと、運営陣たちとの丁々発止のやり取りで実感したよ。要求した予算が全部通せはしなかったけど、他国向けの武器の製造も引き受けることで国営の鍛冶場を接収できたので、都合で考えると予算が満額に近い形にできたけどね。


 ともあれ、俺は集まってくれた鍛冶師たち――およそ五十人ぐらいに向けて、自己紹介を行うことにした。


「初めまして、皆さん。僕はミリモス・ノネッテ。ロッチャ地域の領主となった、ノネッテ国の王子だ。先の戦争で従軍したこともあり、猿王子なんて仇名で呼ばれているらしいね」


 俺の本名より仇名の方が通りが良いようで、胡散臭いものを見る目を向けていた鍛冶師たちが、驚愕の後に恐怖の顔になった。


「猿王子って、あれだろ。猿のように身軽に襲ってきたり、兵士を魔法で氷漬けにしたり、鎧で包まれていた将軍の両手を斬り落としたっていう」

「噂によると、例の灯りの剣を作り上げた人も、あの王子だそうだぞ」

「それが本当なら、マジで魔導の剣を作り上げる気だったのか」


 俺が知らない俺自身の噂によって、どうやら鍛冶師たちは一目置いてくれたようだ。


「中には気付いた人がいるようだけど、この研究開発室の至上命題は、帝国のものに負けない魔導の武器を作り上げることだ。魔導を発現する仕組みは、ノネッテ本国で少しは解明できている。しかし、製法を再現できる製鉄技術を持っていない。そこで、君たちの出番というわけだ!」


 俺がノリノリで説明しようとすると、鍛冶師の一人が手を上げて発言を求めてきた。


「ん? 質問があるの?」

「あのー。オレらは鍛冶師っていっても、各地の鍛冶場で戦力外の通告を受けた人ばかりなんだ」

「うちの連中は、鍛冶場が潰れたから鉱夫になったんだが、潰れてしまう程度の鍛冶場だから実力はお察しだぞ」


 どうやら、ここに集まった人たちは、自分たちの鍛冶の技術に自信を失っているらしい。


「そこは気にしなくていい。というより、普通の鍛冶のやり方と違うだろうから、鉄の製品を作る知恵が少しでもあればそれでいいんだ。それこそ新たな技術を、一から十まで自分たちで作り上げるような気で研究して欲しい。それに鍛冶の腕が悪いって自覚があるのなら、上手くなればいいんだよ。もっとも、他国へ武具を売るための製品を作ることも、この研究開発局の役目だから、数をこなしていくところで腕が自然と上がるだろうけどね」


 俺が本気に冗談を混ぜて語ると、鍛冶師たちは安堵した様子だった。


「今すぐ魔導の武器を作れと無茶を言われるかと思ってたけど、一から作り上げるってのはいいな」

「基礎的な研究はノネッテ国で行ってくれているらしいからな。オレらがやるべきは、それを現実の形にすることか」


 皆が乗り気になってくれたところで、とりあえずノネッテ国の成果物を見せることにしよう。

 俺が手振りで合図すると、助手役であるホネスがカートを押してやってきた。ワゴンの上には、木製の鳥と対の水晶球と、灯りの剣こと串剣が載せられていた。どちらもノネッテ国から持ってきたもので、魔導の模様が見えるように作りかけの状態になっている。研究用の帝国製の魔導剣は持ってこれないし、俺のモノを分解するわけにもいかないので、紙に模様を大きく写したものを置いてある。


「はい、皆さん。これが魔法の道具ですよ」


 ホネスの言葉に、鍛冶師たちがワラワラとワゴンに群がり、乗っているものを手に取っていく。


「この木の鳥の胴体にある板の模様。これが魔法を起こすのに必要な模様なのか」

「待て。翼にも模様があるぞ。目に入っている金属も、普通のものじゃなさそうだ」

「鳥の模様は、そっくりそのまま真似できる。木に模様を彫り、墨を入れ、金属の内容物を分析して、同じものを製造すればいいからな。だが――」

「剣の方はそうもいかない。鉄材自体に模様を作り、それを線を彫って繋いで、魔導の模様にしている。単純に模様を彫るだけじゃ真似はできない」

「灯りの剣は、製造しやすい青銅を素材にして、機能を限定することで模様を減らして作ったようだな。この方法なら鋳造で作れるな」


 ワイワイと技術談義に花が咲いている。

 こういう自由な意見交換が、技術的なブレイクスルーを生むのだろう。

 もっとも俺は、前世が大学生だったし、今世は魔法の勉強と兵士の訓練ばかりで、なにかを作るという領域に行ったことがないから、実感のない予想でしかないけどね。

 静かに見守っていると、議論がさらに熱を帯びてきたようだ。


「恐らく、硬度の違う鉄を混ぜることで層を作り、模様を作っているんだろうな」

「おいおい。この模様を手のひら大に縮小して考えろ。何層重ねなきゃいけねえんだよ。っていうかよ、木目調の模様ってどう作れってんだ」

「鉄の合金なら模様を簡単に作れるんじゃないか?」

「鉄は溶けにくい金属だぞ。どの金属を混ぜて作る気だ。鉄は鍛造じゃなきゃ武器にならねえけど、他の金属は鉄を叩く温度で熱したら溶けちまうぞ」

「鉄にこだわる必要はないだろう。模様が作れるのなら他の金属でもいいはずだ」

「おい! 武器は鉄鋼が一番だぞ!」

「はぁー!? 魔法の武器なんだけど。金属自体の硬さじゃなくて、魔法の威力で切れ味を上げるしくみなんだけどー?」


 自由にあれこれ言わせていたことで、対立軸が生まれてしまったようだ。

 このままではいけないと、俺は手を叩いて注目を集めることにした。


「君たちの鍛冶への熱意は十分に分かったよ。そして、色々な考えで魔法の武器が作れそうだともね。そこでだ――」


 意味深に聞こえるように言葉を切り、さらに注目を集めてから、続きを話し始める。


「――三班に分かれて、魔法の武器作りの研究を始めようと思う。だから、同時に試せる方法も三種類が限度。その点を踏まえて、議論を再開してほしい」


 提示した条件によって、鍛冶師たちの話し合いに新たな方向性が生まれた。


「三つに分かれてか。なら一つは、帝国っていう見本がある、総鉄製で魔法の武器を作る研究だな」

「一番確実だな。オレはそっちの班に入れてもらおう」

「いやいや。見本なら、ノネッテ国のものもある。青銅製は鋳造で楽に作れるんだ。青銅を中心にした合金で模様を作る技術が確立できたら、これが一番武器量産がしやすいはずだ」

「青銅製に参加だ。潰れた工場で鋳造を主にやってたしな」

「お、おい。他の合金で試そうというやつは、オレ以外にいないのか」

「面白そうだから、参加してやるよ。って、この班は二人だけになりそうだな」


 どうやら、ちゃんと三班に分かれたようだ。

 人数が多いのは総鉄製の班。続いて青銅製。最後は二名だけの新合金の班だ。

 人数に比して予算を決めよう。鉄製の班に予算を多めにして、新合金の班は少なめにしよう。

 贔屓っぽいけど、充当する予算を人数で割ったら、一番割を食うのは人数が多い鉄製の班だから仕方がないね。


「さて、その班で、今後は研究してもらうことになる。班員同士、仲よくするように。ああ、他の班と仲を悪くして良いってわけじゃないよ。輸出用の武器を製造するときは、全員で作るんだ。違う班同士でも仲よくするように」

「猿王子さん。心配いらねえですよ」

「オレらは鍛冶屋だ。相槌で呼吸を合わせるのが仕事だぜ」

「鍛冶仕事を共にすりゃ、仲が悪くなんてなりようがねえ」


 息を合わせたように、同時に鍛冶師たちが大笑いする。

 どうやら、俺の心配は杞憂のようだな。

 こうして、魔導武器を研究開発して製造する部署は、正式に発足されて活動を始めることになったのだった。


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