四十七話 中央都にて
ゆっくりと旅路を続け、すっかり周辺が春らしくなったころ、俺たちはロッチャ地域の首都――国じゃなくなったから中央都だな。その城に到着した。
すると、待ってましたとばかりに、この地域を運営する役人の皆さんが押しかけてきた。
「ミリモス・ノネッテ王子! どうしてこんなに遅い到着なのですか!」
「領主がいないことで、各種業務が滞っているんですよ!」
口々に言ってくるが、俺は取り合わない。
「道中で手紙は出していたでしょ。いままで通りに、業務を続けてって」
「そんなこと、できませんよ!」
「どうして? いままでは、できていたんでしょ? なら、出来るでしょ。だから、やってよ」
役人を押しのけて、城の中に入るが、その廊下でも人が後ろについてくる。
彼ら彼女らの言葉には耳を貸さないまま、領主の部屋――もとは元首の部屋だったらしい――の中に入り、パルベラ姫とファミリス、そしてホネスだけ中に入れて、他は部屋から追い出した。
扉の外で俺を呼ぶ声が聞こえるけど、無視して執務机の椅子に座る。座面や背もたれに綿が入っていて、座り心地がとてもいい。
「皆も旅路で疲れているんだかあら、ソファーに座ったら?」
俺が促すと、パルベラ姫とホネスが座り、ファミリスは移動して二人の後ろに立った。
そして一息ついてから、パルベラ姫が部屋の扉の方へ視線を向ける。
「ミリモスくん。彼らのこと、無視していいの?」
「よくはないんだけど、どうして彼らがあんなに必至に取り入ろうとするか、わかっているでしょ?」
本来なら、新たな領主に取り入ろうとする人は少ないもの。
なぜなら、既に既得権益が作られているので、そこに新たな領主が食い込もうとすることを、人はとても嫌がる。
それなのに、いつ来るかもわからない俺たちを、役人たちが城の前で待っていたのは、その既得権益の危機だからだ。
「俺たちは方々を旅してまわって、この地域の問題を色々と知った。それこそ『正しくない行い』も多数目にしたよね」
「勝手に作られた関所があったり盗賊がいるのに、近くの兵士が働いてなかったり。豪族が威張り散らして、小作人の人たちが飢えてたり。鉱山労働者に病気が蔓延しているのを、長い年月放置してたり、あとは暗殺者が襲ってきたりとかしましたねー」
ホネスが思い出しながら告げた言葉を受けて、ファミリスが不機嫌そうに眉を寄せる。
「村ぐるみで不正を働いていた場所もあった。旅路の中で、何人この剣の露としたことか」
騎士口調で回想しているファミリスを、俺は見ながら話を続ける。
「過激で武断派の怖い騎士様がこちらにいるからこそ、彼らは取り入ろうとしてきているんだよ」
「私だけを悪者にするような言い方はよしてください。ミリモス王子も、剣や魔法で盗賊や暗殺者を倒していたじゃないですか」
「あれは正当防衛です――って話を戻すよ。不正を許さないという態度のこちらに、役人がすり寄ってくるってことは、逆を返すと彼らは何かしら後ろ暗いところがあるってことだよね」
「なるほど。先ほどの素っ気ない態度は、その悪しき行いを浮かび上がらせるための策なのですね!」
嬉しそうに言うパルベラ姫に、俺は微笑みかける。
「不正を正すなら、一気にやったほうがいいからね。でも内政に手を付ける前に、押さえるべきところがあるんだ」
椅子に座って会話して一息つけたところで、俺は再び立ち上がった。
「どこかに行くのですか?」
ファミリスの疑問に、俺は外を指す。
「兵士たちがいるところにね。悪い人を捕まえるには、人手がいるからね。その確保にいくよ」
「兵士を掌握しにいくのですね。お供しましょうか?」
兵士たちを手懐ける方法で手っ取り早いのは、こちらの戦闘力を見せること。
ファミリスはその役目を、自分がやってもいいと申し出てきたわけだ。
「いや、俺だけでいくよ。ファミリスに手伝って貰ったら、騎士国の騎士に頼らないと何もできない領主って評判が立っちゃうかもしれないしね。だからファミリスは、この部屋で二人のことを守っててよ」
「パルベラ姫様をお守りするのは至上命題ですので、頼まれなくても行いますが、ホネスも残すのですか?」
「センパイについていきたいです!」
「悪いけど、多くの兵たちがいるところに行くんだ。俺一人ならどうにでもできるけど、ホネスが兵士たちに人質に取られたら困るから、ここに残っていて」
「……そういうことなら、残ることにします」
渋々と言った感じで了承したホネスだったけど、意外なところ――パルベラ姫から助け舟が現れた。
「そういうことでしたら、全員で行きましょう。ミリモスくんの雄姿、見たいですもんね」
ニコニコと笑顔での提案に、俺は困ってしまう。
「さっきも言ったけど、騎士国の人が入ってきたら――」
「大丈夫です。見学するだけですから。それなら、問題にはならないですよね。もちろん、私たちを人質に取ろうとするような人が現れたら、ファミリスが対処しますので、心配はいりません!」
パルベラ姫の意気込む様子から、説得は無理だと判断した。なにせこの顔をした後は、梃子でも意見を翻さないんだもの。道中での盗賊の討伐も、発端はパルベラ姫だったしなあ。
「わかりました。じゃあ全員で、兵士たちがいる場所――宿舎や練兵場へ向かうとしましょう」
「はい! ではいきましょう、ミリモスくん!」
なにが嬉しいのか、パルベラ姫はニコニコ具合が深まった笑顔を浮かべて、俺の背を押して執務室から出ようとし、ファミリスとホネスも従って後ろについて歩くようだった。