四百四十話 統一したはいいものの
ノネッテ合州国が大陸統一を果たした。
いやまあノネッテ真国は残っているけど、大陸全体から見たら点のよう土地だし、大陸統一といって構わないだろう。
ともあれ、大陸統一国家の初代王という形で、俺が即位することになった。
ルーナッド州の中央都にて即位パレードを行い、国民に俺が国王になったのだと周知する必要があった。
「民に分かりやすい形で、着飾っていただきます」
と臣下に言われ、俺は大きな王冠と金ぴかな王杓に真っ赤なマントという、絵本の中の王様じゃないかと言いたくなる格好をさせらえた。
その上で、屋根のない馬車に乗って、中央都の大通りを一巡させられた。
必要なことではあるとわかっているけど、正直言うと気恥ずかしさが先に立つ。
「こんなこと、している時間的余裕はないっていうのに」
俺はパレードが終わった直後から、各地の調整する作業に入る必要があった。
帝国だった土地を、いくつかの州に分割しないといけない。
詳しい分割方法は帝王と帝都の役人に丸投げしているけど、その分割方法に裏があるかないかを調べる必要がある。
その調査には、情報収集に長けた騎士国の黒騎士たちを宛がう必要がある。
黒騎士を動かすからには、彼らが活動しやすいように環境を整えることが必須。主に予算とか物資とかを、融通する必要があるわけだ。
帝国のことだけじゃない。
まずは帝国と旧騎士国との間にある、緩衝地帯。
ここは長らく無法地帯となっていたけど、ノネッテ合州国が大陸統一を果たしたからには、この土地も支配下に入れないといけない。
しかし無法地帯だけあって、犯罪者などの荒くれ者が闊歩する異郷だ。
そこを支配下に入れようと思うのなら、軍隊を出撃させて鎮圧する必要がある。
では軍隊を動かそうと考えると、ここでもまた予算と物資の壁に当たる。
特に今は帝国との戦争が終わったばっかりで、そのどちらも余裕がない。
では来年に持ち越せるかというと、無法地帯で勝手に独立国を作られると、それはそれで厄介だったりする。
現在の無法地帯は、小勢力が個々で動いている形。
ここで犯罪者が国を立ち上げれば、小勢力が纏まって中勢力へと発展する。
帝国を下したノネッテ合衆国の軍勢が、そんな中勢力に負けることはないだろう。
けれど、小勢力を一つ一つ潰していくのは時間はかかるが危険は少ないが、中勢力だと思わぬ形で被害を受ける可能性が高まる。
折角、大きな戦争が起こりようのない世界になったんだ。
ここで変に被害を受けるのは、好ましくない。
だから、今すぐにでも無法地帯の平定に動くべきだった。
「帝国との戦争で活躍できなかったと嘆いていたし、ドゥルバ将軍に平定を任せるとしようか」
ドゥルバ将軍は、帝国との戦争では旧騎士国領土から帝国領土へと攻め入った軍勢の総大将だった。
そういった経緯から、旧騎士国と帝国の間にある緩衝地帯について、他の者よりも明るいはずだ。
俺はそう考えて、ドゥルバ将軍への命令書を新しい紙に書き込んでいく。
その作業中に、執務室に文官がやってきた。
「ミリモス様――いえ、ミリモス合州国王。お耳にして頂きたい話があるのですが」
「いちいち国王って付けるの面倒でしょ。前と同じでいいよ」
言い直す必要はないと示しつつ、文官の話を聞くことにした。
「それで話っていうのは?」
「それが、先の戦争で帝国に攻め落とされた土地土地から、陳情書が届いておりまして」
「陳情書って、どんな?」
「戦争で建物が壊れたり、備蓄食料がなくなったりしていて、その援助が欲しいと」
「……たしか帝国は、大陸最南のキレッチャ州にまで達していたよね?」
「はい。ですので、大陸右側のキレッチャ州までを含めた土地土地から、同様の陳情がやってきておりまして」
俺は援助を欲している場所の規模に、頭を抱えたくなった。
「戦争で、各地から集めた食料や物資は使い果たしている。援助するだけの備蓄が、まだあるかな?」
「ミリモス様は必要以上にお取りになりませんでしたので、次の収穫時期までという条件下でなら、援助物資を出せないことはないかと」
「いざとなったら、俺がハティムティ特区に行って、あの土地と魔物たちの主であるガクモにお願いして、食べ物を恵んで貰うしかないね」
「……あの魔物の巣窟へ、お一人で向かうのですか?」
「仕方ないでしょ。ガクモが気を許しているのは、魔物以外では俺しかいないんだから」
ハティムティ特区は、ノータッチの魔境だ。
以前に俺がガクモと結んだ協定の通り、あの特区に入り込んだ人間は容赦なく殺されるからね。
だから誰もあそこに行きたがらない。
俺も特区の中に入ることはできるけど、それは神聖術を用いての力づくでの行動だ。
しかも魔物を不用意に殺してしまうと、ガクモの俺への心象が悪くなるので、こちらは手加減しながら攻撃するしかったりする。
抱かれ俺も、好んで行こうとは思わない場所だ。
それでも、熱帯雨林という植物が年中生い茂る場所であり、果物を始めとした野生の食料が豊富な場所でもあるので、食糧難が起きるくらいなら、特区で食べ物を集めた方が良い。
ガクモと話し合いさえできれば、ガクモが一声かけるだけで魔物たちが食料を集めてくれるので、危険度以外には大した手間じゃないしね。
「食料は何とかなりそうだけど、壊れた場所や家屋の修復には人手がいるんだよなぁ」
本来なら、帝国が壊したのだから帝国が直せ、といいたいところ。
しかし帝国は、今ではノネッテ合州国の一部。
つまるところ、ノネッテ合州国が払わないといけないお金ということだ。
帝国『州』に借金を負わせるという手もあるにはあるけど、自国の自治州を困窮させる意味は薄い。
帝国州が不景気だと、周りの州も不景気になりかねない。
不景気は、波及するものだと相場が決まっているからね。
だからノネッテ合州国の王である俺としては、国全体から少しずつお金や物資を集めて、戦後復興に当てるしか手がないわけだ。
「あー。大陸を統一した王様といっても、やっていることは前と同じ、各地の調整だ。むしろ国土が増えた分だけ、俺の気苦労と仕事量が増えているんだけど……」
俺が愚痴を零すと、また別の文官が部屋の中に入ってきた。
その一人が切っ掛けとなったように、次から次に新たな文官たちが詰めかけてきた。
「ミリモス統一王! 各州が独自の州法を用いているとはいえ、その上位にあたる統一国の法が必要です! ご検討を!」
「大陸統一で国家間戦争は消えました! 軍縮して予算を浮かせていただきたく!」
「国軍の仕事が減る予想があるため、兵士や士官に新たな仕事を!」
「各州への道路の整備と拡張をしましょう! 物流を増やせば、経済もよく回るはずです!」
「ミリモス様! ――」「ミリモス王――」「統一王様! ――」
口々に要求を言われ、俺は落ち着けと身振りする。
「そんなに一度に言われてもわからないよ。とりあえず、俺から見て右側に軍関係の話を持ってきた人達は集まって。真ん中は国政に必要な事案を持ってきた人、左側はそれ以外の用件の人。それで、まずは軍関係から聞くからね」
文官たちがいそいそと移動している傍らで、俺は肩を落としていた。
大陸を統一した王様って、想像ではもっと悠々とした生活だと思っていたけど、そんなことはないんだな。
いや、今は統一した最初期だから忙しいだけで、後に成れば楽になるかもしれない。
そんな淡い期待をしながら、俺は文官たちの対応に終われることとなったのだった。
もうすぐ終わりです
次の物語はなににしようかな