四百三十三話 独立宣言
ノネッテ合州国による大陸統一。
それを果たしたと言いたいところだけど、実は一つだけ統一までの項目が残っている。
それは、ノネッテ合州国の軍勢が制圧をスルーしてしまった場所――ノネッテ本国だ。
本来なら、帝国がノネッテ合州国の一部になったときに、自動的にノネッテ本国の土地もノネッテ合州国に戻るはずだった。
しかしながら、帝国に任じられた領主が、帝国が敗北したと知った直後に、ノネッテ本国の独立を宣言してきたのだ。
そして独立した際に名称をノネッテ真国と変えたことも、一方的に通告してきた。
そんな通告を聞いての、俺の心情はというと、頭を抱えたくなった。
「サルカジモ兄上は、こんなに時流が読めない人だったかな?」
俺がそう呟いてしまうのも、仕方がないことだろう。
なにせノネッテ真国の国土を一とすると、大陸統一目前のノネッテ合州国の国土は百以上。
兵力にしても、ノネッテ真国では千人を動員できれば上々なのに、ノネッテ合州国では十万人を楽に動員できる。
使用できる物資や食料、経済の規模なんかは、単純比較できないほどだ。
つまり、どの方面から見ても百倍以上の差があるわけだ。
ハッキリ言ってしまえば、それほどに国に差があるのなら、戦わずに降伏する方が賢明といえる。
それにも関わらず、サルカジモは勝ってに国土の独立を宣言してきた。
これは、大陸統一目前の国に対して喧嘩を売っていると、そう見方をすることができる蛮行と言えた。
「それで、どうするのですか?」
そう俺に問いかけてきたのは、俺の護衛が板についたファミリスだ。
「どうって、対応は二通りだね。武力で攻め取るか、交渉で絡め取るかかな」
「武力で攻めることも考慮しているとは、少し意外です」
「意外って、どうして?」
「ノネッテの土地は山間にあり、その場所まで行くには厳しく細い山道か、幅の限られた山の穴道しかありません。大軍を使って侵攻するには適さないと、貴方なら分かっているでしょう」
「分かっているけど、そう大事に考える必要もない気もしているんだよね」
「それはどうしてです?」
「帝国を下したことで、帝国が保有していた魔導具と魔法使いを、ノネッテ合州国の軍隊として用いることが出来るようになったからだね。仮にノネッテ真国が山道に砦を多数建築してたり、山穴を崩して通れなくしたとしても、砦は魔法で壊せるし、山穴も魔導具で楽に再開通できる。力攻めしても、簡単に済むはずだよ」
俺は攻略は楽だと口にしたが、実は気持ち的には楽じゃない。
「問題は、ノネッテ真国が抱えているであろう兵士の多くが、俺の顔見知りだろうって点だよ。正直、やりにくい」
「顔見知りだから、手にかけることが忍びないと?」
「うーん、ちょっと違うかな。確かに顔見知りを攻撃しなきゃいけないとなったら、心苦しいものがあるよ。でも、戦争となったらそうも言っていられないことは、俺でも重々承知してもいるんだ。だから必要となったら、俺は迷わず顔見知りを殺すことを配下の兵に命令できるだろうね」
「では、なにが問題なのです?」
「楽に武力で潰せるのなら、先に戦わずに済む別の方法を試してみても良いんじゃないかなってね。その別の方法が上手くいけば、俺の精神的負担がなくなって万々歳。もし上手くいかなくても、一度は戦争を回避しようとしたと、それが駄目だったから戦争も仕方ないよねって、自分の心に言い訳できるでしょ」
「では、先ずは交渉を行うのですね?」
「それもどうかなって思うんだよね。ほら、俺が言って降伏するぐらいなら、帝国が負けたときに降伏しているでしょ。事実、他の帝国の土地は独立宣言なんてしてこなかったわけだしね」
「交渉を行ったところで、話はまとまらないと見ているのですね?」
「どうだろう。サルカジモ兄上の頭の中身は、俺には理解できないからね。意外と言ったら、すんなりと降伏を了承するかもしれないかな」
俺はガリガリと後ろ頭を掻いてから、方針を決めた。
「先ずは交渉だ。その前段階として、ノネッテ真国へ通じる全ての道を封鎖する。そうして『囲い』を作ってから、ノネッテ真国の王城へ少数精鋭で乗り込む」
「どうして少数精鋭を連れていくのですか?」
「交渉が失敗に終わったら、その場でサルカジモ兄上を、俺が殺すためだよ。これが一番、敵味方の被害が少なくて済む手段のはずだ」
「それは暗殺では?」
「見解の違いだね。ノネッテ真国は、帝国の戦争の敗けを受け入れられなくて、国として独立したわけだ。なら、帝国との間では戦争は終わったけど、ノネッテ真国とは戦争状態が続いていると考えてもいいはずだよね」
「戦争状態が継続しているからこそ、騙し討ちをしても許されると?」
「騙すだなんて人聞きが悪いね。交渉決裂したから直ぐに殺すってわけじゃないよ。尋常な勝負な方法があるでしょ」
「なるほど。交渉が失敗に終わったら、一騎討にて決着をつけようというわけですね」
「そういうこと。基本的には状勢的に不利な国が行うべき方法だけど、有利な国が一騎討を挑んでも良いってことは昔に俺が体験済みだからね。何の問題もない」
こちらには神聖術を扱える者がいて、ノネッテ真国側には居ない。
一騎討に持ち込んでしまえば、勝敗は決まったようなものだ。
「ともあれ、まずはノネッテ真国を包囲するために、兵を動かすとしよう。その後で、少数精鋭を選抜して、交渉へ向かおう」
「言うまでもなく、貴方も交渉に赴くわけですよね?」
「そりゃあね。きっとサルカジモ兄上のことだから、俺が交渉の場に出てこないなら、何も決める気はないって駄々をこねそうだからね」