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四百二十話 あっさりと

 ハータウトの中央都から戻った翌朝、俺はカリノと再び会談を行い、両軍が睨み合いを続ける状態を保つことを決定した。

 そうは決まっても、今もところカリノとハータウトの兵隊は敵である。決定事項を守ってくれるとは限らない。

 これから一時的に総指揮を任せることにした魔導鎧の部隊に、俺は忠告しておくことにしよう。


「気を抜かずに警戒しておいて。まあ、カリノの性格から考えたら、不意打ちを仕掛けてくるとは思えないけどね」

「了解です。ミリモス様は、騎馬隊を連れての出撃するのですよね」

「ああ。中央都を別動隊で落とさないといけないからね」


 俺と部隊長は、仮にハータウトからの間者が盗み聞きしても問題ないように、どの中央都を攻める予定かは口にしない。

 こうして情報統制をかけているので、俺がフェロニャの中央都に攻め入る気でいることは、部隊長級から上の者たちしか知らないようになっている。

 それこそ、別動隊として連れて行く騎馬隊の人員すら、本当の行き先を知らない。

 その上で、フェロニャの中央都に攻め入る道行きは、遠回りして行くことにもしている。

 これほど用心すれば、別動隊が狙われるようなことは起こり得ないだろう。

 早速、俺とファミリスに騎馬隊は、夜に闇に紛れるようにして静かに本隊から離脱し、フェロニャの中央都へ向けて出発した。



 出発して以降、時間が五日経った以外には特に目立った出来事もなく、フェロニャの中央都に到着した。

 フェロニャの中央都には、多少の警備兵はいたものの、誰かに攻められるといった類の警戒はしていない様子だった。

 だから俺と騎馬隊は、一気呵成に外壁の門へと突っ込み、そのまま中央都の領主館へと雪崩れ込んだ。

 そして領主館で守衛を打ち負かし、領主館の実験を手中に治めた後で、街中へ向けて宣言を出した。

 この都市はノネッテ合州国の国王代理であるミリモス・ノネッテが支配したこと。それに不満がある者は出てくるようにと。


「これで住民全員が武器を取って出てきたら、大困りになるけど……」


 なんて俺の不安は外れ、俺たちに『異議あり』と出てきたのは、帝国風の意匠を纏う者が五十名ほどだった。

 その五十名ほどの者たちは、俺たちの強襲を『戦争の作法に反する』と批判してきた。

 それに対して、こちらは『帝国とは既に戦争状態であるため、ノネッテ合州国は帝国領全てに対して行動を起こし得る』と反論する。

 そこから四、五回ぐらいやり取りを行った後で、向こう側から『ノネッテ合州国の軍勢は街を脱出する者に対して攻撃しない』ことを条件に、異議を撤回した。

 この彼らを逃がしたら、ガンテが率いるフェロニャの兵隊に情報が漏れる可能性がある。

 しかし、その情報漏洩こそが狙いだ。


 俺は中央都から脱出する人たちを見逃した翌日、その脱出した者たちの行き先と、ガンテ率いるフェロニャの兵隊の様子を探らせに、騎馬隊数名ずつを派遣した。

 数日経過した後に得られた情報は、脱出した者たちは帝国の本国の方面へ向かいフェロニャの兵隊へ向かう者はいないこと、そのためガンテ率いるフェロニャの兵隊がフェロニャの中央都が陥落したことを知らないということだった。


「うーん。本来の予定なら、ガンテとフェロニャの兵隊が中央都を奪還しに出てきたところで、こちらが入れ替わりにハータウトの中央都を占領し直す予定だったんだけど……」

「どうやら帝国は、この土地を保持し続ける気はないようですね。だから、この街から逃げだした者たちは、フェロニャの兵隊に情報を伝えずに、本国へ向けて逃げて行ったのでしょう」

「なにからなにまで予想通りとはいかないか……」


 俺はどうしたものかと腕組みして考えて、新たな方針を決定した。


「仕方がない。ノネッテ合州国の軍勢、カリノとハータウトの兵隊、そしてガンテとフェロニャの兵隊に向けて、手紙を出すとしよう。フェロニャの中央都を支配したって」

「その情報を伝えがてら、各陣営にどのような動きをさせる気なのです?」

「ノネッテ合州国の軍勢には、じりじりとハータウトの中央都へ向けて進んでもらう。ハータウトの兵隊には、じりじりと下がってもらう。ガンテとフェロニャの兵隊については、おまかせかな」

「おまかせとは?」

「あっちの動きに合わせて、こちらが動こうって意味だよ。ハータウトの兵隊と共に戦う気なら、ノネッテ合州国の軍勢に叩かせる。フェロニャの中央都を奪還しようと兵を動かすのなら、ノネッテ合州国の軍勢が来るまで、俺たちで籠城戦を行って時間稼ぎして。って感じかな」


 立てた方針の通りに行動して、事の成り行きを見守ることにした。

 そして新たな動きは、一日で起こった。

 偵察に出していた騎馬隊の一人が、情報を伝えに戻ってきたのだ。


「ハータウトの中央都から、馬車一台と騎馬の護衛が数名、ここ――フェロニャの中央都へと向かっております」

「すぐ行動に起こしたのは感心するけど、馬車一台と護衛だけだって? 他のフェロニャの兵隊たちは?」

「ハータウトの中央都からフェロニャへと撤退を行う様子でしたが、とりたてて急いでいる様子はありません」

「中央都が落とされたのに、のんびりと撤退準備しているってことか」


 フェロニャの中央都を取り戻す気なら、兵隊を全て連れてくるはず。しかし兵士は、ノロノロと帰る準備をしているという。

 では取り戻す気がないのかといえば、馬車と護衛数名という少人数とはいえ、急いで中央都まで来ようとしている。

 なんというか取っている行動が中途半端で、中央都を取り戻したいのか、取り戻したくないのか、意図が測りかねねてしまう。


「なにはともあれ、情報ありがとう。真っ先に来るのは馬車と護衛数名だ。籠城戦の備えは要らないかな」


 俺は報せをくれた騎馬兵に礼を言いつつ、そう遠くない未来にくる馬車と護衛たちを歓迎する準備をすることにしたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の国と戦ってた時に攻め込んで首都取った国が戦争の作法っておかしくないか?
[一言] >そして領主館で守衛を打ち負かし、領主館の実験を手中に治めた後で ✕実験 ○実権
[一言] >そうは決まっても、今もところカリノとハータウトの兵隊は敵である。 ✕今もところ ○今のところ
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