閑話 ノネッテ合州国の軍勢の苦労
ミリモスとファミリスが帝国の陣へ突撃し、最前線を突破してさらに奥へと入っていく。
その姿を見て、ノネッテ合州国の味方たちは大慌てになった。
「また、あの二人は!」
「ああしなければいけない理屈はわかるが、総大将とその護衛がやることか!?」
そう苦情は口にするものの、誰もがあの二人なら平気だろうという気持ちも抱いている。
「とりあえず、まずは元ロッチャ州の兵士たちの相手だ! 出来るなら、投降させる!」
ノネッテ合州国の軍勢の最前線にいる魔導鎧部隊の隊長が、ミリモスに代わって軍勢の指揮をとる。
彼の指揮の下で、帝国に集められたロッチャ兵士へと突撃する。
昔には全身鎧の力で鳴らしたロッチャ兵士だったが、全身鎧に魔導の力を加えた魔導鎧の前には力不足だ。
魔導鎧を着た兵士が武器を持つ腕を振る度、雑草が大鎌で薙ぎ払われるかのように、抵抗できずに打ち倒されていく。
ここでロッチャ兵士にとって幸運だったのは、ロッチャ兵士が元は同じ国の民だったからと、魔導鎧部隊の人員が仏心を出してくれたこと。
魔導鎧部隊は、できるだけ武器の刃を使わず、いわば峰打ちでロッチャ兵士を殴りつけていく。
「ロッチャの兵士よ! 元は同じ国の民! 殺すのには忍びない! 投降せよ! 事情があり投降できぬ場合は、武器を手放して地面に倒れておれ!」
魔導鎧部隊の隊長の言葉が戦場に響いた。
ロッチャの兵士たちは、本当に帝国に脅されているのか、戦うか迷う素振りを見せる。その中で地面に倒れているロッチャの兵士たちは、倒れ続ける口実を得たとばかりに、立ち上がるのを辞めて地面に倒れたままでいることを決めたようだった。
魔導鎧部隊の隊長は、おおよそのロッチャの兵士の事情を理解し、手加減して攻撃するように配下の者に身振りで伝える。魔導鎧部隊は指示を受けて軽く小突くぐらいの力具合で殴り、ロッチャ兵士は殴られた途端にバタバタと地面に倒れていく。
談合に近い状況ではあるが、魔導鎧部隊の隊長にとって、配下に怪我を生まない状況は行幸だった。
その幸運を喜ぼうとしたところで、魔導鎧部隊の一人が声を上げる。
「鳥が! ミリモス様に向かって爆発を!」
一聞きでは意味不明な発言だったが、隊長がミリモスが走っているであろう場所へと顔をむけると、発言内容通りの光景が見えた。
上空から鳥らしきモノがミリモスたちに向かって急降下し、地面に激突した後に大爆発を起こしていたのだ。
その光景を見て、隊長はミリモスたちの心配より先に、あの鳥の次の目標を悟った。
「魔導の盾持ちは、最前線に集合しろ! あの鳥が狙うは、次は我々だぞ!」
隊長の命令は、正鵠を射ていた。
ミリモスとファミリスが楽々と爆発する鳥を避け続けると、上空の鳥の顔が一斉に魔導鎧部隊へと向いたのだ。
鳥の動向の意図を見取り、隊長は歯噛みする。
「こちらの周りには、ロッチャ兵士たちがいるのだぞ。味方ごと爆撃する気か!」
隊長の疑問に『正解』と返すかのように、上空から鳥が落ちてくる。
ここで、あの鳥が巻き起こす爆発に立ち向かうべく、盾持ちが奮起した。
「盾を掲げろ! 魔法効果発動は、ごく短時間にだ!」
「爆風に足を取られないよう、ちゃんと踏ん張るんだぞ!」
盾持ち同士が声をかけあい、上空へ向けて大盾の前面を押し出した。
そして降ってきた鳥が盾にぶつかる直前、大盾の前に半透明の魔法の障壁が展開した。
鳥は魔法障壁に衝突し、大爆発を起こす。
その爆発と爆風を魔法障壁は遮り、次の瞬間には消え去った。
そんな光景は、上空から鳥が降るたびに、各々の盾持ちによって披露されることになる。
もちろん、これほど効果の高い魔導の盾の力だ、消費される魔力の量も多くなる。
盾持ちは、可能な限り魔法障壁の展開を短くすることで魔力消費の軽減に努めているが、何度も魔法を展開すれば魔法使いでない兵士の魔力など直ぐに底をついてしまう。
「俺は限界だ! 誰か、持ち手を交換してくれ!」
「了解! 交換するぞ!」
大盾の受け渡しが兵士間で行われ、新たな兵士が大盾を構え、魔力を消費した兵士は普通の武器を持って歩兵となる。
こうした交換が進む中、魔導鎧部隊の隊長は戦場の先を見て、頭を抱えたくなった。
「ミリモス様とファミリス様は、もう帝国の兵士へと斬り込んでしまわれたか。あまりに二人と戦場が離れてしまうのは拙いのだが……」
しかし魔導鎧部隊は、上空からの鳥を受け止め、足元にいるロッチャ兵士と共に我が身を守らなければいけない状況だ。
あの鳥を放置すれば、ノネッテ合州国の軍勢の後続に被害が出てしまう。魔導の大盾は、この戦前に配備されている分で全てで、後続が鳥を防ぐ手立ては限られているのだ。
「あまり無茶はしないでくださいよ」
その魔導鎧部隊の隊長の願いは、むなしくも叶えられることはなかった。
この後もミリモスとファミリスは、帝国の兵士を蹴散らしたかと思えば、鉄の箱と思わしき帝国の新兵器へと立ち向かっていく。
二人のその姿を遠目から見て、魔導鎧部隊の隊長はやきもきされることになるのだ。