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四百十話 衝突――突破

 俺の軍勢も、いよいよ帝国と本格的に衝突する。

 その覚悟をもってロッチャ州へと進軍したのだけど、覚悟が足りなかったことを、対面に陣する帝国の軍勢を見て思い知らされた。


 帝国の軍勢の姿は、通常とは少し違っていた。

 俺が戦場で見たことのあるような帝国の鎧を着た兵士たちは、帝国の軍勢の二列目以降にある。

 では一列目はというと、ロッチャがまだロッチャ国と名乗っていた時にあったような、全身鎧を来た兵士たちだった。


「やっぱり、元ノネッテ合州国の人員を正面に据えてきたか」


 俺は呟きながら、自分の顔が苦々しい表情で歪んでいることを自覚する。

 帝国がノネッテ合州国の――ロッチャ州の住民を兵士に仕立て上げることは予想できていた。

 ああして、元々同じ国だった住民を矢面に立たせることで、ノネッテ合州国の兵士の士気を挫くことを狙いとしている。

 事実、俺の配下の軍勢の兵士たちに、少なくない動揺が広がっていることが見てわかる。


 しかし、こういう手段を帝国が採用してくるだろうと予想していたからこそ、ノネッテ合州国だった土地の奪還は俺が担うことにしたんだ。

 ドゥルバ将軍は元々ロッチャ国の出身。ロッチャの民を前に出されては、指揮が陰ることは避けられない。

 騎士国の騎士王だったジャスケオスの場合だと、敵の手に落ちた味方を討つことになる。これは戦争だから仕方がないこととはいえ、良く事情を知らない人の目からすれば、騎士王という『正しさ』の象徴が行いにあるまじき非道に映ってしまうだろう。

 そういった理由があるからこそ、俺が適任だし、やらなければならない。


「その覚悟はしてきたけど、やっぱり嫌な気分になるよな」


 俺は腹を括ると、自分の軍勢の最前線へと乗馬を進ませた。

 そして腰の剣を抜くと、全軍に届けとばかりに大声を張り上げる。


「全員、聞け! 敵の姿に思うところがある者もいるだろう! しかし、ああして立ち塞がってくるからには、あの者たちは敵だ! 判断を迷えば、自分の命ばかりか、仲間の命すら危険に晒されることになる! これからお前たちの行動の責任は、命令者である俺が背負う! だから戦いに迷うな! 敵は殺せ! 帝国を打倒するんだ!」


 俺の言葉が浸透するにしたがって、兵士たちの覚悟が決まっていく空気が出来上がっていく。

 そして兵士たちの態度は、俺の開戦命令を待つ様子に変わった。

 準備が整ったと判断し、俺は掲げた剣を帝国の陣兵へと振り下ろす。


「全軍、突撃! 作戦は事前に伝えてあった通り! 大いに暴れろ!」


 号令と共に、俺は真っ先に先頭を馬で駆け始める。

 走り出した俺につられる形で、兵士たちも勢い良く走りだす。


「ミリモス様に遅れをとるな! 大楯持ちは最前線を進め! 魔導鎧の部隊はその後ろだ!」

「行け、行け! 打撃力だけなら、我が国の方が帝国より上であると、この戦場で知らしめるんだ!」


 部隊長たちの発破をかける大声を受けて、兵士たちが一個の生き物のような統率を取り戻し、帝国の陣営へと突き進む。

 

 こちらが突撃を仕掛けている一方で、帝国にも動きがある。

 ロッチャの装備を付けた兵士たちが、こちらに負けじと突撃してきたのだ。

 そのロッチャ兵の後ろの陣では、帝国の魔導杖が天を突くように掲げられ、乱立した。

 魔法攻撃の準備だと分かるけど、俺は疑問を抱く。


「まさかロッチャ兵ごと、こちらに魔法を撃ち込む気か?」


 わざわざ味方を減らすような真似は、流石に帝国でもやらないんじゃないだろうか。

 そんな予想はしつつも、一応は気にするべきだ。

 帝国の思惑がどうなのか確かめるには――俺が単独で突撃するしかないな。


「神聖術を全開にして突っ込む!」


 自分の弱気が起きないように、自分自身に宣言する形で言い放ち、俺は単騎掛けに近い形で馬と共にロッチャ兵へと突っ込んでいく。

 その段になって、俺のすぐ左後ろにファミリスがネロテオラに乗って追従していることに気付いた。


「ファミリスには悪いね。こんな馬鹿な真似をさせてさ!」

「全軍の将としては褒められない行動ですが、騎士国の騎士だった身としては理解できるので、何とも言い難いですね」


 二人で軽口を叩き合いながら、ロッチャ兵に衝突する。

 片方が騎士国の騎士だったこともあり、俺たちが突っ込んだ場所は、まるで転がってきた大岩にぶつかられたかのように、ロッチャ兵たちが大勢吹っ飛んだ。

 その混乱を広げるように俺たちが攻撃していくと、面白いようにロッチャ兵の戦列が崩れていく。

 あまりに呆気ない姿に疑問を抱いていると、ロッチャ兵たちの喋り声が聞こえてきた。


「ミリモス様とファミリス様だ! くそっ、勝てるはずがねえ!」

「ふざけんな、帝国! こんな訓練風景が現実離れしすぎて見世物になっていた相手だぞ、勝てるはずがねえだろう!」


 どうやら俺たちの訓練を覗いていた人がいたらしい。それも一人や二人じゃなく、結構な数で。

 その人たちが俺たちの実力を大声で喧伝してくれるお陰で、周りのロッチャ兵が及び腰になっているようだ。

 このまま俺たちが暴れ続ければ、容易くロッチャ兵たちを蹴散らせるんじゃないだろうか。

 そう考えた瞬間、帝国の兵士たちの陣列から輝きが見えた。

 目を向ければ、多数の対象様々な火の玉が、俺とファミリスがいる場所に向かって飛来してこようとしていた。


「同士討ちもお構いなくか! 脱出だ!」

「言うまでもなく、前方へですね!」


 俺とファミリスは馬を操り、人馬一体の神聖術の出力任せに、ロッチャ兵の列を突き抜ける。

 その直後、俺たちが抜けた場所に、帝国の魔法が直撃した。

 激しい爆発が連続し、ロッチャ兵たちが爆裂していく姿が広がった。

 爆音が終わった後で痛々しい悲鳴が上がるが、俺とファミリスに構っている暇はない。


「直ぐに第二弾が来た! 明らかに俺たちを狙っている!」

「回避しながら帝国の陣へと進みましょう。ロッチャの兵士は消し炭にできても、同士である帝国の兵士に打ち込むことは難しいはずです」

「そう願いたいものだね!」


 俺とファミリスは同時に鐙で馬を蹴り、帝国の陣地へと突撃する。

 ちらりと後ろをみやると、味方である帝国に後ろから撃たれて混乱するロッチャ兵と、混乱する敵という絶好の相手を打ち取らんと突っ込んできたノネッテ合州国の軍勢の姿があった。

 あの調子なら、苦もなくノネッテ合州国の軍勢が打ち破るだろう。

 俺は後ろを気にすることを止め、段々と近づいてくる帝国の兵士たちの姿と、こちらに飛来してくる魔法の数々に気を配ることにした。

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[気になる点] >元ノネッテ合州国の人員を正面に 対応策:敵首脳部の暗殺w
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