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四百六話 平和な世の中で

 ノネッテ合州国と帝国とが、双方に情報を規制し合う状況になった。

 ノネッテ合州国としては、帝国の警備システムが頑強と分かってからは、スパイを送り込むことはしていない。

 ただでさえノネッテ合州国は寄せ集めの集団で、人材があまり育っていない。スパイに送り込めるほど有用な人物がいれば、軍務や執務に回したいからね。

 一方で帝国はというと、ノネッテ合州国に向けてスパイを次々と送り込んできている。しかしそのスパイの全てが、黒騎士たちによって排除されている。

 黒騎士は気配を消せるため、怪しい人物に常に張り付いて、情報を収集することが可能だ。そして普通の人は、情報漏洩を四六時中気にすることはできない。だからふとした瞬間にスパイとバレる行動をして、それを黒騎士に見咎められるという図式らしい。

 帝国ほどの大国なら、あらかじめ長期潜伏するスパイを送り込んで来ていても不思議ではない。

 しかし、ノネッテ合州国は近年急速に国土拡大した新興の大国だ。スパイを送っても潜伏する時間は限りなく少なくなってしまう。

 もともとその地域に潜伏していたスパイもいないわけじゃないだろうけど、そのスパイは元々小国向けに送った存在だ。小国の情報を掴む手腕は十分にあったとしても、ノネッテ合州国という大国相手に情報を掴む腕前があるかには疑問がある。

 もし腕前があったとしても、情報を嗅ぎ回れば、黒騎士に捕捉される可能性が高まり、捕捉されれば排除されてしまう。

 という背景があって、帝国のスパイについて、ノネッテ合州国は気にしなくてもいいということになっているわけだ。


 さて、五年間という限りではあるけど、平和な時間が生まれている。

 世間が平和なことで、人々の活動は活発になっていく。

 農村部では、戦争で畑が荒らされることや、臨時徴収という形で作物を持って行かれる心配がなくなったことで、農村民たちは励んで農作業を行っている。

 大部分の州では、あらかじめ富国強兵政策を行っていたこともあり、農地は十二分に開発されている。

 この平和な時間があれば、食料については溢れるほどの収穫を期待できるだろう。

 商業についても、色々と盛んになっている。

 平和なことで物価は安定する。物価が安定すれば、消費者の購買意欲も上向きになり、財布のひもが緩む。消費者の買い物で品物が良く売れるようになれば、生産者や商人は稼ぎ時だとばかりに働きまくる。

 こうして、いい方向に経済が回っているようだ。

 好調な経済活動を助成するために、先の戦争で半壊してしまった魔導鎧を、簡易魔導鎧に改造して市場に流した。簡易魔導鎧が多く供給されたことで、各地の街道の敷設が盛んに行われるようになる。新しくノネッテ合州国の領土に組み込まれた旧騎士国領土にも、街道整備が始まった。

 きっと一年もすれば、簡易魔導鎧の膂力によるごり押しで、各州の主要街道は出来上がるだろうね。



 農業と商業の好調ぶりとは裏腹に、軍事と魔導技術は好調とは言えない。

 これもまた、平和なのが理由だ。


 軍事の要といえば、それはよく訓練された兵士の数だ。

 しかし兵士になりたいと希望する者が、世間が平和かつ好景気になったことで、少なくなってしまっている。

 もともと兵士なんて人物は、腕っぷしの強さを生かそうと思った人以外は、食うに困って兵士にならざるを得なかった者ばかりだ。

 平和かつ好景気で働き口が沢山あって仕事の心配がないため、食い詰め者が兵士になるという図式が崩れてしまっている。

 そのため腕っぷし自慢や愛国心の強い人物だけしか、新兵になっていない。

 先の騎士国との戦いで、かなりの人数が傷兵となって前線復帰が難しい状況だ。

 だから新しく兵士を多く集めたかったのだけど、これは当てが外れてしまっている形だ。

 このまま状況を放置しておくと、困った事態になりかねないため、兵士募集の広告を打つことにした。

 参考にしたのは、前世のアメリカが発行していた『アンクルサムのポスター』。

 デカデカと『兵士募集』の見出しがある、魔導鎧を来た歴戦兵士が指をさす姿が描かれた、単色刷りのポスター。

 このポスターを、各州で色々な場所に貼りだしてもらうことにした。

 ポスターを貼りだしてすぐに兵士になろうという人物が現れるとは、俺は思っていない。

 けれど、ふとした瞬間に度々ポスターが目に入れば、何人に一人かぐらいは兵士に成っても良いんじゃないかと思い始める人物が出てくるはずだ。

 そういう、一種の『気の迷い』で兵士に成ろうとする人物がでてくれば、それだけで万々歳だからね。


 魔導技術に関しては、研究者の多くが逃れてきたことで、一から技術を興す必要はなくなった。 

 しかし、研究に必要な機材と資材の多くを新たに購入する必要があった。

 それらを急いで揃えても、打倒帝国という高い目標が壁となって立ち塞がっている。

 帝国は、いわずもがなで魔導技術の最先端だ。

 その最先端に打ち勝つには、最先端のさらに先へと踏み入ることが必須だ。

 ノネッテ合州国ロッチャ州の研究者たちは、長年研究に携わってきたこともあって、魔導研究の第一人者と言える存在だ。

 しかし帝国の技術を上回れるかといえば、少し疑問が出てくる。

 魔導鎧は研究者たちの第一の成果物だけど、使われている魔導紋の多くは帝国からもたらされたもの。

 しかしこれからは帝国の助けがないままに、魔導鎧を発展させたり、魔導鎧に次ぐ研究成果を出さなければならない。

 そう、ノネッテ合州国の研究者たちは、この段に至ってようやく、自らのみの力で研究開発という荒野を歩くことになったわけだ。

 その結果、素人が荒野に放置されたときと同じように、研究者たちはどこに向かうか彷徨うハメに陥っている。

 俺が手助けできればいいのだけど、俺も研究に関してはズブの素人だ。変に口出ししたら、より一層迷わせることになる。

 ここはグッと口出しは我慢して、研究者たちが失敗から学び、前例によらない研究の進め方を生み出すまで待つことが肝心だと判断した。

 帝国と戦う五年後までに、一定の研究成果が出ればいいやといった気持ちで、俺は研究者たちの行動を見守ることにしたのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 帝国に渡った魔導鎧の技術が改竄されていることで、帝国が魔導鎧を持てないこと
[一言] ここまで長らく楽しく読んできたけど 展開のまとめ方に違和感が強く、楽しめなくなってきたので自分はここまでにしておきます。 これだけの長い話を書くのは他で得られない経験値だと思うので、ぜひ完結…
[良い点] 楽しく読んでいます。 [一言] 更新ご苦労さまです♪☆♬
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