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三百九十九話 ノネッテ本国からの伝令

 帝国の軍隊を騎士国の領土から追い出すため、俺は先行させた騎士国の騎士の後をノネッテ合州国の軍隊と共に追った。


 先の戦争で、帝国は素早く侵攻するため、ほぼ一直線に騎士国の領土を進んでいた。

 それこそ侵攻された土地を地図で表すと釘の形になるほど、ほぼ一直線かつ狭い幅だけが帝国に支配された土地だ。

 だからノネッテ合州国の軍隊と騎士国の騎士の力で支配された土地を奪い返し、その上で帝国を帝国領へ追い出す必要がある。


 先行している騎士国の騎士たちは、帝国の軍隊に攻め入って強制的に撤退に追い込んでいる。

 帝国の軍隊の方も、追い立てられたら追い立てられただけ、急いで帝国領へ撤退しているという。

 俺が帝国側の提案を蹴った時点で、帝国の軍隊は侵攻した土地に留まる理由を失っていた。下手に残ろうものなら、騎士国とノネッテ合州国の軍勢が挙って襲い掛かってくるんだ。受ける被害を恐れれば、撤退こそが唯一取れる手段だしね。


 そうして騎士国の騎士が追い立て、帝国の軍隊という支配者が去った土地に、今度はノネッテ合州国の軍隊が入る。

 ノネッテ合州国の軍隊が行う仕事は、その土地に住む民に騎士国は戦争に敗けてノネッテ合州国に編入されるのだと伝えること。それと帝国に食料を供出していた場合、次の収穫まで耐えられる食料を渡し、食料を渡す代わりに帝国の軍票を回収すること。

 正直言うと、食料の余裕は少ないので、民に渡したくはない。

 でも、帝国の影響を土地から排除するために、軍票の回収は必須。むしろ帝国の魔の手を跳ねのけられるのなら、多少無理をしてでも食料を出したほうが得だ。


 ともあれ、帝国の軍隊が素直に撤退してくれるため、こちらの行動も順調に進んでいる。

 そして、あと少しで帝国の軍隊を騎士国の領土から完全に追い出せる、というところまできた。

 そのとき、ノネッテ本国からきたという伝令が現れた。

 

「ミリモス様! 帝国により、ノネッテ本国、ロッチャ州、ハータウト州、フェロニャ州が奪取されてしました! フッテーロ王とアヴコロ公爵は捕らえられ、帝国の帝都へと移送されました!」


 悲痛な声色で語る伝令は、ここまで急いできたのか、その姿はボロボロだ。よほどの強行で、ここまで来たことが伺える。

 報告を聞いたノネッテ合州国の軍隊の面々は、悔しそうな顔を浮かべている。

 一方で俺は、こうなることを覚悟していたからか、心持ちは穏やかだった。


「帝国の動きは、それで終わりか?」


 俺の質問に、伝令は驚いた顔を返してきた。


「王と公爵はミリモス様の身内でしょう! それにロッチャ州は、ミリモス様の領土だったのです! それなのに!」


 伝令の言いたいことは分かる。

 身内と領土の民が危険に晒されているのに心配した様子がないなんて、人情がないと詰りたいんだろうね。

 自分のことながらだけど、確かにその通りだ。

 フッテーロとアヴコロ公爵が死刑になっていないこととに安堵しているあたり、俺は人でなしなんだろうな。

 でも、確認すべき事項には、俺なりの優先順位がある。

 フッテーロとアヴコロ公爵の処遇は聞いた。ロッチャ州、ハータウト州、フェロニャ州が占領されたとも聞いた。

 なら次に気にすべきことは、まだ帝国に支配されていない土地のはずだ。


「砂漠にある州は、帝国の支配をうけていないのか?」


 俺が非難の声を聞き流して質問すると、伝令は不満がありありと分かる表情で情報を出してきた。


「帝国は砂漠にある州に興味がないようです。ロッチャ州とアンビトース州の間に軍隊を展開して、交通に蓋をするだけで済ませています」

「なるほど。帝国の狙いは、交通を遮断することで、砂漠にある州を干上がらせようとしているんだろうな。きっと、ロッチャ州からアンビトース州に流れる川も堰き止める気でいるんだろうね」


 干上がれば、アンビトース州は帝国に膝を屈さざるを得ない。

 つまり帝国は、軍隊の消耗なしに土地を新たに手にすることができるというわけだ。

 俺が帝国の手腕に感心していると、伝令が報告以外の言葉を挟んできた。

 

「フッテーロ王とアヴコロ公爵に続き、ヴィシカ様も見捨てますか?」


 ヴィシカはアンビトース州の領主であり、俺の直近の兄だ。

 この事実を持ち出し、再び身内を見捨てるのかと、伝令は問いかけてきているわけだ。

 言葉の意味を理解して、俺は顎に手を当てて考える風を装う。


「さて、どうしようか。優先順位的には、騎士国の領土から帝国の影響を追い出し、ノネッテ本国とペレセ州を繋ぐ坑道を潰すことが先決なんだけどなぁ」


 言外に、だからアンビトース州に構っている暇はないと零すと、伝令は怒った素振りになる。


「もう結構! 私は危険を伝えに、アンビトース州へと向かいますので!」


 踵を返して立ち去ろうとする伝令を、俺は呼び止めた。


「いや。ここまで急いで来たんだろう。食事と睡眠を取ってから行くといいよ。そのままだと、帰り道の途中で倒れかねないだろうしね」

「――! 失礼します!」


 怒り心頭という身振りで、伝令は俺の前から立ち去った。

 俺はその姿に苦笑いしていると、俺と伝令の会話を邪魔しないようにと黙っていた、部隊長級の者たちが質問してきた。


「ミリモス様。本当になにもなさらないので?」

「なにが出来るってのさ。フッテーロ王とアヴコロ公爵は帝都に護送されているんだろう。取り換えそうとするなら、帝国の領土の奥深くに入らなきゃいけない。そんな真似はできないよ」

「帝国に占領された州に対しても?」

「取り返すためには、山脈地帯を越えて進軍する必要がある。そんなことを行える用意はしてないよ。それでも無理に取り換えそうと挑むのなら、軍隊が全滅する覚悟が要る。そんなことはできないでしょ?」


 俺の明確な返答に、部隊長級の面々は納得した者としてないものが半々という状態になる。

 恐らく、俺の言葉が軍事上で正しいと思う者と、そうは分かっていても感情面で折り合いがつかない者といったところだろう。

 そんな彼らの感情を見て、俺は伝令に言わなかった言葉を付けたすことにした。


「帝国に支配された土地を取り戻すことを、一先ず、諦めるだけだよ。そして帝国に市はされていない、スポザート州とアンビトース州は見捨てたりしないよ」

「でも、先ほどは」

「さっきは優先順位の話をしただけだよ。帝国の軍勢を騎士国の領土から追い出すこと、ノネッテ本国から帝国の軍隊がこないように坑道を潰すことは、最優先事項だ。それが終わった後にスポザート州とアンビトース州を助ける。その方法は既に思いついているから、安心していいよ」


 俺の説明を聞いて、部隊長級の一人が苦笑いしていた。


「ミリモス様もお人が悪い。そう考えているのなら、さっき伝令に教えれば良かったではありませんか」

「それはそうなんだけどね。彼が、本当にノネッテ本国からの伝令ならね」


 俺の一言に、部隊長級の面々が驚いた顔になる。


「あの人物は、本物の伝令ではないと? 帝国からの間者だとお思いで?」

「彼を疑う点はいくつかあるんだよね」


 一介の伝令にしては、帝国の動きを知り過ぎている。

 ノネッテ本国が占領されたと伝えてくるだけなら、本物だ納得した。

 フッテーロとアヴコロ公爵の移送に関しても、そういう噂話があるという報告なら信用しただろう。

 しかし、ロッチャ州、ハータウト州、フェロニャ州が占領されたこと、アンビトース州の境に帝国が布陣していることを知っているのは、命からがら情報を伝えにきた伝令にしては知り過ぎだ。

 それにあの伝令は、どうやってここまで来たのか。そこにも疑問がある。

 ノネッテ本国からここまで来るには、ルートは二つ。ノネッテ本国から坑道を通ってペレセ州へ抜ける道と、帝国領を通り抜けてくる道。

 しかし両方とも、伝令が通るに無理があるルートだ。


 ノネッテ本国からペレセ州への坑道トンネルの入口は一つだけ。そこを押えてしまえば、人が行き来できなくなることは、帝国なら知っている情報のはずだ。

 帝国が封鎖する前なら、伝令が通り抜けることは可能だっただろう。しかしその場合、伝令が知っている情報は、ノネッテ本国が占領されたという話だけじゃないと、つじつまが合わない。呑気にロッチャ州、ハータウト州、フェロニャ州が占領されたという情報を掴んでから移動したんじゃ、坑道は封鎖されてしまっているはずだからね。

 帝国領を抜ける場合は、もっと無理だ。あの伝令はボロボロの格好だけど、ノネッテ本国の兵と分かる姿をしていた。ノネッテ本国の兵が帝国領を通過しようとしたら、帝国の者に捕まらないはずがない。 


 こうした理屈以上に、俺が伝令を信用しなかった点がある。


「ノネッテ国は小さかった。俺がノネッテ国の元帥をしていた際、全てのノネッテ本国の兵の顔は覚えられるほどにね。その覚えた顔の中に、あの伝令はなかった。だから信用しなかったんだよ」

「そんな理由で、ですか? ミリモス様がロッチャの領主になった後に兵士になった者かもしれないでしょう?」

「それはあり得ない。俺に伝令を出すのなら、知っている顔に役目を負わせた方が、話が滑らかに進む。あえて顔を知らない人物を使う必要性がないよ」


 それにも関わらず、伝令の顔を俺が知らないとなれば、考えられる事態は一つだけ。

 俺がノネッテ本国の兵士全員の顔を知っているという事実を知らない人物によって、あの伝令は使いに出されたということ。

 つまり状況的に考えば、帝国の者があの伝令の上司ということだ。


「十中八九、あの伝令は帝国の間者だろうね」

「間者なら、排除した方が良いのでは?」

「いいや。間違った情報を持って行ってもらった方が、こちらにとっては有り難いんだよ。無視して放って置いて」


 きっと、あの伝令は帝国に、俺がスポザート州とアンビトース州を見捨てる気だと報告するだろう。

 俺が動かないと誤解すれば、帝国はスポザート州とアンビトース州を無理に手中に収めようとせず、他のことを優先しようとするはず。

 間違った情報で隙が生まれれば、スポザート州とアンビトース州を助けることが容易になるんだしね。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] それでも無理に【取り換えそう】と挑むのなら、軍隊が全滅する覚悟が要る。 取り返そう
[気になる点] こちらの陣容が判りません。 騎士国の人たちがどこまで付き合ってくれるかも…
[良い点] 楽しく読んでいます。 [一言] 更新ご苦労さまです♪
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