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三百八十三話 騎士国の軍勢は本腰を入れる

 戦争、十四日目。

 昨日、自軍に死傷者が出た割に、ノネッテ合州国の軍勢の士気は高いままだった。


「騎士国など、なにするものかー!」

「叩き合いだと負けるかもしれないが、今回の戦争は、守り、耐えるだけで勝てる!」

「確りと隊列を固め、防御に徹し、時間を稼ぎ続ける!」


 兵士たちが威勢のいい声を挙げる姿は頼もしいが、俺は懸念があった。


 いままで騎士国の軍勢は、攻めに消極的――というか、攻め方がチグハグだった。

 それはノネッテ合州国の軍勢が騎士国の軍勢に思うように戦わせなかったことで、騎士国の連中がどう戦ったらいいのか迷いを抱いていたからだろう。

 しかし昨日の戦いで、騎士国の軍勢は成果を上げた。ちゃんとノネッテ合州国の軍勢に五百に近い死傷者を出せた。

 この成功体験は、騎士国の軍勢に自信を付けさせ、攻撃の勢いをもたらすんじゃないか。


「もし騎士国が自信満々に集団で攻めてきたら、被害がどれほどになるか……」


 昨日の戦いは、恐らく騎士国の軍勢に様子見の姿勢が強かった。それは騎士国の騎士の一撃離脱と再突撃のインターバルが長かったことから、練習して見に付けた動きを実戦で確かめていたと伺うことができる。

 もし今日、様子見を終わりだと、本腰で攻めてきたら、被害は昨日の非じゃないほど積み上がることになるはずだ。

 この俺の懸念は、今日の戦争開始と共に、現実のものとなる。



 騎士国の軍勢が取った戦法は、昨日と同じ歯車の陣だった。

 しかし、昨日はこちら側の右翼と左翼に軍を分けての戦い方だったが、今日は中央に一極集中させる戦法を取ってきた。昨日と比べると、中央一点に限っては、二倍の人員で攻めかかられていると言い換えることもできる。

 攻めてくる人数が倍なら、こちらが受ける被害も倍になる――と単純な計算は、戦争では成り立たない。


「はやあああああああ!」

「中央の防御を固めろ! 前線で食い止めるんだ!」


 騎士国の騎士が独特の掛け声と共に剣を振るう。少し前までバラバラに突撃してきたとは思えないほどに、ひと塊で強力な一撃を与え、素早く去っていく。

 攻撃を受けた魔導鎧部隊は、その重い鎧ごと空中へと吹っ飛ばされ、前線後方へ墜落する。

 吹っ飛ばされて空いた穴に、騎士国の兵士と魔導鎧の部隊が雪崩れ込み、前線での優位を確保しようと乱打戦に入る。

 昨日の焼き増しのような光景だけど、明らかにノネッテ合州国の軍勢の被害が積み重なる速度が昨日より速い。

 氷が溶けるほどと形容されるほどじゃないけど、土壁がボロボロと崩れる程度には魔導鎧部隊の被害が出ている。


「陣形を中央を厚くするように移動して。このままだと抜けられる」

「すでにドゥルバ将軍が、左右翼にいる魔導鎧の兵士たちを中央に向かわせているようです」


 報告を受けて陣形を再確認すると、俺が考えた以上に巧みに兵士たちを動かしていた。


「――仕事が早い。しかも、ちゃんと左右翼に兵員は残してある徹底ぶり」


 中央の防御を厚くしつつも、左右翼から敵が抜けて来ないように最低限の人員は残してある。

 この様子を見せられると、やっぱり俺には用兵家としての才能は乏しいんだなと実感させられる。

 しかしその劣等感は、戦争を部下に任せることができるという事実の裏返し。

 それなら戦争はドゥルバ将軍や他の部隊長以上の兵に任せて、俺は注意力を別に向けることにしよう。


「騎士王や前騎士王の姿は――今日も前線にないか」


 これが普通の相手なら王や軍の代表者が前線に来るなんてあり得ないと思えるのだけど、相手はあの騎士国だ。騎士王や前騎士王なんていうエース級の手札があれば、温存もせずにバンバン使うことが常道だ。

 それにも関わらず、騎士王も前騎士王も前線に居ないのは不自然だ。

 今代騎士王に限れば、以前から一変して騎士国の軍勢が戦術を使い出したんは彼の影響だろうから、後方で指揮に専念していると考えられなくはない。

 しかし前騎士王は、いま現在の立場で言えば、一介の騎士でしかない。その一介の騎士が、騎士王と成れるだけの実力を持つ。投入すれば大戦果が期待できるうえ、仮に打ち取られても被害は騎士一人とカウントされる。そんなハイリターンローリスクな手札なら、戦争で使わない手はない。


「それなのに前線に居ないのは、使いどころを見計らっているだろうからだろうな」


 前線での攻防は、ノネッテ合州国の軍勢側の被害が増えていっている。つまり騎士国の側から見れば、現行戦力でノネッテ合州国の軍勢をすり潰せているということ――欲目を出して切り札を投入しなくても、十二分に戦果を上げられる公算がでる状況だ。

 そして騎士国の戦争目標は、帝国の軍勢が最終防衛線に到達する前に、ノネッテ合州国の軍勢と決着すること。

 その二点を鑑みると、騎士国の切り札の使い方は絞られてくる。


「こちらの指揮官連中を狙い撃ちにすることだろうなぁ……」


 ノネッテ合州国の軍勢の強みは、魔導鎧の力もあるが、兵数の多さと多い兵種の運用の巧みさだ。

 多い兵を巧みに操るには、指揮する者が必須だ。例えば、こちらの指示を待たずに的確な防御運用をやってみせた、ドゥルバ将軍のようなね。

 仮に、それら指揮する者たちが全て殺されてしまったら、ノネッテ合州国の軍勢は烏合の衆と化してしまう。


「指揮官狙いの他に、命一つで一番の大戦果を狙うなら、狙うは俺だろうけどね」


 今の俺の実力は、並みの騎士国の騎士相手なら、手練手管を使えば勝つことが出来る程度にはある。それは馬術が上手かった騎士国の騎士を倒せてしまえたことからも確かなこと。

 そんな俺を単騎で倒そうと考えたら、少なくともファミリス以上の騎士――王族の護衛騎士よりも強い者が必要になる。

 それほど強い存在なんて、騎士国にもそうざらには居ないはずだ。

 それこそ、姿が見えない今代騎士王と前騎士王――あと他に数人といったところだろう。


 俺が敵の戦法に予想を立てていると、前線左翼に動きがあった。

 前線を構築していた兵士が吹っ飛んで、上空高く巻き上がっている。 


「ミリモス様! あれは、前の騎士王がと!」


 吹っ飛んだ兵士が元居た位置に目を向けると、確かに前騎士王テレトゥトスが馬に乗って駆けている姿があった。

 とうとう、ここで切り札を切ってきたか。

 自信の危機が高まってきたことに対して、俺は腹を据えようと心構えを――しようとして、右翼の騒ぎが耳に入った。続いて、俺の隣にいる後方部隊の部隊長の悲鳴もだ。


「あっちからは、女騎士が!」


 急いで右翼に目を向ければ、見たことのある顔の女性騎士――いや、コンスタティナの姿があった。

 テレトゥトスとコンスタティナが乗る馬の鼻先は、迷いなく俺に向けてある。

 狙う先を隠す気のない姿に、俺は微苦笑する。


「確実に俺を討つために、切り札を二枚も使ってきたか。大盤振る舞いだな」


 流石に、あの二人を一度に相手にしたんじゃ、俺だって一たまりもない。

 そんな気持ちからでた独り言が聞こえたのか、後方部隊の部隊長は青ざめた顔を俺に向けてきた。


「ミリモス様、ここはお逃げください。後方部隊で足止めをします!」

「有り難い申し出だけど、それは出来ないよ。あの二人が馬の鼻先を反転させて、こちらの前線を後ろから突くようなことになったら、戦線が崩壊しちゃうからね」


 いま現在、騎士国の側から見れば、勝利条件が二つ手元に転がっている。

 一つは、前騎士王とコンスタティナとで、俺の首を取ること。

 もう一つは、前騎士王とコンスタティナとで、ノネッテ合州国の軍勢の前線を後ろから突いて大被害を与えること。

 俺が討ち取られればノネッテ合州国の軍勢の士気は見る影もなく墜落するだろうし、多くの死傷者がでた場合でも兵数と士気の低下によって、戦争は続けられなくなる。


 対してノネッテ合州国側が現状を打開する方法は、前騎士王とコンスタティナを打倒ないしは撃退することだ。

 流石に俺一人であの二人を止めることはできないので、後方部隊には片方の足止めをして貰わないといけない。いやまあ、あの二人のどちらかを撃退すること自体、俺にとっては大仕事なのだけどね。

 では後方部隊の兵士たちには、どちらの相手をして貰おうか。

 俺一人で追い返しやすいのは、どう考えてもコンスタティナだ。しかし彼女の相手を選ぶということは、兵士たちが前騎士王と戦うことになるということ。前騎士王の猛攻に、後方部隊がどれほどの時間耐えられるだろうか。

 逆に兵士にコンスタティナの相手を任せた場合だと、長時間の足止めが出来るはずだ。魔導鎧を来る者たちは、少なくとも一度はファミリスと模擬戦を行った経験がある。その経験を生かせば、撃退することはできなくとも時間稼ぎぐらいはやれるはずだ。


 つまり戦いやすい相手を短時間で打倒する方なのか、手強い相手と長時間戦える方なのかを、俺は選ぶ必要があるということだ。


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[一言] 強さで劣る主人公が精神面でも肉体面でも特に目立った成長もしないまま数年が過ぎる描写が普通にあり、新兵器も盾持たせて耐えるだけで、それ以外は策に目新しさもなく、勝利条件が防戦一方で映えず、普通…
[一言] 弱い主人公は、読んでて疲れます!
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