三百六十五話 予想と対策
前騎士王テレトゥトスの模擬戦を通じての遠回りな忠告を受けてから、俺は騎士国に勝つ方法を模索することにした。
現状の魔導鎧を全ての兵士に配給しようと、神聖術を扱う騎士国の騎士や兵士の前にはあまり役立たない。
では、さらに魔導鎧を発展させ、どうにか戦えるようにすればいいのではないか。
そう考えてはみるが、もしも魔導鎧を着た兵士が騎士国の騎士に匹敵する武力を発揮することが出来るようになったのなら、きっとその魔導鎧が完成するより先に騎士国がノネッテ合州国に宣戦布告をしにくるだろうな。
俺は俺なりの『正しさ』を示しながら、騎士国が提案してきた『魔導具の使用中止』を突っぱねた。そのため騎士国は、『魔導具の使用を止めるため』という大義名分で、戦争を起こすことが出来るようになっている。
すぐに戦争を仕掛けてこないのは、俺の言い分にも一理あることに加えて、騎士国の武力にノネッテ合州国の武力が劣っていること――つまり、いつでも潰せる相手だから少し様子を見ていようと考えたに違いないからだ。
武力で勝てないのなら、経済的な方面で勝つのはどうだろうか。
一応は考えてみたが、この世界の常識と照らすと、どうも上手くは行かなさそうだ。
仮に騎士国を借金漬けに出来たとしてだ、その借金を戦争で踏み倒す方法が、この世界では当たり前に通じてしまうのだ。
いや、騎士国は標榜している『正しさ』から、借金を踏み倒そうとはしないと考えられる。
しかしながら、国が傾くほどの借金を背負ったとき、国を存続させるためという大義名分で、借金を帳消しにする戦争をお越しに来ないとも限らない。なにせ国が持つ『正しさ』の一つに、国家が存続することが含まれているのだしね。
ノネッテ合州国だけで武力も経済も騎士国に敵わないとなると、味方を増やすのはどうだろうか。
もちろん当てにする先は、帝国だ。
帝国とノネッテ合州国が共同して戦えば、騎士国を叩き潰すことも出来なくはない。
もともと帝国と騎士国の武力は拮抗していた。
ノネッテ合州国が帝国と手を取り合えば、こちら側に拮抗が傾くことは確実だ。
しかし帝国にモノを頼むと高くつくことを、俺はフンセロイアを通して知っている。
そそれこそ、フンセロイアと関わったことで、ノネッテ国が小国を併合し続けて大国へと至らなければならなかったほど。
帝国と手を取り合うのは、最終手段として残しておきたいのが正直な気持ちだ。
あと考えられる方法としては……一騎討ちか。
ノネッテ合州国の代表と騎士国の代表が決闘を行い、ノネッテ合州国側が勝てば騎士国にある程度の要求を飲ませることができる。
『聖約の翼』がフォンステ国に行ったときは、フォンステ国が『聖約の翼』の連合に加入することが取り決めだった。
それを考えれば、ノネッテ合州国内で魔導具を使い続けることを認めること、という条件は十二分に優しい内容だろう。なにせ認めたところで、騎士国内には一切の影響はないんだから。
しかし一騎討ちとなると、代表者の選出が不可欠。
騎士国側の代表には、きっと新騎士王のジャスケオスが出てくる。
なら騎士王に勝てる相手を、ノネッテ合州国側も出さなければいけない。
そして、そんな人物は現状のノネッテ合州国内には存在していない。
特訓の果てに勝てる可能性がある人物は、ファミリスか俺――ファミリスは騎士国と敵対することはないだろうから、実質的に俺だけとなる。
「……つまり確実に勝つ道を選ぶなら、騎士国を刺激しないよう気を付けながら魔導技術を発展させつつ、経済的な方面からノネッテ合州国と仲良くした方がいいと騎士国の人たちに思わせるよう働きかけつつ、俺は俺で騎士王に勝てるよう特訓しなければいけないってことか」
自分で要約してみたものの、それなんて無理ゲーだと愚痴りたい。
とりあえず、手っ取り早く出来ること――特訓の頻度と強度を上げるようファミリスに頼むしかない。困難を考えると、とてもやりたくはないんだけどね。
俺が悲壮と共に決意を固め、ファミリスの特訓を受け初めて十日ほど経った。
全身筋肉痛になりながらも、俺は執務室で日課の業務を行っていた。
そんなとき、文官がおずおずとした調子でやってきた。
「ミリモス様。国王から書状がきております」
「国王――フッテーロ王から?」
珍しいこともあるものだと、俺は文官から書状を受け取る。
基本的にフッテーロの統治法は、ノネッテ国が合州国という特性もあって、ノネッテ本国以外に口出しをすることを極力抑えている。口出しした唯一の例は、ノネッテ合州国全土に発布した領地発展の御触れだけだ。
それにも関わらず、今回俺に書状を出してきた。
なにやら嫌な予感を覚えながら書状を開いて確認してみると、俺を名指ししたノネッテ本国への召喚命令だった。
俺が『面倒な』と表情を歪ませていると、目の前の文官だけでなく、隣で作業を手伝ってくれているホネスとジヴェルデも気遣わしい顔を向けてきた。
「センパイ。悪い事でも書かれていたんですか?」
「もしや、騎士国の件でなにか言ってきたんではありませんの?」
ホネスとジヴェルデの予想に、俺は苦笑いを返す。
「二人が予想した通り、直に弁明を聞きたいって呼び出しを受けたんだよ」
こうして書状がきたあたり、きっと騎士国は俺を直接説得することを諦めて、回りから切り崩す手段にでることにしたんだろうな。
しかし、こうして遠回りな手段を用いてくるということは、一つだけ嬉しい情報があるということ。
「どうやら騎士国は、ノネッテ合州国と戦争したいというわけじゃないようだ」
フッテーロが俺と会って話したいということは、騎士国がフッテーロに俺への説得を頼んだということ。
もし手っ取り早く戦争で言うことを聞かせようとするなら、こんな回りくどい方法を取るはずもないんだしね。
でも、ここで問題が一つ。
どうして騎士国はノネッテ合州国との戦争を回避したいと思っているのかだ。
俺が視察団に言い放った主張が一理あると判断されたからか、それとも戦争状態になったノネッテ合州国が帝国と手を結ぶことを危惧したからなのか、はたまた俺には考え付かない思惑があるのか。
なんにせよ、俺がやらなければならない事が、一つ増えたことは間違いない。
ノネッテ本国でフッテーロへの説得だ。