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三百五十六話 視察団への対応あれこれ

 ルーナッド州に知らせが来てから十日で、騎士国からの視察団がやってきた。

 一応、俺の方から視察団を受け入れると書状を返してはいるのだけど、その返事が騎士国の王都に到着してから来たにしては到来が早すぎる。

 恐らく視察団は、知らせを出した直後に王都を出発し、騎士国とノネッテ合州国の国境で、俺の返事が来るのを待っていたんじゃないかな。

 そう考えてしまうほど、早い到来だった。


 騎士国の視察団に対して、俺はどんな態度で挑むべきかを考えた。

 本来なら、俺の妻であるパルベラと縁のある騎士国の人たちは、歓待すべき相手だろう。特に、視察団の中にはパルベラの父親である前騎士王テレトゥトスもいるのだから、下に置かない対応が相応しい。

 しかし今回の件では、ノネッテ合州国の側が『魔導具は正しくない』と因縁を付けられた形になっている。

 いわば視察団は、言い掛かりを付けてきた相手。

 そんな相手を手放しで歓待することは、ノネッテ合州国の対面を考えると、とても出来ない。

 下手に歓待してしまえば、ノネッテ合州国は騎士国媚びを売っているように見えてしまう――ノネッテ合州国の立場が騎士国の下に順位付けされてしまいかねないからな。


 もっとも、ここまでの警戒は、視察団相手に懸念のし過ぎと言えなくもない。

 だけど、これがノネッテ合州国だけに限る問題だったのなら――それこそ俺としては騎士国の下に位置付けられても構わないと思っている。

 しかし、事はそう単純ではない。


 ここで厄介なのは、俺が過去に手に入れた、ノネッテ合州国が持つ『帝国とノネッテ国は同格』という証明書の存在。

 つまり、ここでノネッテ合州国が騎士国の下の立場になってしまうと、自動的に帝国が騎士国の下という見方ができてしまう。

 そんな馬鹿な見方があってたまるかと思いたいけど、相手は帝国――難癖のような理由で他国を侵略し続けてきた大国だ。隙を見せたら、これ幸いと襲い掛かってくる可能性が高い。

 特に現在、ノネッテ合州国は騎士国に目を付けられている関係で、帝国と戦争になっても騎士国の援助を期待できない立場だ。

 どうあっても、帝国とノネッテ合州国が戦争をする火種を産むわけにはいかなかった。


 というわけで、俺はルーナッド州の領主として、騎士国の視察団を歓待するわけにはいかなくなった。

 しかし、あまりに礼を失した扱いでは、視察団に悪感情を持たれてしまい、好感度の悪化から『魔導具は正しくない』という認識を正すことが難しくなる可能性がでてくる。


 以上のことから俺は、帝国に難癖をつけられない程度に、しかし騎士国の視察団が『難癖をつけた相手に対し、この扱いなら納得できる』と考えてくれる範囲で、歓迎の意を示さなければならない。


「考えすぎで、頭が痛い」


 俺が愚痴を零すと、視察団への対応を手伝ってくれている、ホネスとジヴェルデが笑みを見せた。


「センパイが頭を使う分だけ、世の平和が保たれるんです。必要経費ですよね」

「仕方がないと諦めるしかありませんわ。それで、対応は指示された通りで変更はないのですわよね?」

「ああ。俺は視察団を面会という形で受け入れるが、扱いは普通の客へもの――騎士国からの要請だから視察の人は受け入れるけれど、その受け入れは不本意なものだ、っていう形式にするわけだよ」


 大国からの客を相手にするには、少々無礼な対応ではある。

 しかし、因縁をつけてきた相手に対する対応としては、領主との面会がある分だけ少し上等な部類と言える。

 この対応こそ、ノネッテ合州国が騎士国にも帝国にも睨まれない方法だと、俺は考えたわけだった。


「それで、今回の視察で騎士国は、魔導具の使用を認めてくれると考えますの?」

「さあね。『正しく』評価してくれることを祈るばかりだよ」


 騎士国の『正しさ』に縋る以外に、魔導具の使用は適性だと訴える方法がない。

 視察の人を取り込む常套手段の賄賂やハニートラップは、『正しさ』を標榜する騎士国の人たちの逆鱗に触れる可能性があるから使えないしね。


「そうだ、忘れていた。ホネス、手紙を騎士国の視察団に渡しに行ってくれないか」

「あたし? 視察団にはパルベラのお父さんがいるんだから、パルベラの方が適任じゃないですか?」

「その『お父さん』に、ホネスが手渡すのが良いんだよ」

「それは、どうしてです?」

「視察団に対する公的な対応と、視察団の中にいる前騎士王への私的な対応を別にしたいからだよ」


 不思議顔を続けるホネスに、俺はさらなる説明を続ける。


「騎士国の次女姫だったパルベラという、騎士国からの客人を相手にするには一番に相応しい人物を出さない。そのことで、あからさまなほどに塩対応だと見せるわけ。その一方で手紙の中には、前騎士王が私人として来客する分には歓迎すると書くのさ」

「なるほど。視察団は歓迎しないけど、パルベラのお父さんなら歓迎するってことですね」

「パルベラやファミリスからの話じゃ、前騎士王は俺とパルベラの子供の顔を見るのが楽しみにしているらしい。視察団と同じ対応じゃ、子供の顔を見せることはできないからね」

「そうですね。領主の子供の顔を見せるってことは、そのお客人を大切に扱うってことですもんね」

「そう。自分で身を守れない歳の子供に面会させるってことは、その相手から害されないと考えているって証拠だからね」


 本当に、対応が面倒くさい。

 いっそ、前騎士王が一人で遊びに来て、勝手にルーナッド州の内を見てくれた方が、こちらとしては対応が簡単だったのに。

 そもそもの話。騎士国の諜報員といえる黒騎士が、各地で情報収集をしているはず。

 その黒騎士から魔導具の使用に関しての情報も上がっているはずなんだから、視察団を送ってくる必要性はないんじゃないだろうか。

 それとも王が変わったことで、そのあたりの仕組みも変わったのか?


 分からないが、こちらとしてはやるべきことをやるだけ。

 願わくば、魔導具の使用が『正しい』と、騎士国の視察団に判断してほしい。

 もしも『正しくない』と判断されでもしたら、ノネッテ合州国は魔導具の使用を全て止めるか騎士国との戦争かを選ぶかの必要に迫られてしまうのだから。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 現実の環境問題も利権がらみで正しいかは良くあるから騎士国の利権なんだろうね
[一言] 魔道具が正しくないは意味不明だけれどそれを言うならば、知って訓練している側だけ使える神聖術だって対等じゃ無いんだから卑怯だろうにね。
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