三百四十六話 連携
アトリデーモス王とテスタルド。
この二人と戦って気付いたことがある。
アトリデーモス王は、戦士の国の王ということだけあって、技術達者な面がある。
剣の操作は感心するほどに上手で、俺の防御をすり抜けて攻撃を当てようとしてくる。
その一方で、神聖術の使い方はイマイチ。身体強化は出来るようだけど、通り一辺倒に、ただ出来るだけ。
通常では神聖術の発露具合を押さえて、攻撃を当てる瞬間に増大させるといった、ファミリスなら当たり前にやってくるような真似はできないようだ。
テスタルドは、武器が大剣から片手剣に変わった以外には、以前に戦ったときと変わり映えがない。
きっとアナビエ国に流れついてからは、戦士たちの育成に力を注いできたんだろう。
そのため、自己の技量は据え置きになってしまっている。
でも自己技術の推進がなかった代わりに、アトリデーモス王との連携という新たな武器を手にしている。
それも、あらかじめ二人申し合わせて戦い方を練っていたというよりも、その場その場でテスタルドがアトリデーモス王に対して即興で息を合わせているように見える。
剣の技量は卓越でも、神聖術の使い方が拙い、アトリデーモス王。
剣の技量は把握済みでも、神聖術の使い方が上手な、テスタルドが王の補助に入る。
お互いがお互いに不足し合っている部分を補う合っているたね、一人一人を相手にするなら苦にならない手合いなのに、二人同時だと厄介になっている。
そんな二人を撃破する方法を、俺は二つ思いついていた。
一つは、片方を一気呵成に攻め立てて、無理気味にでも短時間で撃破して、一対一の状況に持ち込むこと。
一対一に冴えなってしまえば、俺はアトリデーモス王に神聖術の使い方で勝るし、テスタルド相手なら以前の戦いの記憶を流用して勝つことができる。
しかし、この方法は危険度が高い。
今回は取り決めありの集団決闘だ。無理攻めしている中で、もしも俺が剣を弾き飛ばされてしまったら、俺は戦線離脱しなければならなくなってしまう。
そしてアトリデーモス王もテスタルドも、俺が武器を失うことでの勝利を目指して動いている節が見える。
実際、今まさに、アトリデーモス王が『巻取り』という剣の技で、俺の手元から剣を奪い取ろうとしてきた。
俺は巻取りの技が完成する前に、神聖術で増した力任せに自分の剣を横に振り抜くことで、アトリデーモス王の技から抜け出す。
しかし無理に剣を振ったため、俺には隙が出来ている。
ここでテスタルドが、俺の剣を持つ方の手か腕を狙って、突きを放ってきた。
俺は身体捌きを行い、コマのように自分の身体を横向きに回転させて突きを避け、回転した勢いを載せた剣撃をテスタルドへと繰り出す。
しかしこの攻撃は、身を引いたテスタルドの眼前を通り過ぎてしまう。どうやらテスタルドは、突きが当たらないと思った瞬間に攻撃の手を止めて、回避に専念していたようだ。
こんな感じで、アトリデーモス王とテスタルドの組み合わせは、無理攻めを成立させるには骨がある相手だ。
二人の力量を考えると、俺には七割方は成功させる目算は立つ。けどそれは、三割は失敗するということでもある。
全く手がない相手なら、無理攻めを敢行するべき成功割合だけど、もっと成功率の高い手が思う浮かんでいる現状、あえて使いたい手段でもないよな。
「ふう。仕方がない」
一息入れ、俺は思いついていたもう片方の戦法を取ることにした。
「じっくりとお相手しましょうか」
二人の力量は把握した。その連携具合についても、大体わかった。
なら後は、一つ一つ勝ちへの状況を積み上げていくことで、この二人になら勝てる。
確実に将来の勝利を引き寄せる手段だけど、唯一時間がかかるのだけが難点だ。
この戦い方の参考先である、訓練時のファミリスの姿を思い浮かべながら、俺は意識を切り替える。
相手を一手ずつ追い詰める事を念頭に置いて、仮に俺が打つ手を間違えても即リカバリーできるように心構えをする。
俺の雰囲気が変わったことを、アトリデーモス王とテスタルドが感じたのか、一度俺から距離を離してから構え直している。
さて、どう攻めるか。
俺は手順を考えながら、最初の一手で狙う相手を決めた。