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三百四十話 騒動は続く

 アテンツァの妊娠が発覚したこともあり、その子供の父親が俺だとパルベラを始めとする妻たちに知らせた。

 前世の世界なら、俺が妻たちに一斉に糾弾される場面だろう。

 しかし今世では、そうはならなかった。しかも俺にとって都合がいい方向にで。


「まったく。私に神聖術を習っている者が、寝込みを襲われて不覚を取るなど。これは訓練をもっと厳しくしないと」


 ファミリスが放つ苦言の連続に対して、パルベラは悪意のない微笑みを浮かべる。


「今回の一件は、寝込みを襲われてしまうほどに、ミリモスくんは妻であるわたくしたちのことを信用していた証拠です。不意を打たれてしまったからと問い詰めることは、可哀想です」

「また姫様は、ミリモス王子の肩を持って」

「しかたないでしょう。ジヴェルデとアテンツァが上手だったのだと、そう思ってしまったのですから」


 二人の言葉には、俺を責める響きがない。

 確かに、ファミリスは俺の失態に起こってはいる。しかし、怒っているのは不意を打たれたことに対してであって、アテンツァを妊娠させたことではない。

 俺が不思議に思っていると、ホネスが苦笑いしながら言ってくる。


「今更、センパイの子供が一人増えたところでって感じです。それに浮気ならまだしも、今回は罠にはめられた結果で。一夜の過ちとも言えないのに、センパイを怒る理由がないと思いませんか」

「そういうものか?」

「まあ、正直に言えば面白くはないですよ。でも、センパイが妻全員を愛してくれていることは『夜の渡り』が、子供が出来た今でも続いていることで分かってます。それに妊娠させた相手が、顔見知りのアテンツァさんだって点も、仕方がないかなと諦めがつきます」


 どういうことかと詳しく聞くと、かなり前からジヴェルデは俺とアテンツァの間に子供を作らせようと画策していたという。


「裏で、センパイとアテンツァさんを二人っきりにさせてみようと試みたり、アテンツァさんを嗾けようとしてみたりしてましたよ。センパイは全く気付いていなかったみたいですけど」

「……本当にか?」

「本当にです。それに、そういう画策をしていたのは、パルベラも同じですし」


 俺が驚いて顔を向けると、パルベラが誤魔化し笑いを浮かべていた。


「いえ、企んでいたのは一時的にです。ミリモスくんにファミリスのお相手をして頂けないかなと、そう思っただけのことで」


 この件は俺だけじゃなくて、ファミリスも知らなかったらしく驚いている。


「姫様! なんでそんなことを!」

「だってファミリス、私たちの子供の世話をしている中で、子供はいいな、子供が欲しくなるな、って呟いていたじゃない」

「……呟いていましたか、私?」


 ファミリスの表情は、心当たりがありつつも、発言を自覚していないような、納得と困惑が合わさったもの。

 どうやらパルベラが聞いたファミリスの呟きは、ファミリスの心の声が本人が知らないままに漏れ出てしまったもののようだ。


「子供が欲しいと言っていたから、ファミリスのお相手は誰が良いだろうと考えてみて、相応しい相手はミリモスくんぐらいしかいないなって。だから、ミリモスくんにファミリスのお相手を頼めないかと作戦を練った時期が、ちょっとだけあったの」


 止めた理由は、ファミリスが子供の世話をして喜んでいる姿を見て、要らない世話だと思い直したからだという。


「でも、ファミリスが望むなら、私からミリモスくんに頼んでも」

「いいえ! お構いなく! 今の状態で満足していますので!」


 そうきっぱりと断られると、俺に男としての魅力がないと断じられた気持ちになるから止めて欲しい。

 いや、ファミリスとそういう仲になりたいってわけじゃないから、断ってくれた方が良いっちゃ良いんだけどね。


 とまあ、アテンツァの妊娠の件は、なあなあな感じで終結した。

 でも俺と妻たちの間に、影響がなかったわけじゃない。

 いままでは、夜に寝床を共にしても、もう子供が出来ているからがっつかなくていいしと、お互い合意の上でピロートークで夜を消費する日もあった。

 しかし妊娠したアテンツァに対抗するかのように、性行為を行わない夜がないようになった。

 結果、妻三人とも仲良く同時期に妊娠した。しかも診察の結果、ホネスのお腹の中には双子がいるという。

 これで来年――双子と判別できるほどお腹が大きくなっている時点から数えるなら半年後ぐらいには、俺は新たに五児の父親になることが決まったのだった。



 私生活で色々と事件が起こった。

 それに呼応されたわけじゃないだろうけど、一つ大きな厄介事が舞い込んできた。


「ミリモス王子――いえ、ミリモス様に手紙がやって参りました」


 手紙がを差し出してきた文官が、俺の呼称を言い直す。

 そう、ノネッテ国の王がフッテーロに変わったから、俺は『王子』ではなくなった。だから、王子という呼称は間違いになっている。

 そんなことは、この文官も分かっている。でも、長年俺を『王子』と呼んできたので、つい口から出てしまったんだろうな。

 でも、言い間違えてしまう理由もわかるんだよね。

 今の俺は、王弟でありロッチャ州及びルーナッド州の統治者だ。だから敬称を付けるなら、『王弟陛下』や『領主様』とか『二州主』とかになる。

 そのどの呼称も、前世小市民だった俺にはしっくりこなかったので使うのを止めてもらって、単純な『様付け』で統一している。

 しかし文官たちの心の内には、どうやら俺のことを『様』以上の敬称を付けて呼びたい気持ちがあるみたいで、いまでも五回に一回ぐらいの割合で『王子』呼びになっている。

 俺自身が納得できる上手い敬称を発案できれば、この文官の言い間違えも治まるんだろうけどと、益体もないことを考えてしまう。


「手紙? どこの誰から?」


 大陸南部の大半を制覇したこともあり、俺に手紙を送ってくるような人物は限られている。


 まずは、ルーナッド州に滞在中の前王のチョレックス。もしくは後で本国での荷造りを終えて追いかけてきた、俺の母である、モギレナ前妃。

 二人とも孫を可愛がりたいので、俺や妻やファミリスに宛てて、どれそれを買って与えていいかと伺う手紙を出してくることがある。

 

 後は、ルーナッド州に隣接する領主から。

 こちらは、お互いの州での経済や治安の近況報告が主な、時節事に来るお仕事の手紙だ。


 頻度が少ないものの、帝国のフンセロイアからのものもある。

 内容の多くは、大陸南部にある唯一の他国――アナビエ国を早く攻め取ってしまったらどうかという、俺への焚き付けが主だ。

 ちなみに俺の返答は、全面戦争をするのなら王の代替えがあったから国の地盤を固めてからになる、といった感じではぐらかしている。


 それ以外の手紙となると、民や商店からの陳情ぐらいだな。


 そんな予想をしながら返事を待っていると、文官の口から予想外の言葉が飛び出してきた。


「中身は見ていないのでわかりませんが、送り主はアナビエ国の国主からで、内容は宣戦布告だと」

「……その内容ってことは、アナビエ国から使者が来たのか?」

「はい。手紙を渡し、内容を告げた後、早々に帰ってしまわれたようです」

「引き留めなかったの?」

「対応した者も引き留めようとしたらしいのですが、物凄い速さで走り去ってしまったらしく。その足の速さは、ミリモス様やファミリス様が走っているかのようだったと」

「なるほどね。それにしても、宣戦布告とは穏やかじゃないな」


 俺は受け取った手紙を開き、文面に目を向ける。

 書かれた文字を順に辿って内容を把握し、首を傾げる


「宣戦布告とは言いつつも、内実は『集団決闘』のお誘い――ねえ、『集団決闘』って何だか知っている?」


 俺に問いかけられて、文官は少し焦った様子を見せた。


「戦争の事柄なので、私どもよりも武官の方が詳しいことを知っていると思います。ですが、さわり程度でしたら把握しております」

「大まかに知りたいだけだから、教えてくれ」

「では――集団決闘とは、大人数で行う一騎討ちのようなものです。お互いの国が決められた数の猛者を国内から選び出し、それらを代表者として戦わせるのです」

「詳しい戦い方は?」

「一対一を繰り返して勝ち星が多い方の勝ちであったり、同数同士の戦争だったり、取り決めはその時でまちまちであったかと」

「なるほどね。でも、勝ち星の方ならまだしも、集団戦なら普通に戦争をするのと変わらないように思うけど?」

「ミリモス様の感想は、至極もっとも。歴史を見ても、集団決闘を受けた者の数は多くはないと聞いております」

「じゃあ、意味のない提案ってこと?」

「そう一概には言い切れません。集団決闘を出した側からすると、『同数の戦いなら俺たちが勝つ』と表明しているようなものですので」


 つまり、集団決闘を受ける必然性はないけど、受けなかったら受けなかったで『同数の戦いでは負ける』と暗に認めてしまう、ということになるわけだ。

 俺からすると、戦争は数だから数を揃えられた方が偉い。だから『同数の戦いで負ける』と思われようと構わないんじゃないかと思ってしまう。

 でも統治者という目線から見れば、負けた相手に言い分を残すことは良くないともわかる。

 今回の場合なら、『同数の戦いでなら勝っていた』とアナビエ国の人たちに思わせてしまうと、仮にノネッテ国が勝ったとしても、統治に影を落とす結果に結びつく。そしてその陰は、やがて不満の種を芽吹かせ、将来に反乱という実を付ける可能性がでてくる。

 これが帝国なら、支配地域に住む人たちを二等市民とすることで、その不満の種を身分格差の圧力で踏みつぶすことができる。

 しかしノネッテ国は、独自の法を持つ州が合わさっている国だ。仮にアナビエ国を攻め取ったら、国は州と名前は変えるものの、その民の身分は他の州民と同じになる。だから変に圧力をかけて不満を押しつぶすことは、合州国の制度上は出来ない。


「戦争に勝つだけを目指すなら、手紙を無視して普通に戦争する。アナビエ国を安全なアナビエ州と化すのなら、集団決闘を受けた方がお得」 


 国土に差があるから、普通の戦争なら動員できる人数の差で、ノネッテ国の勝ちは揺るがないだろう。

 逆に同数による集団決闘の場合は、アナビエ国に勝ちの目が見えてくる。いや、むしろ集団決闘か一騎討ちを選ばない限り、アナビエ国に勝ち目はない。


 さて、普通の戦争か集団決闘か――確実な勝利のみを目指すのか、勝った後の統治も見据えるのか。

 これは決断しなければならないな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「陛下」は君主の尊称じゃないの?王弟陛下じゃなくて王弟「殿下」だと思います。
[一言] アナビエ国は戦士と生産者の国だったか。 神聖術使いと同等の動きを訓練で生み出してるのならすごい。
[一言] >>寝込みを襲われて不覚を取るなど。 ブーメラン?
2021/05/04 20:42 ブーメラン
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