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三百二十九話 敵国の村から救援要請

 俺たちノネッテ国の軍隊が、キレッチャ国の中を進んでいく。

 朝日が出たら進軍を始め、昼食のための大休憩を挟み、夕暮れ前に停止して野営を行い、夜は交代制の歩哨以外はテントの中で就寝する。

 その合間合間に傭兵崩れの野盗を退治したり、待ち伏せしていたキレッチャ国の殿兵を相手にしたりする。

 そんな日々を過ごしながら、戦争開始から五日が経過していた。


 この俺たちの行動は当然に侵略行為だ。

 だから人に出くわしたら一目散に逃げられてしまうし、村の近くを通りかかったら村人全員から敵対視される。

 それが普通の反応だ。


 しかしキレッチャ国の場合は、少しだけ毛色が違っていた。

 キレッチャ国の村人たちは、俺たちを見ると、喜び勇んで近寄ってくるんだ。


「お待ちしておりました! お助けください!」


 村人の言葉に、俺だけでなくノネッテ国の兵士たちも、呆れ顔での苦笑いといった表情になってしまう。

 そんな俺たちの心の中に起こった言葉は、「またか」で統一されているに違いなかった。


「どうかしましたか?」


 兵の一人が儀礼的に問いかけると、近寄ってきた村人たちの顔が喜色に彩られる。


「助けていただきたいのです! 我が村に野盗が住み着いて、乱暴の限りを!」


 村人の深刻そうな口調での訴え。

 しかしながら、俺も兵士たちも表情を変えない。いやむしろ、苦笑いを強くする。

 なぜなら、この地点までの進軍の中で、同じような求めを何度も言われてきたからだ。


 俺たちの反応が芳しくないことを見てか、村人は必死になって助けを求め始める。


「お願いです! 助けていただけましたら、村の井戸を自由に使っていただいて構いません! 食料も出し得るものなら全部出しますので! どうか、どうか!」

「お願いいたします!」


 他の村人たちも、どうにか助けてもらおうと、別の兵士に縋りつこうとし始めた。

 でも兵士たちは、この人たちが暗殺者かもしれないため、村人に体を掴まれるようなへマはしていない。

 当然の自衛行為なのだけど、この兵士たちの動きをどう捉えたのか、村人たちの顔に絶望が広がっていく。

 いやいや。こちらが何も言っていないうちから、勝手に残念がるのは辞めて欲しいなと、俺なんかは思ってしまうわけだ。

 俺は村人を応対している兵士に、頷きで指示を出す。

 兵士は呆れ顔をさらに強くすると、村人たちへ作り笑顔を向けた。


「分かった。お前たちの村に居るという無法者は、我らが退治してやろう。村の場所まで案内するといい」


 兵士の言葉で、村人たちの表情は絶望から希望へと変化した。

 きっと村人たちは、地獄に仏といった心境だろうな。


 そんな光景を眺めている俺に、ドゥルバ将軍が顔を寄せてきた。


「どれほどを遣いに出すので?」

「魔導鎧を着た者が五人でいいでしょ。この救援要請が罠の類だったとしても、魔導鎧を着た者が五人もいれば、脱出するぐらいはできるだろうしね」

「傭兵崩れには過剰だとは思いますが――あの村人たちが、傭兵崩れに抱き込まれていて、こちらを罠にはめようとしているとお考えで?」


 あの兵士の言葉に一喜一憂する姿が演技なら、相当な役者だ。舞台上で演じれば、客から金がとれるほど、真実味がある。

 いやまあ、村人からの救援要請が罠の一部だと、そう考えなかったといえば嘘だけどね。


「村人たちの様子から察するに、罠の疑いは薄いと分かっているよ。でも、罠だと警戒して行動したところで、こちらにそんなに損はないでしょ」

「ふむ。出しゃばりなミリモス王子が、兵士に村人の対応を任せているのは不自然と思っていたが、それは警戒してのことか。なるほど、なるほど」

「そう、その通り――って、俺のこと『でしゃばり』なんて風に思っていたわけ?」

「実際、ミリモス王子は出しゃばりでしょう? 総指揮官がのこのこと最前線に向かっていったり、戦争で勝ち取った土地の当時に自分で腕を振るっりするのですから」

「俺は必要なことを、必要と思ったときにやっているだけだけだよ」


 そんな会話を繰り広げている間に、魔導鎧を着た者が五人、俺たちの近くにやってきた。

 どうやら話を横で聞いていた誰かが気を回して、兵士に出撃の用意をさせてくれたようだ。


「じゃあ、村の救出は君たちに任せるよ。終わったら戻ってきて」

「「「はっ! 了解です!」」」


 五人の兵士は、魔導鎧を動かして敬礼すると、村人の案内で村のある方向へと向かっていった。

 一方で俺たちは、止めていた行進を再開させる。

 軍隊の先頭から歩き始め、その後ろが歩き出し、更にその後ろがと、伝播するようにして行進が始まる。

 大人数での移動だ。キビキビとした進みはできないため、どうしてもゆるゆるとしたものにならざるを得ない。

 こうして動き出すまで時間がかかる軍の動きを見ると、俺にある考えが浮かんだ。


「もしかして、キレッチャ国の王は状勢不利と見た瞬間に、傭兵が村を襲うことも、俺たちが見捨てずに助けにいくことも見越して、わざと自軍を潰走させたのかもしれない」


 俺の独り言に、ドゥルバ将軍は疑問顔を向けてきた。


「殿軍に向かない傭兵を殿軍に仕立てるために、傭兵たちが自国の村を襲うように仕組んだと?」

「俺の思い過ごしかもしれないけど。事実、俺たちの行軍は何度となく止められているんだよね」

「全軍が停止してしまえば、全軍が前進するには時間がかかる。だからこそ村人の救援要請は、時間を稼ぐための方策であると?」

「村人たちは何も知らないだろうけどね。でも、そう考えない限り、ここまでの道で敵の殿軍と会敵していないことに説明がつかないんじゃないかなってね」


 俺の考えすぎならいいけど、もしもキレッチャ国の王が自国の村や人を簡単に切り捨てる――万物を『損切り』できる考えの人物だったら、この戦争を勝ち切れないかもしれない。

 そんな危惧を、俺は抱いたのだった。


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