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三百二十七話 追撃戦の準備

 キレッチャ国の軍隊を打ち負かした。

 潰走する敵がいるのなら、このまま追撃戦に移るのが定石だ。

 しかしながらノネッテ国の軍隊では、そのまますぐにというわけには行かない事情がある。

 魔導鎧は、絶大な防御力と攻撃力を誇るが、着ているだけで人の魔力を強制的に吸い取っていく機構になっている。

 そのため着たまま追撃すると、追撃途中で装着者が魔力切れで昏倒してしまうのだ。


「魔導鎧部隊は鎧を脱いで休憩! 補給部隊に鎧を積み込んで、後続として移動するように! 魔導鎧部隊以外の者は、部隊を再編してから、追撃に移る!」


 こうやってもたもたしている間に、敵兵は俺の視界の遠くまで逃げてしまっている。

 でも敵陣の物資を残して逃走しているので、延々と逃げ続けることは難しいだろう。


「いや。キレッチャ国は商人の国だ。資金に任せて、食料を貯め込んだ倉庫の一つや二つ準備しているかもしれないな」


 もし逃げるための物資を集積している場所があれば、この追撃戦は芳しいものにはならないだろうな。

 どうしたものかと考えながら追撃戦の準備をしていると、ガクモ王が少数の魔物を連れて俺に近づいてきた。


「ふわ~。ミリモス。戦いは終わった?」


 欠伸をしながらの問いかけには、欠片も緊張感がなかった。

 俺はガクモ王の様子に肩をすくめると、キレッチャ国の兵士たちが逃げていく方を指す。


「逃げた敵を追うため、追撃戦の準備を行っているんだよ」

「ふーん。あんなにいっぱいいたのに、逃げちゃったんだ」


 ガクモ王は中空を眺める目つきをした後で、キレッチャ国の兵士たちが去っていく方向に目を向け直した。


「まだ日が高いけど、あんなバラバラに逃げているんじゃ危険はないかな。僕の魔物たちに食い溜めをさせるには、いい機会だし」


 ふらりと立ち去ろうとするガクモ王を、俺は慌てて呼び止める。


「それはつまり、追撃戦に参加するってことでしょうか?」

「こっちは勝手にキレッチャ国の人間を狩るから、そっちも勝手にしていいよ。取り決め通り、キレッチャ国の土地は全て、ミリモスにあげちゃうしね」


 ガクモ王はそう言うと、指笛を鳴らした。

 その音に反応して、一塊で休んでいたガクモ王の配下の魔物たちが一斉に移動を始めた。特に鳥の魔物は、キレッチャ国の兵士たちが逃げた方へと、複数が飛び立っていった。

 ガクモ王は魔物と意思疎通ができるようだから、あの鳥の魔物は空からの斥候が役目なんだろうな。


 ガクモ王と魔物たちがキレッチャ国の中に入っていく姿を見ていると、ドゥルバ将軍が慌てた様子で俺の方へと走ってきた。


「ミリモス王子。止めぬのですか?」

「止めるって、ガクモ王たちを? なんで?」

「……貴奴は、魔物に人間を食させるのです。監視する者が必要ではないかと」

「ガクモ王が、キレッチャ国の兵士だけじゃなくて、一般民衆をも魔物に食べさせようとするって危惧しているわけだね」


 ドゥルバ将軍の言い分はわかる。

 しかしながら、ガクモ王の行動を止める権利は、俺にはないんだよなぁ。


「それは仕方がないと諦めるしかないよ。なんたって、この戦争の主役はガクモ王とその魔物たち。俺たちノネッテ国の軍隊は、ガクモ王の救援要請に従って動く、いわば援軍でしかないんだ。主役の方針を転換させるには、援軍の立場からの言葉じゃ、意味が薄いだろうね」

「立場からの命令系統を考えれば、この戦いにおいて、確かにガクモ王こそが最上位命令者であることは間違いのないですが」


 俺は割り切れない様子のドゥルバ将軍の肩を叩き、キレッチャ国の兵士が逃げた方に目を向けさせた。


「そんなに心配なら、ガクモ王とキレッチャ国の兵士たちの間に入って『防風林』の役をやればいいんだよ。でもそれには――」

「素早い舞台転換こそが必要というわけですな……」


 ドゥルバ将軍はやりきれない思いを飲み込んだ表情をした後、ノネッテ国の兵士たちに大声を張り上げた。


「さっさと追撃戦に移るぞ! 準備でき次第、移動開始とする! さあ、動け動け!」


 ドゥルバ将軍の発破に、兵士たちが大慌てで追撃戦の準備を済まそうと走り回りだす。

 俺は兵士たちの動きが良くなったことにドゥルバ将軍に対して感銘を受けつつも、急いで準備しても間に合わないだろうなと感じていた。


 ノネッテ国の兵士たちは、装備品と物資を持って歩くため進みが遅い。

 一方でガクモ王と魔物たちは、ほぼ手ぶらの状態であり、魔物たちの進む速度は動物だからこそ速い。

 きっとノネッテ国の兵士がキレッチャ国の兵士たちに追いつくより先に、ガクモ王と魔物たちの牙が突き立つ方が速いに違いないのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] こいつらと一緒に行動したせいで、かなりの悪評が広まりそうだけどね。
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