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三百十六話 急報

 国境付近の村々で無法地帯からやってくる野盗を警戒しながらも、ノネッテ国は平和な日々を過ごしていた。

 戦争の爪痕も大分薄れてきたところで、冬の季節に突入した。

 冬になると食料の不安があるわけだけど、領地を広げたノネッテ国では、その心配は要らない。

 ハティムティ国が熱帯雨林地帯ということは、彼の国に近い、グラバ地域にフォンステ地域とルーナッド地域では、冬にも作物が採れる程度に暖かな場所。小麦の二期作が可能だったりする。

 採れるであろう小麦の量に不安があるなら、ノネッテ本国が原産である一季節で作れる種類の豆ならば、冬の間でもそれら三地域で大量生産することができる。

 つまるところ、一年を通して食料を作ることが出来る場所ができたため、食料に関する不安はもう要らなくなったわけだ。


 ちなみに俺が治めるルーナッド地域では、小麦と豆を畑の総面積の半々で作らせている。

 豆の方が量が採れるけど、民が食べたがる方は小麦だ。

 なぜかというと、ルーナッド地域周辺に住む民衆は、豆は家畜用か飢饉の際の食料であり、小麦こそが人間の食べるべき主食だと思っているからだ。

 まあ、俺も豆料理よりも小麦で作るパンや麺の方が好きだから、気持ちはわかるけどね。


 そういった民衆の感情は理解しつつも、ノネッテ国が有する常備兵相手には食料の斟酌はしない。

 過剰供給気味の豆類は、ほぼ全て軍事物資として買い上げて、兵の食料に充てている。

 飢える心配が要らないから感謝して欲しいところだけど、兵の間では『昨日も豆。今日も豆。明日も豆、豆マメまめ』とうんざり気味らしい。

 ここは豆の消費を促進させるためにも、味噌や醤油の開発を命じるべきだろうか。

 いやまあ、俺は『豆を潰して発酵する菌を付ける』ぐらいしか作り方知らないから、食料開発を頑張ってもらう必要があるんだけどね。


 そんな風に食料に関することを考えていたところ、急報が来た。


「ミリモス王子、大変です! ハティムティ国が戦争に動きました!」

「ハティムティ国が? 狙いは、ノネッテ国か?」


 以前、ハティムティ国からの要望を断ったことがある。

 そのことを戦争理由にして攻め入ってきたんじゃないか、と俺は考えた。

 しかし違うらしい。


「それがその、ハティムティ国の周囲にある無法地帯を蹂躙しているようでして」


 『蹂躙』という報告に、俺は違和感を覚えた。

 これが雪が降る北の地域であれば、今の季節は冬であるため、食料を奪いにいっているんだと予想がついた。

 しかし、ハティムティ国の周辺では冬でも実りがある。食料を奪うために軍を動かす意味はない。

 となれば、別の目的があるわけだけど……。


「ハティムティ国の軍の動向は?」

「それが、無法地帯にある村や集落を全滅させて回っているようでして」

「全滅? 捕虜はとってないの?」

「女子供に至るまで、全て殺しているようです」


 俺は人的資源の徴収かと予想したが、それは違っていたようだ。

 ハティムティ国の行動の意味が図れずにいると、さらに報告が続く。


「それにハティムティ国の軍にも、少し不審な点がありまして。魔物が動向していないようなのです」

「魔物が? ハティムティ国の主力だったはずだけど?」

「主力ではありますが、魔物はハティムティ国の王のしもべ。彼の王が軍に同行していないのであれば、居ない理由に説明がつきます」


 なるほど。無法地帯の村や集落を潰すだけなら、魔物の力を使うまでもないということか。

 しかし、無法地帯の人々を殺しても魔物の食料にはしないあたり、本当に食料には困っていなさそうだな。

 相変わらずハティムティ国が軍を動かした目的は分からないけど、状勢が動きそうな予感がある。


「ハティムティ国だけじゃなくて、アナビエ国やキレッチャ国の情報にも気を配っておいて」

「わかりました。失礼します!」


 文官が去った後、ホネスが俺に声をかけてきた。


「暴れ回っているのはハティムティ国だけですよね。どうしてセンパイは、アナビエ国やキレッチャ国の情報を欲しているんですか?」

「彼の二国が動きそうな理由があるからだよ」


 俺は端的に理由を言ってから、詳しい説明に入る。


「ハティムティ国が周辺にある無法地帯を蹂躙して回ることで、蹂躙を受けた地の更に周辺地域に住む人たちは土地を捨てて逃げだす。逃げる先は、同じ無法地帯の村や集落はありえない」

「村や集落に逃げても、ハティムティ国の軍隊が来たら、また逃げなければいけないですもんね」

「なら、取れる方法は二つしかない。アナビエ国に行くか、キレッチャ国へ行くかだ」

「あれ? ノネッテ国には来ないんですか?」

「これまで、不法侵入した野盗を散々に退治してきた。身内を殺した恨みのある相手の下に行こうっていう人は、少ないと思うよ」

「じゃあ、エン国に行く人はいるんじゃないですか?」

「……なるほど。うっかり忘れていたよ」


 確かにエン国は、候補に入るだろう。

 でも、他の二国に比べると、国土が小さくて受け入れられる人数も限られている。

 無法地帯から来た難民を受け入れたところで、エン国に有利に働く材料はない。

 だからやっぱり、エン国も受け入れないんじゃないだろうか。

 そう判断を下し、無法地帯からの難民の行き先は、やっぱりアナビエ国とキレッチャ国の二つに絞り込まれると判断した。


「発生した難民の多くが向かうのは、キレッチャ国だろうね。あの国は、無法地帯に行商人を向かわせて、武器も売っていた。今まで助けてくれていたのだから、今回も助けてくれると考えるはずだ」

「センパイは、キレッチャ国が受け入れると思います?」

「そうだな……キレッチャ国が商人の国であるのなら、受け入れるだろうね。商いを行うにあたり、人手はあるに越したことはないし」


 キレッチャ国は海洋貿易国だ。

 この世界にだって大型船はあるだろう。そしてエンジン動力が無いのなら、大型船の推進元はオールの漕ぎ手になる。

 漕ぎ手が多ければ多いほど推進力が上がるんだ。手隙の人員が来たのなら、とりあえず漕ぎ手に就かせれておけば無駄がない。

 そんな予想を語って聞かせると、ホネスは納得顔になった。


「それじゃあ、ハティムティ国の周辺から逃げた人たちは、大部分がキレッチャ国に行って、少ない数がアナビエ国へ行く。これで騒動はお終いってことですね」


 ホネスは安心したように言ったが、俺はそれだけでは終わらないような予感がしている。

 難民が襲来した後の、アナビエ国やキレッチャ国の動向が気がかりになっていた。

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